元DeNA久保康友が独白 日本で活躍しそうなメキシカンLの選手は? 「投手は正直…」

元中日、オリックスのマット・クラーク(左)と久保康友【写真:福岡吉央】

メキシカンLで1年間プレー「向こうの人はホウレンソウができない」

 元DeNAの久保康友投手は今季、メキシカンリーグのブラボス・デ・レオンでプレーした。厳しい環境でシーズンを通して先発を務め、26試合8勝14敗、防御率5.98、152イニングで154奪三振をマーク。奪三振数、投球回はともにリーグトップだった。

 開幕投手を務め、チームのエースとしてフル回転した右腕は、かつて日本で助っ人として活躍した選手ともプレー。日本では考えられないようなアクシデントが次々とあった一方で、チーム内でのルールが厳格だったことには「驚いた」という。メキシコの野球とはいったいどんなものだったのか。この1年を振り返ってもらった。今回は【野球編】の第2弾。

――チームメートにはどんな選手がいましたか?

「日本に馴染みのある選手では、中日、オリックスでプレーしたマット・クラーク内野手、ヤクルトでプレーしたカルロス・リベロ内野手、巨人でプレーしたマニー・アコスタ投手。DeNAでチームメイトだったギジェルモ・モスコーソ投手もいました。祖父の父が日本人で、日本の苗字が工藤という選手もいて『僕は君の話していることが12%分かるよ。僕の体には日本人の血が1/8流れているからね』と、よくジョークを言っていましたね。あとチームドクターが日本のアニメ好きで、僕よりも詳しかったです。

 選手は皆、明るい人ばかりで人懐っこいし、ツンとした奴がいない。向こうの人はホウレンソウ(報告、連絡、相談)ができないし、約束を守らず、嘘ばかり言う人もいて、実際にうちのチームのスタッフもそうだった。だから、仕事は絶対に一緒にしたくないけど、後腐れなく、変に根に持たないので、友達としては付き合いやすい。鼻につくような性格の悪い奴はいなかったですし、距離感が近くても全然嫌ではない。選手との触れ合いは楽しかったですね」

――シーズン中、選手が目まぐるしく入れ替わりました

「メキシカンリーグは各チーム30人がベンチ入りでき、投手と野手で半々くらいなんですが、開幕時にいた投手で最後まで残ったのは7人だけでした。日本はシーズン中に戦力外になることはないですが、メキシコは月契約なので、本当に頻繁に選手がクビになります。ただ、GMは基本チームに帯同していて、日本のように補強用の国内スカウトもいないので、他球団をクビになった選手の中から、数字だけを見て欲しい選手を獲得するというやり方。そして数試合結果が出ないと、すぐにクビにして他を探すスタイルなんです。

 日本のように使いながら育てるという感じではなく、選手は完全に使い捨てという考えだと思いました。うちは、シーズン途中に獲得した選手も含め、投手だけで20人以上がチームを去って行きましたが、非常に効率が悪いし、クビになった選手よりも新しく来た選手のほうが明らかにレベルが下ということも多かった。補強に関しては改善の余地ありだと思いましたね」

――メキシコの環境は?

「毎日色んなことが起こるのはある意味狙い通りでした。それを体験したかったので、メキシコを選んだんです。ただ、チームが移動のスケジュールを直前まで言ってくれなかったり、登板日当日に、始球式を務めるゲストの方とキャッチボールをして、始球式でも捕手役を務めて欲しいとか頼んでくるんです。こっちは試合開始時間から逆算してアップもしているから、急に言われても対応できない。でも、日本だったらこういうことで断ることができないけど、メキシコは、もっと早く言ってくれないと、急に言われても無理だと説明して断れば、それで通用する。自分に降りかかってくるのは大変なので、メキシコ流の頼み方に対しては、僕もメキシコ流で返していました」

元巨人のマニー・アコスタ(右)らと写真に収まる久保康友(中央)【写真:福岡吉央】

「日本に行って化学反応を起こしたらどうなるんだろうという選手はいました」

――地元の選手たちはどうしていたのですか?

「例えば試合中に照明が消えたり、雨でベンチ裏が水没したり、断水でトイレやシャワーが使えなくなったりと、毎日『マジかよ』と思うことが起こるんですが、メキシコ人はそれに対していちいち反応しない。それが日常で慣れてしまっているから、どんなことにも対応するんです。それは見習うべきすごいところ。

 ブルペンでも、投球練習の最中にフェンス越しに子供たちが『ボールくれ!』と言って話しかけてくる。日本みたいに囲まれた静かな部屋で勉強しなさいという環境だと、周りがうるさいと集中できない人になってしまうけど、こっちの選手は常にそういう環境に慣れている。僕は日本でプロになった後、例えばキャンプではブルペンでお客さんに一番近い側の、ガヤガヤした中であえて投球練習をしたりして、集中しづらい環境でも周りを気にせずに投げられるように訓練して、それを克服したけど、こっちの選手は子供の時からそういう環境に慣れている。中南米の選手にイップスがない理由も良く分かりました」

――チーム内のルールは?

「思っていたよりもきっちりしていて驚きました。去年、米国の独立リーグの時は自由な雰囲気だったので、メキシコももっと適当でよくて、自由にやれるのかと思っていたんです。でも実際は、キャンプ中は1か月間、1日も休みがなかったですし、プレーオフ進出が完全に無理になるまでは、ミーティングでも諦めるなとかコーチが言って、選手もそういう雰囲気を醸し出す。どうせもう無理なのに、表面上つくろわないといけないのは日本と似ていました。

 練習や打撃練習の球拾いも、ちゃんとやらないとやるように言われるし、集合時間や服装など、チームのルールの徹底も日本よりも厳しい。それは意外でした。ラテンの自由な考え方の選手がいろいろいるので、どんな感じなんだろうと思っていたけど、去年の米国の独立リーグとは真逆でしたね。練習すら参加するかどうか自由で、先発は試合でちゃんと投げてくれればいいという環境だったので」

――ファンとの触れ合いは?

「メキシコのファンは距離感が近くてすごくフレンドリーでした。その場をすごく楽しもうとしていて、裏がなく寄ってくる。大敗している試合でも、音楽に合わせて踊ったり、ヒットで走者が出塁したら大喜びしている。本当に野球や選手が好きで球場に来ているんだなと感じましたね」

――日本で見てみたいと思う選手はいましたか?

「今、日本で求められているタイプの選手というよりは、今までこんなタイプいなかったけど、日本に行って化学反応を起こしたらどうなるんだろうという選手はいました。1番タイプで長打が打ててブンブン振り回す選手とか。投手は正直、いいと思った選手はいなかったですね。95マイル(約153キロ)以上出て、腕が振れて、1つキレる変化球があるタイプじゃないと。防御率で上位に入っている選手でも、レギュラーとして先発5、6番手ならいけるかもしれないけど、助っ人としては厳しいかなというレベルです」

――メキシコの野球で感じたことは?

「例えば走塁、守備などに長けた選手が欲しかったら、選手を育てるのではなく、意識のある選手を獲るというのが向こうの考え方。日本なら『こうすればもっとよくなるよ』と教えるけど、海外は選手の数が多いから、この選手教えたら伸びるだろうなという意識が薄いんだと思います。余計な一言を言って、おせっかいみたいにするべきではないというのもある。興味がある人なら聞いてきたり、近づいてきたりする。こっちが良くないと思っていても、本人が良くないと思っていないなら、それは余計なお世話になってしまう。だから、守備位置や走塁を見ていて、もっとこうしたらいいのにと思うようなことは山ほどありましたけど、コーチも何も言わず、指導もしないんです。メキシコが国際大会であまり強くないのは、そういうところも原因だと思います」(続く)(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

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