なぜオールブラックスは強いのか?「キャプテン翼」高橋陽一先生との交流で見せた素顔

ラグビー・ニュージーランド代表「オールブラックス」と、サッカー漫画「キャプテン翼」。世界中のファンから愛され、尊敬される彼らが、ラグビーワールドカップ2019日本大会を目前に控えた秋晴れの日、幸せな邂逅を果たした――。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=長尾亜紀)

※写真左から、リコ・イオアネ、高橋陽一先生、アントン・リナートブラウン、アトゥナイサ・モリ

オールブラックスがやって来た!

「コンニチワ~」

少し背をかがめながら扉をくぐってきた彼らは、控えめにあいさつの言葉を口にした。185cmを超える大柄な男たちは、コートの上では決して見せることのない、やや緊張した面持ちで小さくかしこまっているようだった。

オールブラックス、それはスポーツ史上で最も成功しているチームの一つだ。約125年に及ぶ歴史において、約4分の3の試合で勝利を収め、ラグビーワールドカップでは史上最多3度の優勝、唯一の連覇を果たしている彼らの戦いに、世界中のファンが熱狂する。

ラグビーワールドカップ2019日本大会の開幕を控えた9月某日、リコ・イオアネ、アントン・リナートブラウン、アトゥナイサ・モリの3選手が、「キャプテン翼」の作者・高橋陽一先生の元を訪れた。

「キャプテン翼」といえば、シリーズ累計発行部数が国内外で8000万部を超え、世界で最も愛されているサッカー漫画といえるだろう。あのリオネル・メッシをはじめ、世界中のサッカー少年少女に大きな影響を与え続けている。

まさにそれぞれの分野で「世界最高峰」を極める両者が、ひとときの交流を楽しんだ。

3人はまず、高橋先生がイラストを描くアトリエに足を踏み入れた。普段の生活の中で目にすることのない光景を興味津々に眺めるその姿は、さながら好奇心にあふれた子どものようでもあった。

「『キャプテン翼』を描き始めて、どれぐらいたつんですか?」
「セリフも先生が考えているんですか?」
「1ページ描くのに、どれぐらい時間がかかるんですか?」
「サッカーが好きなんですか?」

次から次へと湧き出てくる疑問に、高橋先生は一つずつ丁寧に答えていく。

「20歳のころからなので、もう40年近くになりますね」
「セリフも考えていますよ」
「(1ページ描くのに)2~3時間ぐらいですね」
「(サッカーは)好きですよ」

たわいない雑談に緊張が和らぎ、少しずつ興奮が高まってきたオールブラックスの3人は、あるお願いを口にした。

「自分たちもイラストを描くのにチャレンジしてみたいです!」

オールブラックスたるゆえんが垣間見えた一幕

笑顔で快諾してみせた高橋先生はまず、見本となるイラストをその場で描き始めた。

ものの2~3分ほどで「大空翼」が描き上げられたその様子に、思わず感嘆の声が漏れる。

3人は早速、イラストを模写し始めた。

さっきまで無邪気な笑顔を見せていた彼らの顔つきが、一瞬にして変わった。「誰が一番うまく描けるか」を懸けた余興は、勝負の世界に身を置く男たちにとってもはや“遊び”ではなくなったのかもしれない。

どんな勝負だって絶対に負けたくない――。

そんなフローに入っている彼らの姿を見るにつけ、オールブラックスがオールブラックスたるゆえんを垣間見た気がした。

高橋先生は出来上がった3人のイラストを眺め、「甲乙をつけがたいですね。3人とも自分自身に少し似たところがあります。でも1番はモリ選手。目がポイントです」と、最後にはちょっとしたおふざけでひげをちょい足ししたモリのイラストを最優秀賞に選んだ。

「オールブラックスのジャージを着るのは誇らしい」

翼の絵を描いてみた感想はいかがですか?

リコ・イオアネ(以下、リコ):どうやって描いたらいいかわからなかったので先生のイラストをコピーしようと思ったんですけど、ちょっとスキルが足りなかったなと(笑)。

アントン・リナートブラウン(以下、アントン):もともと絵がうまくない自覚はあったんですけど(笑)、やってみて楽しかったです。

アトゥナイサ・モリ(以下、モリ):先生は描くのがすごく早かったので、そういうふうにできたらいいなと思ったんですけど、仕上がりはこんな感じです(笑)。

「キャプテン翼」を読んでみて、何か感じたことはありましたか?

リコ:ニュージーランドには、例えばマーベルアニメーション(※スパイダーマン、アベンジャーズ、アイアンマンなどのアニメ制作会社)のスーパーヒーローが活躍するような漫画ばかりなんですけど、日本ではこういうサッカーを題材にしたものがあるというのにびっくりしました。

ラグビーの練習にもぜひ参加してもらって、タックルとかもやってみてもらいたいですね(笑)。

高橋先生はいろんなスポーツをやっていて、今はフットゴルフのアンバサダーも務めているんですけど、それなら一緒にやれるかもしれませんね。

オールブラックス:ワオ! フットゴルフは知っていますよ!

高橋先生はオールブラックスにどんな印象を持っていますか?

高橋陽一先生(以下、高橋):やっぱり「世界一」というイメージですね。ニュージーランドは、他のスポーツはそこまですごく強いというわけではないのに、なぜラグビーは圧倒的に強いんですか?

アントン:みんな小さいころからラグビーが周りにある環境で育っているため、スポーツが得意な子はみんなラグビーを選びます。それがやっぱり強さの理由なんだと思います。

ニュージーランドの人たちにとって、オールブラックスのジャージを着るというのはどんな意味があるのですか?

アントン:黒というのはニュージーランドのナショナルカラーでもあるんですが、やはりオールブラックスのジャージを着るのは誇らしい気分になります。

柏の子どもたちが「ハカ」でオールブラックスの皆さんを歓迎するのを見てどんなふうに感じましたか?

リコ:衝撃を受けましたね。日本の子どもたちがやってくれたということもすごくうれしかったですし、特にハカのセリフも正確に再現しているのがすごかったです。

オールブラックスの選手たちにとって、ハカにはどんな意味があるのですか?

アントン:試合に向けて力がみなぎってきて、気持ちが高まります。

「黒いジャージを着るからには常に100%を出し切る」

高橋:ワールドカップでは皆さん優勝を目指していると思いますけど、例えばサッカーのワールドカップでは、ブラジル代表はグループリーグにはそこまで全力でいかず決勝に向けてだんだんコンディションを上げていくと聞きます。オールブラックスの皆さんも同じようにだんだんコンディションを上げていくのか、それとも初戦から一試合一試合全力でいくのか、どちらなんでしょうか?

リコ:どのゲームもこれがラストマッチと思って戦っています。特に今回のワールドカップ初戦は南アフリカというとても強いチームなので、コンディションを上げて、その後の試合に自信をつけていきたいと思っています。

コンディション調整はしないんですか? 1カ月半にも及ぶ大会全ての試合を全力で戦って、決勝までもつものなんですか?

モリ:オールブラックスは常に勝つことが求められているので、この黒いジャージを着てプレーするからには100%を出し切って、ベストなラグビーを見せたいと思っています。

高橋:点差がついたりすると、人間なので、やっぱり緩むこともあるのかなと思うんですけど。

アントン:実はやっぱりそういうメンタルはどうしても起きてしまうので、そうならないようにといつも話しています。

日本代表とも準々決勝で対戦する可能性がありますが、日本代表チームをどのように見ていますか?

モリ:日本はすごく伸びているチームだと思っています。前回大会で南アフリカに勝ったというのもありますし、すごくいいチームです。

リコ:昨年実際に日本代表と対戦する機会がありましたが、日本のファンもすごく熱狂的で、雰囲気も良かったですし、バックスに速い選手が多かったのでタックルするのが大変でした。

オールブラックスの試合を見ていると、フィジカルの強さはもちろんですが、チームがまるで一つの生き物のように連動しているように感じます。オールブラックスはなぜこんなにも強いのでしょうか?

アントン:チームの文化というのは大きいと思います。チームメイトがお互いにサポートすることもそうですし、みんながここまでやらなきゃいけないという目標や責任、また周りからの期待というのを常に意識しながらやっています。

オールブラックスの皆さんから高橋先生に聞きたいことはありますか?

モリ:何か新しいキャラクターは考えているんですか?

高橋:はい、常に新しいことはやろうと思っています。最近では、ブラインドサッカーという視覚障がい者サッカーの物語を描きました。

アントン:漫画の作者として、一番誇らしかった瞬間はありますか?

高橋:やっぱり、日本だけでなく世界の人々に読んでいただいて、面白いって言っていただけるのが、自分のサッカー観とか、描き方が間違っていなかったんだって思えたので、それが誇らしく思いますね。

対談後、高橋先生からはオールブラックスのジャージを着た大空翼のイラストを、オールブラックスの3人からはサイン入りのラグビーボールをそれぞれ贈り合った。

アントン:素晴らしい絵をいただいて、こちらに来る機会をいただけて、オールブラックスを代表してお礼を申し上げます。ありがとうございました!

高橋:ちょっとでもリラックスしていただけたならうれしいです。ワールドカップ、頑張ってください!

それぞれの分野で「世界最高峰」を知る者同士だからこそ通じ合う何かがあったのだろう。交流の時間は終始和やかで、お互いをリスペクトし合う温かな空気に包まれていた。

スポーツを通じて生まれた幸せな絆は、この先もずっと続いていくに違いない――。

<了>

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