1年間を通してタイトルを競うリーグ戦。今年のJリーグは2月に開幕して12月に幕を閉じる。
当然、その間でアクシデントは付き物だろう。ヴィッセル神戸は早々の監督交代でプランが崩れ、セレッソ大阪は新エースが年内絶望の重傷に見舞われ、松本山雅FCは頼みの新外国人ストライカーが鳴かず飛ばず、鹿島アントラーズは主力をごっそり引き抜かれた。
そういった時、監督は現状の戦力でのやりくりを強いられる。冷蔵庫の中の余り物でいかに美味しい料理を作れるかというのも、監督の腕の見せ所だろう。
そこで今回は、今シーズンの監督によるコンバートの成功例を紹介する。
遠藤 康(鹿島アントラーズ)
右サイド→FW
昨シーズンまで長年鹿島の右サイドハーフを担い続けていたが、今シーズンは出番が激減。定位置はレアンドロや安部裕葵が担当する機会が増えていた。
第25節の清水エスパルス戦でリーグでは開幕戦以来の先発を飾ると、そのポジションは天皇杯3回戦の栃木SC戦と同じく2トップの一角。
相方の上田綺世と連動しながら縦に横に動き回ることで相手の守備陣を混乱させ、絶妙な裏抜けから先制点を奪うと、試合終了間際にもサイドに流れてから精度の高い完璧なクロスでアシストを記録。清水守備陣は最後まで遠藤を捕まえられなかった。
現状では伊藤翔と土居聖真がファーストチョイスだが、4冠を狙う鹿島においてこの百戦錬磨のベテランの存在は間違いなく必要だろう。
福田 湧矢(ガンバ大阪)
攻撃的MF→ウィングバック
マンチェスター・シティへの電撃移籍を果たした食野亮太郎と同じく、開幕前はキャンプにすら帯同が許されなかった6人の居残り組のうちの1人。当初は戦力としてカウントされていなかった。
しかし、それが福田の心に火をつけ、第12節の大阪ダービーでの大抜擢にMOM級の活躍で応えると、以降は定位置を奪取。本職は攻撃的な中盤だが、両サイドのウイングバックで新境地を開いた。
体を投げ出す粘り強いディフェンスと90分間激しいアップダウンが可能なスタミナが魅力で、今のガンバ大阪では数少ない気持ちを全面に表現する選手である。
熱さが空回りして冷静さを失い、チャンスをふいにしたりPKを与えたりする難点はあるが、それは年齢と経験を重ねることで解決されるだろう。
山口 蛍(ヴィッセル神戸)
守備的MF→攻撃的MF
インターセプトやタックルなどのボール奪取能力の高さは誰もが認めるところだが、果たしてポゼッションスタイルの戦術に馴染むことができるのか。神戸への移籍が発表されてからは幾分か疑問の声もあった。
しかし、今季開幕直後からビルドアップではCBの間に下りて後ろをサポート、攻撃ではイニエスタとテンポの速いパス回しを披露し、基本技術の高さを見せつけた。
また、現在は3-5-2システムのトップ下として、ライン裏への2列目からの抜け出しや前線からのプレスでも評価を高めている。
数字の面でも、昨シーズンは無得点だったが、ポジション変更後は4試合で3ゴール。『ボールハントの達人』がゴールも奪い始めている。
長谷川 アーリアジャスール(名古屋グランパス)
守備的MF→FW
本来は足下の技術の高さが売りのボランチ。しかし、今季は主に2トップでジョーの相方として起用されている。
代わりが不在だったために代役を務めたセレッソ大阪の奥埜博亮とは異なり、名古屋は前線にタレントが揃う。ガブリエル・シャビエルとジョーのコンビの破壊力は昨シーズン証明済みで、前田直輝とジョーのコンビも昨夏のJ1に大旋風を巻き起こした。また、決定力なら赤崎秀平に分がある。
しかし、宗教にも例えられる常人には理解し難い感性を誇る風間監督は長谷川を選択する機会が多い。人が密集することでわざとカオスを発生させる独特の攻撃手法の中で、ボールを落ち着かせる能力を買っているのだろうか。
2018年の冬、シモビッチから背番号9を受け継いだのが今となっては偶然とは思えない。
奥埜 博亮(セレッソ大阪)
守備的MF→FW
もともとユーティリティな選手として知られてはいたが、ベガルタ仙台時代は主に中盤で起用されていた。
ロティーナ新体制で試行錯誤した序盤戦はボランチとしての出場が続いたが、チームとして4-4-2システムという最適解を見つけた矢先に得点源として期待されていた都倉賢がシーズン絶望の長期離脱。当初はアタッカーの高木俊幸が代わりを務めたが、名将ロティーナは奥埜を2トップの一角に据える奇策を講じた。
苦肉の策に思われたこの決断が、蓋を開けてみると大当たり。ここからチームの調子は一気に上向き、現在も躍進が続いている。
奥埜自身もポリバレントさが最大限に発揮され、攻守においてその貢献ははかり知れない。チームに不可欠な存在として君臨しており、今シーズン最も成功した移籍の1つとして数えられる。