いよいよ2019-20シーズンのUEFAチャンピオンズリーグが開幕した。
リヴァプールの6度目の優勝を経て迎えた今大会は、日本代表選手も複数出場し注目を集めている。
有力視される各チームの状況や今大会の注目選手について、DAZNでのUCL解説でお馴染みの川勝良一氏に聞いたぞ。
(取材日:2019年9月6日)
――昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグとUEFAヨーロッパリーグは、決勝に進んだ4チームがすべてイングランド勢でした。なぜプレミアのチームが欧州の舞台で結果を残したのでしょう?
プレミアリーグは、スピードと技術に加え、ボディコンタクトを受けた上でも落ちない技術、よくスキルと表現されますが、本当にスキルが必要なリーグです。
過去にもベスト4にイングランド勢3チームが残った年がありましたが(※マンチェスター・ユナイテッドが優勝した2007-08シーズン)、現地で見ていて当時から速くて上手いサッカーが印象的でした。
プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガ。4大リーグの解説をそれぞれ担当して、やはりプレミアは平均的なレベルが一番高いと感じます。優秀な外国人監督が他のリーグからどんどん入ってきて底上げされた部分も大きいですね。
――各国リーグの今シーズン序盤戦の印象はどうですか?
バルセロナは中心選手が負傷中ですが、アンス・ファティのような選手が出場し、ゴールも決めた。少し前にキリアン・エムバペが出てきたときも驚きましたが、若年化が進んでいるのを感じます。
ドルトムントのジェイドン・サンチョなども今シーズン見たら、さらに上手くなっている。
以前だと若くして成功した場合、そこを頂点に落ちていく選手も目立っていましたが、最近はあまり浮かれないというか、プレーへの影響が出てしまう選手が少なくなった印象です。
エムバペは昨年のワールドカップ以降若さを感じさせる変なミスが減りましたし、今シーズンのサンチョもドリブルなど自らの武器を出す場面以外でもチームにおかしなリズムを与えません。
賢くなったのか、失敗例をたくさん見てきたのか(笑)。とにかく若い選手たちの客観的な、大人なプレーは最近見ていて感じます。
――今大会のグループ分けはいかがでしょう?
個人的にはユヴェントスとマンチェスター・シティがそろそろ勝たないと…というシーズンですね。
シティはペップ・グアルディオラが監督になって4年目。監督はやはり3年4年が限界だと思いますし、ダビド・シルバも今シーズンで退団する。
シティがグループC(※シャフタール・ドネツク、ディナモ・ザグレブ、アタランタと同居)をどのような形で抜けるかには注目しています。
選手で見るか、それとも監督の戦術などで見るか。視点はいくつもあります。
クラブは代表と違って良い選手を集めて毎日トレーニングができますし、監督のスタイルを反映させやすい。“こだわり”を強く持っている監督やチームはやはり気になります。
――個人的に一つチームを挙げるとすれば?
一つであればシティですかね。グアルディオラ監督がやっていることは「正解」に近いと思っています。
あれだけの選手がいて、しかもその選手たちがシティでさらに上手くなっている。突破などをパターン化して試合中に何度も同じ形で崩させつつ、選手たちに自由も感じさせていて、本当に驚きます。
――日本人選手の所属クラブはどうですか?今大会には、長友佑都のガラタサライ、南野拓実と奥川雅也のザルツブルク、伊東純也のヘンクが出場しています。
ヘンクの試合をずっと見ていますが、伊東純也は“日本人らしくない”突破の仕方をします。
右サイドからガーっと入っていくとき、日本人選手の多くは相手に並びかけられたりするとすぐ切り返してしまいます。しかし彼の場合は、ググっと行ってコーナーキックを奪ったり、狭いスペースでも抜き切ったりする。
危ないと思ったら横パスやバックパスを選択する選手が多いなかで、伊東は強引、それでいて柔軟性もあります。ドリブルで切り込んでいったとき、リプレイで見ると彼と分かりますが、ライブだと日本人ではないように見えます。
だから彼のプレーは好きです。読まれていても抜いていく選手はたいしたもの。少し前であればフランク・リベリやアリエン・ロッベン。縦に行けるウィングプレイヤーは年々減ってきているので、UCLの舞台で頑張ってもらいたいですね。
リヴァプールやナポリが相手だとなかなか攻める時間はないかもしれませんが、だからこそ逆に個人技が武器になると思います。
――長くチャンピオンズリーグを見てきて、どのような変化を感じていますか?
実力差が詰まってきていると思います。
以前はグループステージで大敗するチームも目立っていましたが最近は少なくなりましたし、トップのレベルが上がる一方で下のクラブもどんどん力をつけています。特に最初の3節くらいはいわゆる楽なゲームがほとんどないですね。
あと、選手の「UCLに出たい」という気持ちが以前より強くなっている印象です。UCLは毎年行われますが、選手たちと話していても下手をするとワールドカップより意欲が強いかもしれない。
やはり“世界選抜”を組めるのはUCLなので、監督のマネジメントや浸透度、質が問われる分、毎年変化しているように見えます。
――今シーズンのUCL、優勝するのはズバリどこですか!?
難しいですね。絶対に当たらないもん(笑)。
まあ、シティにしたいですかね。バルサで獲ってからもう8年も経っていますし、複数のクラブでビッグイヤーを掲げている監督は何人もいますから、ペップももうそろそろという感じがします。
――スペイン勢で一番上位に来そうなクラブは?
グリーズマンが引き抜かれても、アトレティコは相変わらずアトレティコです。それだけディエゴ・シメオネの存在が大きい。
UCLとUELでそれぞれ1回ずつ、アトレティコが出場したファイナルを現地で見ていますが、彼らは決勝前日でも通常通りの練習をやっていました。
90分のフルメニュー。レアル・マドリーなどはボール回ししかやっていないんですが、アトレティコはたとえばショートダッシュでコーチのオスカル・オルテガ(※プロフェッサーの愛称で知られるフィットネスコーチ)が「アップの走り方がおかしい」と指摘し、高校のようにアップのやり直しを命じたりしている(笑)。
華はあまりないですが、アトレティコのようなチームがバルサとレアルの上へ行くシーズンがあってもいいかなと。
バルセロナはメッシとスアレスの怪我も心配ですが、最近気になるのはセルヒオ・ブスケツ。どうもプレーに波があって、良いプレーがある一方で彼らしくないミスも見られます。
ずっとクラブを支えてきたピケ、ブスケツ、イニエスタ、メッシという縦のラインからイニエスタが抜け、ブスケツもやや不安定。アルトゥールなど新しい選手がそこを担うことができるようになればまた違う強さが出てくるように感じます。
ただ、少し前にバルサを分析するため彼らの試合を何十試合も見たんですが、攻撃が停滞したとき、それを打開しているのはやはり6~7割がメッシでした。
ここは絶対にボールを奪われるという場面でも、メッシだから奪われていない。決定機も同様で彼だから当たり前のようにゴールを決めます。ラストパスではないパスを自力でラストパスにするメッシがいるから成立している部分がバルサには間違いなくあると思います。
レアルに関しては…まあよく分からないチームです(笑)。
――最後に、今大会の注目選手、「俺のUCL神推し」を教えてください!
個人的にはPSGのマルキーニョスです。
やっぱり彼は上手い。コパ・アメリカのブラジルを見ていても、ネイマールよりもこういう選手のほうがいないと困るという典型的な一人でした。
試合を観ていて、多くの人は点取り屋あるいは10番タイプの選手に目が行くと思います。ただ私が読売クラブでプレーしたころ、味方にいて頼もしかったり、相手にしていて嫌だなと感じるのはマルキーニョスのような選手でした。
センターバックとボランチができ、体はそれほど大きくないですがコンタクトに強く、なにより読みが鋭い。パス出しも無難にできますし、カバーリングも的確です。
あとよく言うのは、相手選手との勝負において“引き分け”を知っている。1対1で勝つか負けるかだけではなく、自分がプレーできないけど相手にもプレーをさせない。そういうことができる選手です。
ユヴェントスのジョルジョ・キエッリーニなんかもそうですが、こういうタイプの選手は本当にずる賢い。
だから、マルキーニョスのコンディションが良く、彼がちゃんとプレーできるような前後の絡みを構築できればPSGも面白いですね。私はマルキーニョスはボランチで使ったほうが良いと思います。
こういう選手にぜひ注目してほしいです。サッカーは11人対11人でやりますが、最終的には1対1、個人のところでの相手に対する優位性が重要です。その点で言うと、マルキーニョスの「1」は非常に大きくて、2人分3人分くらいの価値がある。
この選手を見ているだけでもいつも唸るというか、セレソンのときも良い選手だなぁと思いながら見ています。
基本的に現役時代テクニシャンとしてプレーしていたのでテクニカルな選手が一番好きなんですが、テクニシャンの目線で見ていて、すべて読まれているように感じてしまうのがマルキーニョスです(笑)。
ちなみに、前のポジションで好きなのはリヴァプールのロベルト・フィルミーノ。
読売クラブにいた人たちが彼を見たら、全員が上手いと言うと思います。それくらい、本当に上手い。個人的にはネイマールよりもフィルミーノのほうが上手いと思います。
誰にでも合わせられますし、ストリートの匂いを残しつつ、でも近代サッカーに必要なスピードなども備えている。
彼のような選手を見るのは楽しいですね。人柄が大人しいのでブラジル代表ではネイマールに譲ったり遠慮がちにしていますが、ブラジル人も皆フィルミーノは上手いと言っています。
ネイマールのことは特に好きでも嫌いでもないですが、あれだけボールを奪われていいならそりゃ好きなことができますよ(笑)。
「一般の人にもサッカーの楽しさが伝わりやすいよう、解説ではプレーについて話すよう心をがけています」という川勝良一氏。独特な視点での選手評はさすがの一言だ。
今大会では、マルキーニョス、そしてロベルト・フィルミーノのプレーにぜひ注目してほしい。