雪崩は近いか

 詩人の石垣りんさんに「雪崩のとき」という一編がある。「平和」を銀世界に例え、美しい雪景色は一転して、雪崩にもなると書く。〈人は/その時が来たのだ、という/雪崩のおこるのは/雪崩の季節がきたため、と〉▲季節の流れに逆らえないのと同じで、人はある方向に転がりだすと止まらない、と詩人の比喩は伝えている。詩は続く。〈“仕方がない”というひとつの言葉が/遠い嶺(みね)のあたりでころげ出すと/もう他の雪をさそって/しかたがない、しかたがない/しかたがない/と、落ちてくる〉▲昨今、「その時が迫る」と聞くたび、この詩を思い浮かべてきた。東彼川棚町の石木ダム計画で、反対住民の土地所有権が20日午前0時を境に消滅し、県と佐世保市がダム建設に必要な全ての土地を得た▲住民らはきのう、中村法道知事と面会し、ふるさとが奪われるのは嫌だと訴えたが、話のかみ合った節はない。うなずきながらも知事は、ダムの必要性を語った▲家屋などを含む土地は11月に明け渡しの期限となる。それを過ぎれば行政代執行、つまり行政が家を壊し、住民を立ち退かせる手続きも可能になる▲そうなって県が「ぎりぎりの判断」といくら言っても、県史の痛恨事として残るのは避けられまい。「しかたがない」の一語を伴う雪崩は近いのか。(徹)

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