働き方改革で拡大――自治体とテレワークを進める企業の包括連携協定が加速

「働きながら遊ぶ」を可能にするテレワークが雇用にもプラスに(写真:徳島県提供)

働き方の多様化が進むなか、地方でテレワークを進めたい企業と自治体の包括連携協定が加速している。人口減少、高齢化に悩む地方自治体がネット環境やサテライトオフィスを整備して企業や若年層の誘致を狙う一方で、企業は都市部以外での働き方を広げ、雇用促進や地域での課題解決に貢献したい考え。早い時期からテレワークを推進する徳島県では、65社がサテライトオフィスを開設し更なる推進を狙う。ミサワホームやNECソリューションイノベーションは、総務省が推進する「ふるさとテレワーク」事業も取り込んで連携を進めるなど、様々な連携協定が地方を拠点に働く機会を後押しする。(環境ライター=箕輪弥生)

テレワーク先進地、徳島県では地元雇用にも波及効果

映像会社が開所した徳島県神山町の古民家を利用したサテライトオフィス(写真:徳島県提供)

徳島県は人口減少と超高齢社会が加速する地域のひとつだが、その一方で光ブロードバンドが整備されケーブルテレビの世帯普及率は9割に達する。地デジ対策として整備した高速ネットワーク環境に早くからIT系企業などが着目し、現在、県内13市町村に65社がサテライトなどオフィス機能を持つ。

当初は東日本大震災などの影響によって、バックアップ機能を本社以外に持つことを目的にした開設が目立ったが、最近では働き方改革を背景に、生産性を高める新しい働き方を実現するためにサテライトオフィスを構えるケースが増えている。

特に県内でサテライトオフィスが多いのが、県北東部にある神山町の16社、県南部、美波町の19社だ。IT企業や映像系の企業などクリエイティブな業種が多い。県の補助金などのサポートが豊富なメニューで展開され、神山町では地域を舞台に活躍する人材を育成する事業も継続的に展開している。このような豊富な支援メニューを背景に、地域では課題解決型のビジネスが生まれたり、現地での雇用も90名にのぼるなど、サテライトオフィスが人と雇用を呼び込むことに成功している。

このような動きの中で、ソフトバンクは平成29年末、徳島県とIoTなどの利活用により地方課題の解決を図り、新たな産業・サービスの創出を目指す「とくしまインダストリー4.0の推進に向けた包括連携協定」を締結した。テレワークについても、ICT(情報通信技術)を利活用した取り組みを展開する予定だ。

徳島県の地方創生局地方創生推進課、津田卓実主事は「サテライトオフィスの集積だけでなく、業種のマッチングにより新たなビジネスを生み出す仕組みも考えていきたい」と次のステップを視野に入れる。

国も消費者庁の調査研究拠点「消費者行政新未来創造オフィス」を2017年7月から徳島県庁内に設け、試験的に運営してきた。移転は見送ったものの来年以降は常設化し、同庁の全職員の2割超にあたる約80人に増員する予定だ。

企業の得意分野を活かしてサテライトオフィスを開設

ミサワホームグループは2017年3月に北海道の長沼町と岡山備前町とそれぞれ「まちづくり包括連携協定」を締結し、町の活性化に向けた取り組みを始めた。そのうち長沼町では今年3月に総務省の平成30年度「ふるさとテレワーク推進事業」を活用して、元々居酒屋だった空き店舗を活用してテレワーク拠点「ながぬまホワイトベース」を整備し、今年3月にオープンした。

同拠点はテレワーク環境について調査・研究を進めてきたミサワホーム総合研究所が基本コンセプトを策定し、地元の事業者が施工した。室内は、集中して働ける個室や2~3人でのリラックスした打ち合わせに向くバーカウンター、ディスカッションをするオープンスペース、遠隔地とのTV会議を行うスペースなど、目的別に空間を使い分けられるオフィス環境を整えた。

ミサワホーム総合研究所フューチャーセンター市場企画室 八木邦果 主任研究員は、「豊かな自然環境、観光資源に加えて空港からのアクセスの良さなど、町としてのポテンシャルの高さを実感し、協定締結に至るまでは役場や町民とディスカッションを行い、テレワークによる地域活性化の実現可能性について検討を重ねてきた」と話す。

同拠点では空き家をリフォームして賃貸をする不動産業者や、グリーンツーリズムや農家民泊のインバウンド需要開拓に力を入れる観光関連企業が拠点として利用している。長沼町の山下宏之企画政策課長によると、同拠点は地域おこし協力隊が定住して起業する際の拠点などにも利用されており、地域課題の解決からのビジネスの広がりにも期待をかける。

総務省「ふるさとテレワーク推進事業」がサテライトオフィス開設を後押し

窓からは白浜の海と空を望むサテライトオフィスでテレビ会議を行うNECソリューションイノベータの社員

2018年に和歌山県白浜町と新たなワークスタイルづくりに関する包括連携協定を締結したNECソリューションイノベータも、総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」を活用し、2016年に白浜町にサテライトオフィスを整備した。

白浜町のITビジネスオフィスをテレワーク拠点に改修。同社を含め10団体が海岸を見下ろす眺望の良いオフィスで働く。「通勤時間が短く、ビーチで散歩をしたり、温泉に入って疲れを落として帰宅できる」と、ここで働くNECソリューションイノベータの社員にも好評だ。

白浜町総務課によると、従業員の長期移住、派遣、オフィス移転などにより平成27年から延べ100人以上の地元雇用を生み出したという。

総務省では2014年10月より「地方のポテンシャルを引き出すテレワークやWi-Fi等の活用に関する研究会」を設置し、都市部から地方への人や仕事の流れを促進するためのテレワークの在り方について検討を始めた。2015年度に「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」として15の地域で実証を行い、2016年度からの3年間で「ふるさとテレワーク推進事業」という補助事業で40件のサテライトオフィスを整備している。

事業を担当する総務省の情報流通行政局 地域通信振興課の齋藤洋一郎課長補佐は「テレワークの流れは確実に大きくなってきている」と話し、その要因の1つとして「テレワークができることが、若者が企業を選ぶ指針にもなり、優秀な人材を雇用するためのポイントにもなっている」と分析する。

地域を超えて働くテレワークは、働き方の見直しをベースにネットワーク環境の整備、国の支援もあり拡大している。徳島県の例でわかるように「自治体独自に戦略を持ち、テレワークを広げているケースも増え」(齋藤課長補佐)、それぞれの地域で導入過程は異なるが、企業がより柔軟な働き方を進める上で、地方に第二の働く場所を確保することは重要性を増している。

地域と連携することでそれを実現しようする流れは、テレワークを促進する自治体と企業の包括連携協定の事例を見ても顕在化してきているようだ。

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