利回り7%の「JT株」を買う投資家が見落としているかもしれないリスク

あのたばこ株の配当利回りが7%を超えた――。市場関係者の間で今話題になっているのが、日本たばこ産業(JT)の予想配当利回りです。

その利率は、今月初頭に一時7%を超えました。みんなが知っている大企業で、国営企業の流れをくむJTが、普通預金金利の何十倍、何百倍にも上る利率となっている状況です。この条件が魅力的に映るのか、個人投資家の間ではJT株を購入しようかと迷う声もチラホラと聞かれます。


1年前時点の利回りは5%だった

JTの利回りについては、過去何度か、すでに話題になっている点に注意が必要です。

同社の配当利回りは2018年10月に5%を明確に超えてから、同年12月に6%、2019年8月に6.5%、今月頭に7%と、少なくとも過去4回にわたり、節目となる水準を超えてきました。

一方で、JTの株価は配当利回りと対照的です。株価は2018年9月14日の始値3,005円から、2019年9月13日の終値2,345.5円まで下落しました。つまり、この1年でJT株は22%以上も値下がりしているのです。

1年前に5%の配当金目的で購入した投資家は、配当金以上の損失を抱えている可能性もあります。配当利回りが高い株を購入する際には、その裏に隠れたリスクにも注意が必要です。

配当利回りはリスクの指標にもなる?

利回りが高いと聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。たとえば、「100万円払えば、年50%の利回りが得られます」といった商品を紹介された時、「ちょっと怪しい」と考えるのではないでしょうか。このように、利回りの裏にはそれなりのリスクがついている、という考え方が一般的です。

もう少し金融に近い例を挙げるとすれば、国家間の金利格差です。日本の30年国債利回りは年率0.34%ですが、新興国のトルコの政策金利は足元で年率16.50%です。トルコの政策金利は日本国債と比較しても、かなり高い水準にあります。

その背景には、トルコに投下した資金を回収できなくなるリスクや、インフレーションによる通貨の価値毀損リスクが、日本と比べて高いとみられていることがあります。

ここで挙げている日本国債の利回りは、日本政府が信用危機に陥るリスクと、そのリスクを負って運用する際のリターンが0.34%で均衡していることを示しています。一方で、トルコに投資する際は、少なくとも年間16.50%の利率でなければリスクを負うだけのリターンが見合わない状態であるということになります。

ちなみに、トルコは2016年11月に政策金利を0.5%上げて8%に上昇させて以来、政策金利が上昇基調でした。しかし、当時32円ほどであったトルコリラの価格は、足元で18.95円程度と31%以上の下落を示しています。

このことは、FXなどでレバレッジをかけてトルコリラを取引する個人投資家が致命的なダメージを負ったことでご存知の方も多いかもしれません。このように、利回りの高低はリスクの裏返しという側面もあるのです。そうすると、配当利回りも状況によっては、リスクを測る指標として活用することができそうです。

機関投資家がJT株を買わない理由

筆者は、市場と比較してかなり高い配当利回りを示している株式には、それなりのリスク要因があると考えます。なぜなら、それが本当にお得な配当利回りであれば、機関投資家が見逃すはずがないからです。多額の調査費を掛け、アナリストを多数擁するはずの機関投資家がJTのような大型銘柄をチェックしていないということは考えがたいでしょう。

JTのように株価が下がっているにもかかわらず、配当利回りが上がる場合を考えてみましょう。この場合、配当利回りの増加は利益の成長に基づく配当の積み増しではなく、株価の下落による単純な配当性向の増加によってもたらされているという側面が強いです。

このような事情でもたらされる配当利回りの増加は企業の利益成長を伴わず、何もしなければ利益が減少してしまう可能性があります。そうすると、今の株価で配当利回りが7%であっても、1年後はそれ以下に低下するリスクがあります。

たとえ今の配当利回りが一見高くても、価格変動のリスクや配当が継続的に支払われないリスクが見合わなければ買いが入らないという状態に陥る危険性があるわけです。

現在、市場関係者の間ではESG投資、SGDs投資という考え方がトレンドになっています。これらの概念は環境・社会・企業統治ないしは、社会の持続的成長といったものを評価尺度にしたうえで、それに適合する銘柄をファンドに優先して組み入れ、運用する考え方です。

ESG投資、SGDs投資を推進する立場の主張としては、これらの基準を満たしている企業ほど、将来のパフォーマンスが高まるという点が挙げられます。実は、JTはそのトレンドと対立する会社とみなされているようです。

JT株投資に光明はないのか

ただし、「運用機関から除外されがちである」という要因は、どちらかというと需給ベースでの値動きであるため、実際の喫煙者の減少率を超えて安い価格がついている可能性も否定できません。

さらに、JTはESG・SGDsの趣旨に近い医療事業についても力を入れているとみられます。同社のIR資料によれば、2015年度の営業損益が23億円の赤字であった医療事業は継続的に成長し、2018年度に263億円の黒字にまで収益が改善しました。この金額は、JT全体の営業利益5,650億円のうち4.65%を占める水準です。

現状のところ、JT株が下落基調から脱出できず、配当利回りが上がっている背景には、たばこ主体のビジネスについて運用機関からの風当たりが強くなっているという要因もあるでしょう。

しかし、新たなビジネスの創出・転換により、「環境や持続的成長などに貢献する企業である」と機関投資家にアピールすることで資金がJTに戻り、株価の上昇をもたらす可能性もないわけではありません。

足元では配当利回りが高まっているという一連の報道もあり、いったんの反発を呈していますが、その水準がはたして“底”となるかは機関投資家やJTの今後の姿勢を注意深く観察していく必要があるでしょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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