君津市議選|災害の後でも選挙の延期は難しい?|公選法の規定は?選管の判断は?【千葉県】

千葉県君津市議会議員選挙が9月15日に告示され、22日に投開票が行われる予定です。

先日の台風15号の影響で君津市は停電・断水が続いており、告示前には選挙の延期を求める声も一部で上がっていました。有権者はもちろん、候補者や選挙を行う行政側も台風で被害を受け復旧に追われる真っ最中に行われる選挙となっています。

過去には、阪神淡路大震災や東日本大震災で被災した自治体の選挙において特例法に基づき選挙が延期になった例は存在しますが、今回の君津市議選のケースは何が異なるのでしょうか。選挙ドットコム編集部では、公職選挙法の関係規定を踏まえ識者や実際の選管の方にお話を聞きました。

投票日を先に延ばす「繰延投票(くりのべとうひょう)」の仕組みはある

公職選挙法第57条第1項では、天災や事故を理由に投票ができないときに投票日を先に延ばす「繰延投票(くりのべとうひょう)」という仕組みが定められています。

【公職選挙法第57条第1項】
天災その他避けることのできない事故により、投票所において、投票を行うことができないとき、又は更に投票を行う必要があるときは、都道府県の選挙管理委員会(市町村の議会の議員又は長の選挙については、市町村の選挙管理委員会)は、更に期日を定めて投票を行わせなければならない。この場合において、当該選挙管理委員会は、直ちにその旨を告示するとともに、更に定めた期日を少なくとも二日前に告示しなければならない。

この条文で定められているとおり、災害などが発生して予定していた投票日に投票ができない、あるいはさらに別の日に投票を行う必要があるとその自治体の選挙管理委員会が判断すると、投票日を予定より後の日に設定することができるとされています。過去には2012年8月に台風の影響で鹿児島県和泊町、知名町、与論町の議会選挙と沖縄県竹富町長選挙の投票日が1週間延期された事例や、2014年10月に台風の影響で沖縄県豊見城市長選挙の投票日が1週間延期されたことがあります。

なぜ今回は「繰延投票」が行われない?

選挙ドットコム編集部は、公職選挙法と選挙実務に詳しい選挙管理アドバイザーの小島勇人氏にお話を伺いました。

選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
なぜ今回の君津市議選では繰延投票がされなかったのでしょうか?

選挙管理アドバイザーの小島勇人氏(以下、小島氏)
判断をする立場にある君津市選挙管理委員会があくまでそう判断したから、ということになりますが、繰延投票を定めた公職選挙法第57条第1項では「投票所において、投票を行うことができないとき」としています。この「投票所」というのは投票日当日の投票所を指すものと解釈されます。つまり、投票日当日に天災や避けられない事故で投票することができないと判断したときに繰延投票を行うということを定めています。
ですから、投票日当日に投票所で投票を行うことはできる、という判断を君津市選挙管理委員会が下したのではないかと思います。

選挙ドットコム
過去にも台風による繰延投票の事例はありましたが、違いは何でしょうか?

小島氏
公選法第57条第1項の「天災その他避けることのできない事故により…」という言葉が想定している状況を挙げてみますと、
台風であれば大雨や暴風などで有権者のほとんどが投票所に足を運ぶことができないような状況や、投票所への道が寸断されているといった状況があります。
今回の君津市では、告示日の段階ではなく、投票日当日が「天災その他避けることのできない事故」といえる状況にあるかどうかが一つのポイントだったのではないでしょうか。

選挙ドットコム
阪神淡路大震災や東日本大震災の際には、選挙そのものが延期となりました。今回の千葉の台風の事例とは何が異なるのでしょうか?

小島氏
公選法では市議会議員の任期満了による選挙は、公選法第33条第1項により「任期が終わる前30日以内に行う」と定めています。そのため、これまでにあった阪神淡路大震災や東日本大震災の際はこの原則の特例として、どちらも選挙を延期することを可能にする臨時特例法を定めて対応しました。特例法がない今回のような事例では延期を行うことはできず、任期満了の前30日以内に行わなければならないのです。

選挙ドットコム
今回の君津市議選は、現職議員の任期満了が9月27日となっていました。現職の任期が仮に10月4日であれば、君津市選管の判断で例えば9月22日告示・29日投票のように選挙期日を1週間ずらすことは可能だったのでしょうか?

小島氏
当該選挙の告示前であれば可能です。選挙期日(投票日)は選管が決めますが、決めてから選挙の告示までの間に事情変更があった場合には、慎重に検討し、選管の判断で選挙期日を変更できると考えられます。

ただし告示日を過ぎてからは、選挙は一旦告示された以上、その告示で定められた選挙期日に必ず行うべきものという原則がありますので、公選法第57条の繰延投票の判断でもない限り選挙期日は変えられません。
告示された選挙の執行や選挙期日というのは、一般に思われているよりも動かしがたいものなんですね。

選挙ドットコム
公選法の規定と、特例法がないことで予定どおり選挙が行われることになったのですね。お忙しい中お話をいただきありがとうございました。

君津市選管の判断理由を実際に聞いてみたところ…

編集部では君津市議選を予定通り9月15日告示、22日投開票で行うことを決めた、君津市選挙管理委員会の職員の方にもお話を伺いました。

選挙ドットコム
台風被害への対応と選挙の最中で大変お忙しいところ失礼いたします。
今回の君津市議選を延期せず、予定通り行うと判断された背景を教えていただけませんでしょうか。

君津市選挙管理委員会の職員の方(以下、君津市選管)
はい、一つには市選管のページに掲載しておりますように現職市議の任期が9月27日となっているため、選挙を延期すると市議会議員が不在となってしまうという市民の皆様に好ましくない事態を避ける、という点があります。

選挙ドットコム
公選法第57条第1項の繰延投票で投票日を先に延ばす、という判断をされなかったのはなぜでしょうか。

君津市選管
繰延投票を行う条件としてありますのが、投票日当日に有権者が投票所に行くことができなかったり、投票所が水害で流されていたりするような状況です。条文にある「天災その他避けることのできない事故」に現在の状況があたるかどうかを検討した結果、今回は道の寸断などもなく繰延投票を行う条件にはあてはまらない、と判断しました。

選挙ドットコム
難しい判断を下されたのですね…ありがとうございます。
有権者の皆さんから、なにか問い合わせなどはありますでしょうか?

君津市選管
様々な声をいただいておりますが、「こんなときに選挙を行わなくても…」という声もいただいております。
市では台風被害への対応や復旧に関する情報を防災無線を用いて流しているのですが、「防災無線の音に選挙カーの声が重なって聞こえない」という声もあります。

選挙ドットコム
選管の方としてはとても心苦しい状況ですね。
選挙中で台風被害への対応があり大変お忙しいところ、お時間いただき誠にありがとうございました。

延期ができなかった理由をまとめると…

取材した内容をもとに、君津市議選がなぜ延期できなかったのかをまとめると、

①任期満了との関係
君津市では現職の市議会議員の任期満了が9月27日となっており、公選法第33条第1項の規定では「任期満了の30日以内」に選挙を行わなければならないため延期ができなかった。阪神淡路大震災や東日本大震災のときには、例外的に臨時特例法によって延期がなされていた。

②「繰延投票」の条件にはあたらないという判断
投票日を延期する「繰延投票」の公選法第57条第1項の規定はあるが、条文にある「天災その他避けることのできない事故により、投票所において、投票を行うことができないとき」にはあたらないという判断を選管がしたため。選挙運動がやりづらいかどうかではなく、あくまで「投票日当日に投票ができるかどうか」によって判断しなければならないようです。

選挙ドットコムでは台風被害の復旧の最中で有権者の選挙情報集めが難しいことを鑑み、君津市議選の候補者に取材を依頼し、お受けいただいた候補者の動画などを特設ページにて公開しております。

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