“IKIMASU”の思いを胸に~被災地支援活動を通じて生まれたもの~

2014年の広島土砂災害、2016年の熊本地震、そして昨年の西日本豪雨。災害が起こるたび被災地へ向かい、被災者に寄り添いながら復旧活動を続けた空手家がいる。「IKIMASU.熊本」「IKIMASU.広島」というボランティア団体を設立し、メンバーは今も活動を続けている。

「被災地支援を続けることで、たくさんの良き仲間ができた。また、落ち込んでいた自分を見つめ、空手道について改めて考えるいい機会になった」と振り返る竹内大策さんに話を聞いた。

大阪出身の竹内さん。中1のとき、空手の選手である父の影響で、自身も空手を始めた。2006年4月、24歳で「空手家として生きていく」と誓い、あえて知り合いのいない広島市安佐南区へ移住し、空手道場を開いた。現在、空手道 真義館広島支部長として、県内7カ所の道場を巡回し指導する毎日だ。

 

2014年8月に起こった土砂災害では、当時住んでいた家の近くが被災し、知人に誘われてボランティアに行った。災害現場は、社会福祉協議会、個人ボランティア、NPOなどが一斉に集まりバラバラに動いていて、殺伐とした雰囲気だったという。

そんな現場を目の当たりにした竹内さんは、「惜しみない愛」「衝突から調和へ」「損することに屈しない」という空手道の教えを思い出した。

(竹内さんのフェイスブックより)

空手の選手として競技に出場していた竹内さんは、2008年に現役を引退。以後、「自分は空手家として何ができているのか?」を自問自答していた。競技と違う、指導者としての未来を模索していた時期だったそう。

しかし、災害と直面し吹っ切れた竹内さん。「空手道の教えを胸に、今まで習ったことを全てやろう」と一念発起し、社会福祉協議会や災害ボランティアの専門家の協力を得て、約2カ月にわたりボランティア活動に関わった。「自分が自分がと我を張るのではなく、それぞれができることをやればいい。空手の思想が行動に移せ、実践の仕方に気付くことができました」と振り返る。そのスタンスは、その後の熊本地震、そして平成30年西日本豪雨にも生かされることになる。

(竹内さんのフェイスブックより)

2016年4月、熊本大震災が起きた時は、「物資があっても取りにいけないお年寄りがたくさんいる」と聞き、単身で現地へ向かった。その際、広島土砂災害の時の感謝と恩返しの気持ちでやってきたという内容の手紙も配布した。

被害が大きかった熊本県上益城郡益城町に立ち寄った時。被災地で一生懸命活動する若者たちと知り合う。支援物資を入手するルートを開拓していた竹内さんは、物資を届けたくてもその入手手段がなくて困っている彼らと一緒に活動することを決める。これが「IKIMASU.熊本」の発足のきっかけだ。「IKIMASU.熊本」のメインメンバーは5人、活動に関わった人は数限りないという。

(竹内さんのフェイスブックより)

「IKIMASU.熊本」のIKIMASUには、生き抜きますという意味と、誰から何を言われても行きます、という思いがこもっている。

「IKIMASU.熊本」を立ち上げた竹内さんは、震災後3回、現地に入って支援活動を行い、リーダーに後を託した。

「自分がずっと熊本にいるわけにいかない。あとは地元の人たちで頑張ってもらわねばならない。でも、広島から何か後方支援がしたいと思ったんです」と竹内さん。

自分に何ができるか考えた時、「詩を書いて、ボランティア仲間であり友人のシンガーソングライター、十輝(とき)さんに曲を付けてもらいCD販売し、売り上げをIKIMASU.熊本に届けてはどうか」と思い至った。

 

そして完成したのが、CD「あいにいきます」。
広島県内の10カ所でワークショップとライブを開催し、同時にCDを販売した。
あと少しだけだが、希望者に販売可能だそうだ。

(竹内さんのフェイスブックより)

昨年起きた西日本豪雨。

発災直後の7月7日、さまざまな情報があふれる中、竹内さんはあえて動かず「どう動こうか」と冷静に思いを巡らせていたという。

そんな中、思い出したのは、かつて一緒に被災地支援を行ったIKIMASU.熊本の仲間のことだった。自分も広島で頑張っている、だから熊本も頑張ってほしい。そんな思いから、「IKIMASU.広島」をまず、立ち上げた。7月10日のことだった。

(竹内さんのフェイスブックより)

すると翌日、IKIMASU.熊本から2人が、はるばる熊本から物資を積んでやってきた。十輝さんや友人、多くの人が集まった。広島ゲストハウス縁のオーナーは、ボランティアを割引して宿泊させてくれたほか、ボランティア派遣にも一役かってくれたという。IKIMASU.広島の元へは、全国からのべ100人以上が来てくれた。

(竹内さんのフェイスブックより)

竹内さんたちIKIMASU.広島は、被害が大きくボランティアが行きにくそうな江田島市、瀬野、安浦、小屋裏、矢野東をメインで支援した。

「ポジションは問いません。誰かの下でも構わない」

自分たちが主役ではなく、被災者に寄り添った体制で支援を続けた。

(竹内さんのフェイスブックより)

被災地の復興が進み、災害のことを忘れそうになる半年後の12月29日。

竹内さんたちはチャリティーフェスの開催を決めた。フェスの特徴は「出演者にはギャラを払う。収益は、災害支援活動を行う民間団体に渡す」というものだ。

竹内さんは、「ボランティアといっても、スコップを持つだけではない。支援金を出せばいいというわけでもない。人と人との交流、例えば被災者のもとへ会いに行くだけでも支援になるんです。そこには愛があり、愛があるからこそ前向きになれ、命を大切にできる。だから今回は、多くの交流と愛を生んでくれた出演者にギャラを払うことにしました」と、その時の思いを話してくれた。

(竹内さんのフェイスブックより)
DVD、けん玉(各4500円)は販売中。購入希望者は竹内さんに連絡を(090-1919-8021)。送料無料。売上はIKIMASU.広島の活動費として使われる

竹内さんが今でも心に留めているのは「惜しみない愛」「衝突から調和へ」「損することに屈しない」という空手道の教え。このメッセージを、自分たちの活動の中から伝えていきたいという思いは、3つの被災地支援活動を通じて変わらず、ぶれることはない。そして、竹内さんの、IKIMASU.広島の活動も、途絶えることはない。

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
編集 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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