観光地化する歌舞伎町、訪日外国人の行き着く先が「ゴールデン街」の訳

「ビジット・ジャパン・キャンペーン」と称した政府の訪日観光客の取り込み活動により、海外からの旅行者数が右肩上がりに増えています 。“インバウンド”という言葉もすっかり浸透。私が取材を続ける大歓楽街、新宿・歌舞伎町もご多分に漏れず、インバウンド花盛りです。

街には外国人観光客が溢れており、昼間はそれこそ観光地然とした雰囲気です。メイン通りである「一番街」の入り口に観光バスが停まり、バスから降りてきた観光客たちが「TOHOビル」方面へ、「ゴジラ」前で記念写真を撮り、大型ショーパブ「ロボットレストラン」を楽しみ、そしてバスへ戻る。そんな光景をよく見かけます。

ただ、やはり注目は夜、ネオンが煌めき「眠らない街」と形容される時間帯です。


行き場を無くして、路上でお酒を飲み始める外国人が良く見られます

「歓楽街」を目指してきたが……

みなさんは、外国人観光客たちが歓楽街をどのように楽しんでいると思いますか?

外国人観光客たちからこんな声がちょくちょく聞こえてきます。「Kabukicho is red light district, right ? No, it's boring.Where is the brothels for foreigners ?(歌舞伎町が歓楽街だと聞いてやって来たんだけど、つまんないね。外人向けのセクシー店、ないのかよ?)

突っ込んで聞けば、「日本語の看板ばかりで読めない、どんな店なのかわかんないし、そもそも外国人が入っていいのか判断できないし、途方にくれる」ということらしいのです。

その言い分は理解できます。実際、彼ら“途方組”の目線で街を眺めてみれば、「foreigners OK(外国人オッケー)」と書いた看板を掲げている店や、英語のホームページを作っている店もなくはないのですが、その数は非常に少ないのです。そこには、インバウンド増についていけない歓楽街の現状が横たわっています。

「ポケトーク」で対応する店員も

そんな中、私が注目したのは、歓楽街ではおなじみのお店紹介スポット「無料案内所」でした。近年、多くの歌舞伎町の案内所で、外国人対策が講じられています。彼らはとにかく言語の壁を乗り越えるようと努力しているようです。店頭に「English(英語)OK」「Korean(韓国語)OK」「Chinese(中国語)OK」という看板を掲げたり、接客スタッフにハンディ通訳機「ポケトーク」を持たせたりしているのを見かけます。

しかし、そんな案内所の一つに話をうかがってみると、現実はそう簡単ではないようです。

「外国人のお客様が来られることはよくありますが、実際のところ、なかなか難しい現実もありまして。例えばキャバクラに行きたいと相談されたとします。案内できるお店はあるんですが、そのお店の女の子全員が英語ペラペラか、中国語ペラペラか、というとそうではない。在籍の女の子たちの中の一人が英語がしゃべれて、一人が韓国語がしゃべれて、みたいな感じなんです。だから、お客様が来られたときに、しゃべれる女の子が出勤していなかったら、ゴメンナサイになるわけです」

さらにこうも続けます。

「難しいのは、言葉の壁だけではないんです。外国人オッケーを謳っているお店でも、実際にオッケーなのは白人とアジア系だけ、ということがけっこうあります。文化が違うことから過去にトラブルがあったなどの理由により、受け入れにくくなっているようです」

看板の日本語は読めないし、案内所にも頼れない。となると、外国人観光客たちはどう動くのでしょうか。

1年ほど前より、行政が英語での「客引きにはついて行かないで下さい」というアナウンスを街のいたるところで流しているのは、困り果てた途方組が客引きに頼り、そしていろいろとトラブルが起こっているという現れかもしれません。

ゴールデン街に吸い寄せられる

では、結局、途方組はどうするのでしょうか? お遊びを諦めるのでしょうか? あるいはリスク覚悟で客引きに頼ってみるのでしょうか? 彼らに尋ねると、大半がこう答えてくれます。

「Anyway, I will go to GOLDEN GAI.」(とりあえず、ゴールデン街にでも行ってみる)

ガイドブックに載っているからというのがその理由らしいですが、ご存知の通り「ゴールデン街」は細い路地にバーが並んでいます、情緒こそありますが、お遊びスポットはありません、言わば単なる雰囲気のいい飲み屋です。つまり途方組の大半が「つまんない」と思いながら“お遊びを諦める”わけです。

ならばと、そんな彼らの行き着く先に目を向けてみましょう。

ゴールデン街は、今や外国人観光客のメッカです。国籍としてはアジア系よりも欧米系が主流で、1階のバーなどはだいたいどこも、日本人客よりも欧米系観光客のほうが多いような状況です。

対してバー側はもちろん、インバウンド対策に必死です。英語バージョンのメニューを用意したり、日本特有の料金システム「チャージ」を廃止したり。かつては、ゴールデン街の店主たちが欲しがるバイトスタッフと言えば“おっさん客にウケそうな気立てのいい若い女性”でしたが、現在はそれが“英語がしゃべれる人間(男女問わず)”になっています。

そんな対策が奏功してか、毎晩、ゴールデン街は、外国人たちで大賑わい。飲み屋街の入り口にあるバー「チャンピオン」などでは、朝方まで英語のカラオケが響いています。

人種によって目的地に違いもありますが、多く訪れる外国人観光客の「定番コース」は、現状ではこの程度です。

政府の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、2020年の目標人数4,000万、2030年の目標人数6,000万を掲げています。今後、歌舞伎町にはさらに外国人観光客が増えていくはずです。歓楽街に何を求めるかは人それぞれでしょうが、「期待外れだった」と帰っていく訪日観光客への対策を、少し考えたほうがよいのかもしれません。

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