「ビール切らすな」 飲食店も商戦開幕 ラグビーW杯

ラグビーW杯の優勝杯がデザインされたハイネケン。キリンビール横浜工場では出荷を待つ段ボールが山積みになっている=横浜市鶴見区

 ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が20日、開幕する。肉弾戦を演じる選手に負けず、ファンは大酒飲みの強者(つわもの)ぞろいだ。とりわけ筋金入りのビール党。開催都市でビールが飲み尽くされた逸話も残る。在庫は最低いつものダブル、杯を満たしておもてなし-。頂上決戦の舞台・横浜で、もうひとつのW杯、ビール商戦がキックオフ。

■開催地で底突く

 2007年のW杯フランス大会。開催地のマルセイユ市内からビールが消えた-。日本大会組織委員会はことし3月、各開催都市の飲食店関係者を集めた説明会で、こんな逸話を紹介した。

 15年のイングランド大会では、計190万リットルが飲み干されたという。1人当たり1.7リットルを平らげた計算だ。岩手・釜石で7月に開催された日本-フィジー戦でも、場内の一部店舗でビールが底を突いたという。「品切れは避けてください」。組織委は通常の4~5倍の消費を見込み、十分な在庫を確保するよう呼びかけた。

 決勝を含む7試合が組まれた横浜国際総合競技場(横浜市港北区)。W杯の開催は、02年のサッカー日韓大会に次いで2度目だが、地元は「ラグビーファンの胃袋は異次元」(商店主)と戦々恐々。消費量は、サッカーファンの6倍というデータもある。

 英国風パブを全国展開するハブ(東京都)は、全店で15リットル入りの生樽(だる)を増備した。最も万全を期すのが、横浜会場に最寄りの新横浜店だ。普段の7倍、店内に入りきる限界の30樽まで増やした。広報の駒田知也さんは「この商機は逃せません」と意気込む。

■強豪国は酒豪?

 ラグビー強豪国ほど、ビール党-。キリンホールディングス(東京都)の調査から、そんな傾向が浮かぶ。17年の1人当たりの消費量は、「とりあえず生」が定着する日本(世界ランク10位)でも40.1リットル。1次リーグで対戦するアイルランド(1位)は94.9リットルで、ダブルスコアをつけられた。

 昨秋に横浜で開催されたニュージーランド-豪州戦。ボランティアの安田十四雄さん(88)は、外国人の飲みっぷりに驚いた。「桁違い。いくら飲んでも物足りなそうでした」。それぞれ世界ランク2位と6位の両国は、日本の1.5倍強の消費量を誇る。

 組織委がこの試合の観客1人当たりのビール消費を試算したところ、外国人は日本人の4.4倍に達した。横浜市は45万人前後の来場を見込み、組織委によると、チケット購入者の3割が外国人だ。

■売り子400人

 W杯会場で独占販売されるのは、大会スポンサー、ハイネケン(オランダ)のビール。国内製造を一手に引き受けるキリンビール横浜工場(横浜市鶴見区)は、9月の生産量を前年同月比の3倍に増やす。

 ハイネケン取扱店の拡張を狙い、試合を中継する横浜・みなとみらい21地区のファンゾーンや横浜中華街の周辺で重点的に営業をかけた。この3か月で目標の900店に届いた。担当部長の林直人さんは「いかにチャンスロスをなくすか、こちらも総力戦です」。

 場内販売にも秘策を練る。酒税法と安全を考慮し、缶ビールをプラスチック製カップに移し替えて提供する。組織委は全国で1650人の売り子を確保する。

 横浜会場の収容は、全国最多の7万2千人。キリンが見込む消費量は、対戦カードによって増減するが、1試合平均5万リットルだ。10万本の缶ビールを保冷車で冷やし、場内の各階に応急の冷蔵庫を配置する。投入される売り子は400人。東京ドーム開催のプロ野球の試合の3倍に当たる。

 スクラムを組んだ組織委、キリン、地元飲食店。開幕目前、雄たけびのように聞こえてくる。「ビールを切らすな!」

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