石木ダム 13世帯の強制収用 道筋と結末 楽観せず示せ

 事業着手から40年以上がたつ懸案の石木ダム建設事業で、起業者の県と佐世保市がダム建設に必要な全ての用地の権利を取得することになった。土地収用法に基づく手続きだが、13世帯約50人もの住民の宅地を強制収用するのは異例だ。
 ダム建設の主要な目的は同市の慢性的な水不足解消と川棚川の治水。これまでに8割以上の地権者が補償契約に応じて移転したが、残る13世帯を説得できないまま、県は2009年、強制収用への道を開く事業認定申請に踏み切り、国が認定した。申請について県は当初、「地権者との対話を促すため」と強調していたが、結果を見れば“楽観”の印象は否めない。
 地権者らが国に事業認定取り消しを求めた訴訟で長崎地裁は昨年7月、ダムの公益性を認め、原告側の請求を棄却した。原告側は控訴し、反対住民や一部の専門家は急上昇する市の水需要予測や下流域に建設するダムの治水面の有効性などに疑問を投げかける。
 物件を含む土地の明け渡し期限である11月18日以降は、“最終手段”である行政代執行の請求や判断が焦点となる。過去に中村法道知事は「(22年3月までの3期目の)任期中に方向性を出したい」と発言。係争中の複数の関連訴訟の動向や、22年度末の完成を目指す工程表の進捗(しんちょく)を見極め、判断するとみられる。
 知事は今のところ、行政代執行を「あらゆる選択肢の一つ」と述べるにとどめている。だが約5年ぶりに実現した反対住民との面会でも溝は埋まらず、打開策が見えない状況下で、現実的な選択肢がそう多いとも思えない。半世紀近く続く事業に、どのような道筋と結末を想定するのか。“楽観”せずに、具体的に県民に示す時期ではないか。

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