遅すぎた真打登場「VWゴルフ」ディーゼル搭載車「TDI」が待ち望まれていた理由

現在発売されている7代目の「VWゴルフ」が本国デビューしたのは2012年。すでに7年あまりが経過しています。そのゴルフに先日、ようやくディーゼルエンジン搭載の「TDI」が追加されました。だからこそCMでは「カモがネギを背負うようにGolfがディーゼルをのせてやってきた」などと“お待たせしました感”満載です。

ところが現行型ゴルフは、すでにモデル末期と言われていますから“遅すぎるよ”とお叱りがあっても仕方がないのですが、それでも多くの人が「待っていた」と言うのはなぜでしょう?

今回はゴルフのワゴンモデルの「ヴァリアントTDI」をチェックしてみましょう。


21年ぶりにディーゼル・ゴルフが日本で復活

VW「ゴルフ」と言えば、世界の車種別歴代総生産台数においてトヨタ・カローラに次ぐ第2位を誇る超売れっ子です。現在のモデルは7代目ですが、2013年に日本で発売が始まった時点でもその評価は高く、輸入車初の日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY 2013~2014)を受賞したことでも話題になりました。ただしそれはあくまでもガソリンエンジン車への評価でした。

現地モデルには存在したディーゼルエンジン搭載車は、マーケティング上の理由からでしょうが、日本ではラインナップされなかったのです。当時は、日産エクストレイルが“世界初のクリーンディーゼル”と言いながら、世界一厳しいと言われた「2009年排出ガス規制」に対応するなど、わずかに認知度が上がりつつありましたが、ディーゼルに対して人々の目には、まだ厳しさがありました。

それでもいつかは、と期待したのですがメルセデス・ベンツやBMW、三菱パジェロにマツダCX-5など、クリーンディーゼル車が登場してもVWは動きませんでした。

そのうちにVWの排ガス不正問題が2015年に発覚します。このことがVWのディーゼルエンジンに与えたマイナスイメージは計り知れなかったのです。当然、それ以降、導入の動きは見られず、2年前に行われたマイナーチェンジでもラインアップされませんでした。

それがいま、ようやくVWのディーゼルエンジン「TDI(Turbo Direct Injection:直噴ターボ)」モデルが、入ってきたのです。4世代目のゴルフ以降、21年間途絶えていたゴルフディーゼルの復活です。多くの人たちは皮肉を込め「すでに8代目が見えている今、遅すぎた真打ち」などと言いながらも、この良く出来たクリーンディーゼルのTDIを歓迎している様子です。

リアの2.0TDIのエンブレム以外はガソリンモデルと外観上は大きく変わりがありません

やっぱり燃費の良さはヴァリアントには必須条件

どうして待っていたかというと「ゴルフ」にはディーゼルエンジンが似合うからです。昨年からVWは日本でディーゼルモデルを積極的に展開してきましたが、今年に入ってようやく主役のゴルフに搭載となりました。ゴルフはその使いやすいボディの大きさと最大限まで広げられた室内空間をセールスポイントとしてきた“世界一良く出来た実用車”です。

細部まで作り込まれた質感の高いインテリアもゴルフの大きな魅力
ハッチバックモデルでは十分に広い荷室ですが、ワゴンモデルとなるとさら広くなり、その搭載量が魅力となります

初代モデルからずっと歴代「ゴルフ」にはディーゼルモデルが存在し、ランニングコスト面でも優位にありました。そんな「ゴルフ」にとって、フル定員乗車や多くの荷物を搭載することや長距離を走ることはよくある状況で、トルクがあって燃費がよく、長距離走行に適したディーゼルエンジンは非常にメリットがあり、もってこいなのです。特に、より多くの荷物を搭載するワゴンモデルの「ヴァリアント」とは相性抜群。

もっとも分かりやすいのは燃費でしょう。「ゴルフ」はガソリンモデルでも高速巡航では20.0km/lをクリアすることもあり、一般道の含めた平均燃費でも15~16km/l程度は私自身も出したことがあり、決して悪くはありません。それが今回、TDIをテストしてみると高速で23km/l、下道も含めて18km/lだったのです。

カタログのWLTCモード燃費が18.9km/Lですから、オンボードコンピュータのデータとは言え、ほぼカタログ通りです。これを数日間、数百キロにわたってしっかりとテストすれば、さらに実用に近い数値を出すことも可能だと思います。今後、ロングテストの結果を得られたらご報告しますが、こうした優れた燃費効率は、軽油とハイオクガソリンの価格に30円/Lほどの差がある日本ではとくに経済的です。

熟成が進んだディーゼルモデルか新型か

端正なワゴンスタイルはゴルフ・ヴァリアントの大きな魅力でリゾートなどでも似合います。TDIモデルが登場したことでレジャーなどの行動範囲はさらに広がります

実用的に使い倒すヴァリアントだからこそ、燃費を含めたランニングコスト面でTDIの恩恵を受けられるわけです。さらにこの2LのTDIエンジンの最高出力110kW(150ps)/3,500〜4,000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgm)/1,750〜3,000rpmとなっています。もはや十分のトルクを発揮しますから、パワー不足などを気にすることもないと思います。

おまけにディーゼル特有の振動も音も、実に控えめで普通に走っているときにはほとんど気になりません。もちろん、ここからガソリンエンジンモデルに乗り換えれば、エンジン回転のスムーズで滑らかな上昇とは“やっぱり違うな”と感じますが、ストレスになるほどの差ではありません。

高速でも一般路でもアクセルを踏み込むとキッチリと加速して実に快適でした。ただし、今回は広々としたラゲッジルームは空っぽ、乗員も私一人と言う、最軽量でのテストです。本来は趣味の荷物を搭載し、家族や友人たちとロングドライブとなります。それを考えながらアクセルを改めてグッと踏み込んでみました。悪くはありませんが、欲を言えば「荷物を積むことなどを考えると、もう少々トルクが欲しいかな」などと感じたのです。せっかく登場したディーゼルモデル、あんまり文句を言っては、と思いますが待ちに待ったTDIですから「できればもう少し」と感じました。

さて試乗を終え、端正なリアスタイルを見ながら「相変わらずスッキリしていてカッコいいワゴンだなぁ」と感じつつ、ある事が頭をよぎりました。もうすぐ8世代目が登場予定の上に、ゴルフ・ヴァリアントTDIの価格は337万円から405万円であり、総じてガソリンエンジンのモデルより20~30万円ほど高価です。つまり“待望とは言え、こいつはお得なのか?”と言う悩みが出てきます。ドイツ車は「モデル末期ほど熟成が進んでもっとも美味しい」と言われますが、それはほぼ間違いありませんが、やはり新型が気になります。

新型ゴルフが登場しても、あまり気にならないと言うなら、TDIはいい選択だと思います。それにこの時期にディーゼルを投入したということは、新型になってもディーゼルモデルの投入は遅れる?あるいは新型の主力はGTE(プラグインハイブリッド)など新しいマイルドハイブリッドとなり、ディーゼルの運命はどうなるのか?といった疑問が湧いてきます。

実は9月、お膝元のドイツで開催された「フランクフルトモータショー」で登場するのでは?と言われていた新型ですが、今回は未公開。現段階で詳細は不明ですが、間もなく本国でデビューするのは確かですから、しばらく様子見でいいのかもしれません。今回のTDI、車の出来は申し分なく、欲しいとは思うのですが、一方で実に悩ましいタイミングです。そしてやっぱり実用車としてちょっぴりお高いかなぁとも思ってしまいます。

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