背番号「9」の助言、元ロッテ岡田が得た“準備”の大切さ 「ずっと自分の心に残っている」

ロッテ・福浦和也(左)と昨季限りで現役を引退した岡田幸文【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

元ロッテで現在はBC栃木で外野守備走塁コーチを務める岡田幸文

 昨シーズン限りで現役を引退した岡田幸文は現在、地元栃木に戻り独立リーグ・栃木ゴールデンブレーブスの外野守備走塁コーチに就任した。攻撃時は一塁ベースコーチを務め、練習では外野守備と走塁の指導をしている。若い選手が多いチームにあって伝え続けているのは事前の準備、備えの大切さだ。それは憧れの大先輩から教えてもらったことだった。

 あれはロッテ在籍時の14年シーズン。前年は134試合に出場をしていたがこの年はスタメンで試合に出場する機会が減っていた。そんな岡田を遠征先で食事に誘ってくれたのが福浦和也内野手だった。

「たぶんボクが元気なく見えたのでしょうね。食事に誘っていただき、励ましてもらいました。ありがたかったです」

 憧れの大先輩が自分の姿を見てくれていたことが嬉しかった。そして心配されるほど落ち込んでいる姿を見せてしまった自分を恥じた。福浦は言った。

「下を向いていてもなにも始まらないよ。下を向くな。前を向け」

 その指摘に岡田は自分を見つめ直した。知らず知らずのうちに下を向いてため息をついている自分がいた。福浦は続けた。

「腐ってもなにも始まらない。自分のやるべきことをしっかりとやるのが大切なんだ」

 ハッとさせられた。普段は寡黙な背番号「9」だが、後輩へのアドバイスとなると熱を帯びる。この夜もそうだった。食事をしながら、気がつけば野球の話に没頭していた。

「とにかくいつ出番が来てもいいようにベストな状態を作っておくことだ。しっかりと準備をしてチャンスに備える。岡ちゃんの場合は、試合の終盤で必ず必要となる。代走もあれば守備での出場もある。その時のためにしっかりと準備を重ね、備えることが大事なんだよ」

 この夜の会話が岡田の意識を変えた。スタメンで試合に出られない時も練習から必死に準備を繰り返した。試合中も、いつ代走で呼ばれてもいいように相手投手の牽制も確認をするなど研究を重ねた。守備固めに備えて風を確認し打球がどのように流れるかを入念にチェックした。試合の合間にはベンチ裏の廊下でしっかりとストレッチを行い、廊下でショートダッシュを繰り返し代走に備えた。スタメン出場の時以上に集中をした。そしてなによりも普段から明るく振舞った。自分が試合に出場できなくてもチームが勝てば誰よりも喜び、試合に出場した仲間たちを労った。もう下を向くことはなかった。

引退会見では福浦から花束を受け取り涙「我慢をしていたのですが…」

 結局、14年は前年と比べ100打席ほど出番は減ったが代走からの出場などで110試合に出場する機会を得た。翌15年も112試合。16年には121試合に出場しレギュラーの座を奪い返してみせた。そして18年9月。惜しまれながらユニホームを脱いだ。悔いなきプロ野球人生だった。

 ZOZOマリンスタジアムで行われた岡田の引退会見。取材に駆け付けた大勢のマスコミの後ろに福浦の姿があった。会見を終えると花束を持って姿を現した。「お疲れさん」。労いの言葉をかけ肩をポンと叩くと会見中は感情を出すのを我慢していた岡田の目から涙からポトリポトリとこぼれた。

「福浦さんからお花をいただけるなんて思っていなかった。最高に嬉しいです。我慢をしていたのですが泣いてしまいました」。そう言うと岡田はまた涙した。

 岡田が所属している栃木ゴールデンブレーブスは今年、東地区後期で優勝。地区チャンピオンシップにも勝ち9月22日からルートインBCリーグチャンピオンシップに臨む。コーチの立場で岡田が今、選手に伝えているのは準備の大切さだ。

「例え出番がなくてもやるべきことはしっかりやっとけよと。コーチの立場で若い選手に教えています。福浦さんに言われてからずっと自分の心に残っていることですから。全力で準備をして備える。いつ出番が来てもいいように。出番が来た時にベストを尽くせるようにです」

 指導者の道を歩み出した岡田のイキイキとした表情が印象的だ。残念ながら大先輩の引退試合はチャンピオンシップと日程が被っているため観戦をすることはできない。ただ今、大先輩への恩返しは教えてもらったことを若い選手たちへと伝え続けることだと考えている。日本球界の未来のために、これからの選手たちに準備の大切さを伝え続けていく。(マリーンズ球団広報 梶原紀章)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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