テーマ ◆ 歯の根管治療と、そのやり直し(前編)

傷んだ歯の神経を除去 日本人に頻繁な再治療

Q. 根管治療とはどういう治療ですか?

A.

虫歯が重症化して深くなると、虫歯の穴から細菌が歯の神経に入り込み、夜も眠れないほどの強い痛みがでることがあります。根管治療(root canal treatment)とは、このように細菌に感染した歯の神経を除去することにより、痛みを取り除き、歯を再び使えるようにする治療です。

歯を支える根(歯根)の中には、根管という直径1ミリ以下の細い管が通っています。根管の中には、神経や血管が束になった歯髄(しずい)と呼ばれる組織があり、それが細菌に感染することで、歯髄や歯根の周辺組織に炎症が起き、歯が痛んだり、歯肉が腫れたりします。一時的に痛みが和らぐこともありますが、それは歯髄が腐敗し「死んでしまった」ためで、傷んだ歯髄が自然に回復するわけではありません。

日本人の場合、「二次カリエス(caries)」を起こして、根管治療が必要になる人が少なくありません。二次カリエスとは、虫歯治療の後に、歯と被せ物(クラウン)や詰め物のすき間にできた虫歯のことです。クラウンの下にできた虫歯は、裸眼では見えません。発見が遅れ、痛くなってから歯科医院に駆け込むころには虫歯が大きくなっており、神経を取らなければいけないことがよくあります。

虫歯の他にも、特に前歯は、けがによって神経が損傷を受け、根管治療が必要になることもあります。

Q. 根管治療の手順を教えてください。 A.

アメリカでは、根管治療が必要かどうかを一般歯科医が診断し、実際の処置は根管治療専門医が行うのが一般的です。

まず、虫歯になった部分を削り取り、歯髄のあるところまで歯に穴を開けます。次に、針状の「リーマー」(写真)と呼ばれる器具を使用し、細菌に感染して傷んだ歯髄を除去します。そして、根管の壁を少し削りながら全体を消毒し、最後に、根管の中にゴム状の充填剤を詰めて密封し、再感染を予防します。

根管治療で使う細い針状の器具「リーマー」。細菌に感染して傷んだ歯髄を取り除き、根管の壁を削りながら全体を清掃する。根管ごとに適切な太さや長さのものを選ぶ。前歯の簡単なケースでは、一般歯科医が根管治療を行うことも多い

歯根は前歯と奥歯で本数が異なり、個人差もあります。例えば奥歯の歯根は普通3本ですが、人によっては4本や5本の場合もあります。また、歯根は必ずしも真っ直ぐでなく、先が曲がっていることもあれば、枝分かれしていることもあります。

根管治療では、このように複雑な形をした歯根の中の根管も、先端部まで歯髄を丁寧に除去し、全体を消毒します。また、治療中に患部をレントゲン撮影し、充填剤が根管の先まで行き届いていることを確認します。これらの処置が不十分だと、患部が細菌に再感染し、根管治療のやり直しが必要になることもあるからです。

以上が根管治療専門医の治療です。その後、一般歯科医が患部にクラウンを装着するための「土台」を作り、歯型を取ります。クラウンができたら再来院してもらい、装着します。

通常、患者は一般歯科医から根管治療専門医の紹介を受け、専門医のクリニックで処置を受けます。一方、当院は根管治療専門医が定期的に診療を行っており、患者は他院に行く必要がなく、何かあれば私と専門医がすぐに相談して対応しています。

Q. 日本での根管治療後に、再治療が必要になるケースが多いとか?

A.

それは本当です。患者の中には、何十年も前に日本で根管治療を受けた人もいれば、数年前に受けたばかりという人もいて、歯根の周囲に炎症を起こし、痛みや歯肉の腫れを訴えるケースがほとんどです。最初の治療が不十分だったり、虫歯が再発したりして、治療部位が細菌に再感染することが主な原因です。日本の歯科医の技術が低いわけではなく、保険制度の関係で、治療に十分な時間をかけられないことが背景にあるようです。

例えば、歯根の本数や形、患部の状態などによって異なりますが、アメリカの場合、根管治療専門医による処置は歯1本あたり約1〜2時間かかることもあります。それだけ丁寧な処置が求められるわけですが、日本ではなかなかそうはいきません。また、治療は専門医が1回で終了させるのがベスト。複数回に分けると、次回通院までの間に、患部が細菌に再感染する恐れがあるからです。

日本で治療を受けた人は、再治療のリスクがあることを理解し、再感染予防と早期発見を特に心掛けるといいでしょう。

※次回は、再根管治療についてお聞きします。

サン・ホー・キム先生 Sun Ho Kim, DDS

歯科医師(DDS=Doctor of Dental Surgery)。 ソウル大学歯学部卒業後、韓国米空軍病院勤務を経て来米。 ニューヨーク大学(NYU)補綴歯科コース、同インプラントコース修了。 一般歯科のほか、歯列矯正治療に定評がある。 ワイヤーを利用する従来の矯正方法と、透明で取り外し可能な矯正装置「インビザライン」の両方を手掛ける。 NYU歯周病学・インプラント学部臨床助教授。日本語堪能。

サン・ホー・キム歯科グループ 30 E 40th St., #602 (bet. Park & Madison Aves.) TEL: 212-370-0101 (診療は日本人スタッフがサポート)

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