ロッテ福浦の“金言”が生んだ絶対的キャプテン・鈴木大地「自分が情けなかった」

ロッテ・鈴木大地(左)と福浦和也【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

キャプテン就任初年度の2014年に背番号「9」から得た金言

 千葉ロッテマリーンズで絶対的なキャプテンシーを発揮する鈴木大地内野手にとって、その原点となっている出来事がある。それはキャプテンに指名された2014年だった。

 遠征先の宿舎ホテルでのこと。その日のナイトゲームに敗れて、チームは6連敗を喫していた。鈴木は1人、ホテル内に設置されているビデオルームに向かった。スコアラーが収集した映像が流され、選手たちがいつでも映像をチェックすることができる部屋だ。試合に敗れ、憔悴しきった表情で部屋に入ると先客がいた。福浦和也内野手だった。最初は特に会話もなく時が流れた。2人はそれぞれ自分たちの打席映像を見ていたが、ふとした瞬間、大ベテランは鈴木に問いかけた。

「なあ、大地。今日の試合でひとつ気になることがあった。ピッチャーがピンチの時、内野手は誰もマウンドに行って投手に声をかけなかったよな」

 この日は、西武ドーム(現メットライフ)でのライオンズ戦に5-10で敗れていた。3点リードの2回、先発の唐川侑己投手が5本の長短打を浴びせられ、逆転を許した。その場面をベンチで見守っていた福浦は、ピンチで内野陣が誰も投手の唐川に声をかけることがなかったことに疑問を呈したのだ。映像に見入っていた鈴木だったが、その一言が胸に突き刺さった。何度も自問自答した。

「福浦さんの一言でハッとさせられました。もしかしたら自分が間を置いて、ポンと肩を叩くだけで、リズムや流れが変わったかもしれない。声をかけるだけで少し気持ちが楽になったかもしれない。小さいことかもしれないけど、キャプテンとしてやれることをしていなかった。それが恥ずかしかった。こんなに勝ちたい、勝ちたいと気持ちでは思っているくせに、やれることをせずにそう願っていただけの自分が情けなかった」

現在、チームの中心として活躍しているロッテ・鈴木大地(左)【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

福浦が口にしたキャプテンとしての役割、鈴木はどう変わったのか

 問いかけた疑問に若きキャプテンがなにかを感じたと察した福浦は言葉を続けた。今度は映像を見るのを止め、鈴木に鋭い眼光を向け、強く願うように話し出した。

「オレは試合に出たり出なかったり。オマエは今、全試合に出ている。だからオマエが先陣を切ってやって欲しい。グラウンドでは年齢も関係ないし、遠慮する必要もない。そうすることで何かが変わる可能性はある。ならば、した方がいい。悔いのないようにできることは全てしたほうがいい。だいぶ昔のことだけど、オレも先輩にそう教わった」

 それからの鈴木は動いた。翌日には練習前にグラウンドで選手だけのミーティングを開催した。福浦らベテラン選手たちにも意見を聞いた。若きキャプテンである自分が鼓舞するだけではなく、ベテランの含蓄のある発言によって、選手たちの心を動かそうと考えた。勝ちに対する思いをもう一度、共有した。そして、守備ではことあるごとに投手に声をかけるようになった。連打を食らい、気持ちの整理がつかない状態になっていると思った時はひと呼吸を置くためにマウンドに歩み寄った。時には声をかけ、時にはポンとお尻を叩くだけの時もある。叱咤したり、激励したり。ただ見守るのではなく、動くことで事態をなんとか好転させようと努力し続けた。

 月日は流れ、今、鈴木にキャプテンという肩書きはない。もう肩書きはいらないのだ。グラウンドで誰もが認めるキャプテンシーを発揮している。後輩が多くなったチームにおいてマウンドの投手を叱咤激励し続ける姿は不変だ。チーム状態が悪い時は率先して選手たちに呼びかけて、ミーティングを開きチームをまとめ上げている。その原点には大ベテラン、福浦の存在は欠かせない。

「最高の形で福浦さんを送り出したいです」。鈴木は事あるごとにそう口にした。背番号「9」の背中から様々なことを学んだ8年間だった。時には直接聞き、教えてもらった。マリーンズ愛の詰まった言葉の数々。今度は鈴木が後輩たちへと受け継いでいくことになる。(マリーンズ球団広報 梶原紀章)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

© 株式会社Creative2