F1新時代を開く2人。それがフェルスタッペンとルクレール

チームゆかりのオーストリアGPでホンダに13年ぶりの優勝をもたらし大喜びするフェルスタッペン(左から二人目)とチーム関係者(C)Red Bull

 頭角を現す。新たな才能が出現したときによく使われる言葉だ。

 これをスポーツの世界に当てはめると、現し方はまさに千差万別といえる。例えば、プロ野球の巨人や大リーグのニューヨーク・ヤンキースなどで活躍した強打者・松井秀喜氏。1992年に石川県の強豪・星稜高校からドラフト1位指名され、まさに「鳴り物入り」で巨人に入団した。ところが、ルーキーイヤーである93年のホームランは11本。翌94年は20本、3年目の95年は22本に終わった。もちろん、高卒ルーキーとしては十分に立派な数字だ。それでも、6歳上の清原和博氏が86年に高卒ルーキー記録となる31本をマーク。続く2年間も29本、31本の本塁打を打っていたことと比較すると、やはり見劣りしてしまう。

 そう。この頃の松井氏は、一流ではあるが超一流という訳ではなかった。

 それが、4年目の96年に覚醒を果たす。ホームランを38本放っただけでなく、打率は3割1分4厘で初の3割超え、打点も99と文句なしの数字を残した。入団時から続けていた長嶋茂雄監督=当時=との練習が実を結んだのだが、それ以降にプロ野球で残した成績は圧巻だ。巨人を退団する2002年まで本塁打が30本を下回ることはなく、2度の40本と50本も一度記録した。もっとすごいのは打点で、2000年からヤンキース時代の05年まで6年連続で100を上回ってみせた。松井氏はプロ入り4年目に強打者としての頭角を現したのだ。

 さて、モータースポーツではどうだろう。残念ながら、「頭角を現す」という表現を用いることはなかなか難しい。それは、マシンの性能差という大きな「フィルター」が掛かってしまうから。加えて、トップチームからデビューを果たすことはまず不可能。例外と言えるのは、07年にマクラーレンのシートを得た現チャンピオンでメルセデスのルイス・ハミルトンくらいだろう。

 つまり、ほとんどのドライバーが格下のチームで自身の非凡さを証明しなくてはならないのだが、それを成し遂げたドライバーがいる。通算91勝に年間王者7度といった数々の史上最多記録を持つミハエル・シューマッハーである。シューマッハーは1991年のベルギーGPで中団グループに位置していたジョーダンでデビューすると、いきなり予選7番手に食い込んでアピールに成功。すると、続くイタリアGPで前年の製造者部門3位だったベネトンに引き抜かれた。

 そして、翌92年。F1デビューを果たしたベルギーGPで当時最強を誇っていた「マシン=ウィリアムズ ドライバー=ナイジェル・マンセル」というパッケージを打ち破り初優勝。一気に頭角を現したのだ。

 そして、現在のF1において、次世代王者候補として頭角を現したドライバーが2人いる。レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとフェラーリのシャルル・ルクレール。ともに97年生まれの21歳だ。

 フェルスタッペンは2015年に史上最年少の17歳165日でF1デビューし、その後も初優勝や初ポールポジション(PP)など数々の史上最年少記録を更新している。一方のルクレールは初参戦こそ昨年と遅れたが、今季は9月1日に決勝を行った第13戦ベルギーGPで初勝利をつかむと続く第14戦イタリアGPで連勝を飾り、フェルスタッペンと並ぶシーズン2勝をマークしている。

 勝利の内容も良い。フェルスタッペンの今季1勝目は第8戦オーストリアGPだったが、ホンダにとっては05年ハンガリーGP以来13年ぶり、レッドブルにとってもチームのホームGPというメモリアルな勝利となった。ルクレールも負けていない。2勝目のイタリアGPは、フェラーリにとって9年ぶりの本拠地優勝だった。どちらも「頭角を現した」という言葉がぴったりの仕事をしている。

 「頭角を現し」、新時代を切り開くのは常に若者の役目だ。今季14戦で8勝を挙げるなど依然、圧倒的な強さを見せている王者ハミルトンもすでに34歳。これから力が大きく伸びることは期待しづらい。そこを踏まえると、カート時代からしのぎを削っている2人が次世代の扉を開け、F1の新時代を切り開いていくのは間違いないだろう。

 同時に、次のようなことを願ってしまう。こうした新時代を切り開くドライバーのリストに日本人の名前が載ってほしい、と。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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