海外5000万人の武道家を日本に呼び込め!「武道ツーリズム」が狙うインバウンド市場

フランスの剣道家グループを率いたモニターツアーが、先月26日から5日間、パリから宮崎県を訪れました。宮崎県観光協会が初めて実施した武道ツーリズムの一団です。

武道ツーリズムとは、日本の武道を実際に現地で見たり体験したりすることを目的として、インバウンド(訪日外国人)を呼び込もうというもの。今回の宮崎県のツアーでは、剣道フランス代表のコーチなど5人が参加して、県内の道場で地元の剣道家との稽古や剣法発祥の地である鵜戸神宮、武道具工場などを巡り、地元の人との交流を楽しみました。

2018年度からスポーツ庁も力を入れ始めた武道ツーリズムは、今後、各地域のさらなるインバウンド需要を高めるポテンシャルを持っています。


フランスの剣道家が日本の道場で稽古

「室町時代の兵法家・愛洲久忠は、日向国(現在の宮崎県)鵜戸の岩屋にこもり、陰流を開いたと言われています。宮崎県に剣法発祥の地があるということを知ってからは、海外の剣道家を宮崎県へ呼び込むための、良いきっかけになると思いました」

こう話すのは、今回のモニターツアーでフランスの剣道家を引率した多田竜三さんです。多田さんは剣道の防具屋の家に生まれ、現在は国内とヨーロッパおよび東南アジア諸国での防具販売や修理の仕事をしています。多田さん自身も剣道7段の腕前。モニターツアーは宮崎県観光協会が企画したものを、地元旅行会社が手配して、語学と剣道ができる多田さんが、以前からつながりがあったフランス剣道界との交流をサポートしました。

武道ツーリズムには大きく分けて2つのアプローチがあります。1つは武道を「見る」というもの。もう1つは武道を「する」というものです。

「見る」というのは、武道の本場である日本で、稽古や試合の様子を見て、その雰囲気を楽しむことを観光資源にしようというものです。「する」というのは、日本の道場で実際に稽古をするなどして、日本での武道の様子を体験してもらおうというもの。今回の宮崎県のケースは後者に当たります。

世界に広がる武道の巨大な競技人口

武道は今や日本人だけのものではありません。公益財団法人日本武道館の統計(2016年)によると、柔道、剣道、弓道、相撲、空手道など武道9種目の国内人口が約250万人。それに対して海外では5000万人超の武道人口があります。

五輪種目でもある柔道は、ブラジルやフランスが日本より競技人口で上回る一方で、剣道は日本での人口が大きな割合を占めています。各武道によって国内と海外での人口比率は異なりますが、海外の武道家にとっては、サッカーファンがイギリスを、野球ファンがアメリカに興味を示すことがあるように、日本という国が特別な地位にあることに変わりありません。

「肉体の鍛錬であれば海外でもできます。しかし、それぞれの武道が生まれた風土、そして武士道とはどういうことの理解を助けるためには、実際に現地へ行かなければなかなか感じることはできません」(多田さん)

すでに整っている環境をどう使い地域活性につなげるか

「する」アプローチの武道ツーリズムを目的に訪れる人は、地元道場での稽古などを行うことで、通常の観光客より長い間その地域にとどまり、地域経済に貢献してくれるというメリットがあります。しかし受け入れ環境は、まだ十分とは言えません。

「海外からの需要は感じますが、肝心の受け入れ体制の不足があります。各地域の道場と提携して武道ツーリズムを円滑に進めるには、各県の剣道連盟との連帯は不可欠です。稽古や交流には語学も必要になります。そして文化交流なのかビジネスなのか、その辺りの定義をきちんとせず地元の人の好意に頼っていては、長続きはしません」(多田さん)

武道ツーリズムは、私たち日本人が何気なく感じている自身の文化を見直す機会にもなります。

「私は幼い頃から剣道をやってきました。“礼儀”ということを常に言われ、先生方から言われたことに何の疑いを持たずにやってきました。しかし、異なる文化圏で生まれ育った人は違います。なぜ礼儀を大切にしなければいけないかを、分かるように説明しないといけない。日本人の剣道家も外国人の剣道家も、各々を振り返る良い機会になります」(多田さん)

今回のフランスからのモニターツアーは、地元テレビなどにも取り上げられ、武道ツーリズムということを地域の人が知る機会になりました。さらに今年10月に宮崎県は、シンガポール、台湾、マレーシア、タイの地域から剣道家を迎え入れ、2回目のモニターツアーを行う予定です。

「新しい取り組みが地方に届くまでには時間がかかります。今回のモニターツアーを通して、武道ツーリズムといことを地元の人が少しでも身近に感じられたのではないでしょうか。ここから武道ツーリスムに関心を持ち手を挙げる人が、たくさん生まれればいいなと思います」(多田さん)

取り組みは始まったばかりです。

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