佐世保工業会の製造業『人材確保策』 初任給上げ7割 4割が年間休日増 学生の意向 企業が意識 待遇改善“あの手この手”

 若い人材の県外流出抑止が課題となる中、長崎新聞社は佐世保工業会(47社、会長・中島洋一富士商工社長)の協力を得て、会員企業46社(親和銀行を除く)を対象に人材確保策についてアンケートをした。2018~20年に新卒を採用(見込み含む)している企業のうち、初任給を引き上げたと回答した企業は約7割に上った。年間休日を増やした企業も4割あった。県内製造業が人材確保に向け、待遇の改善に取り組んでいる状況が明らかになった。

 

 アンケートは、7月下旬に佐世保工業会事務局を通じて46社に配布。9月上旬までに9割を超える42社から回答を得た。
 42社のうち30社は、18年からの3年間に新卒(大卒、高専卒、高卒)の採用をするか、採用を見込んでいると回答した。
 このうち18年以降に新入社員の初任給(基本給)を引き上げたと回答した企業は22社(73.3%)に上った。1万円以上引き上げた企業も10社(33.3%)あった。産業機械製造の富士商工は、3年間で計1万8千円上げた。
 年間休日については、12社(40%)が増やしたと回答した。健康医療機器製造の日本理工医学研究所は、19年に7日増加。これに伴い、年間休日は大手並みの130日となっている。
 このほかの取り組み(自由記述)では、発信力を高めるためのホームページの刷新や資格取得の支援などが上がった。工業高校の生徒は県外企業との獲得競争が激しいことから、普通科高校の生徒の採用を検討している企業もあった。
 中島会長は「若い人を地元に定着させるため県や佐世保市の支援を受けており、企業努力も必要という認識が広がっている。リーマン・ショック後に採用を控え、社員の平均年齢が高い企業が多い。採用意欲がある企業は初任給の引き上げという“第一歩”を踏み出している。年間休日の増加は、人手不足の影響もありハードルが高いが、各社とも取り組み始めている」としている。

◆学生の意向 企業が意識 待遇改善“あの手この手”
 長崎県内製造業が初任給の引き上げなど従業員の待遇改善に取り組む背景には、学生が就職先を選ぶ際に賃金や福利厚生面を重視する近年の傾向がある。初任給の引き上げは大手も導入。佐世保工業会の企業の7割超は、こうした学生の意向を受け何らかの対策を講じていた。売り手市場とされる中で、各企業は“あの手この手”で若手人材の取り込みを図っている。

板金加工をする若手従業員。若手の人材確保に向け、県内の製造業は待遇改善に向けた取り組みを進めている=佐世保市広田4丁目、湯川王冠

 初任給を1万円以上引き上げたのは、相浦機械(大卒1万3800円、高卒1万3500円)、西日本工業(1万2千円)など10社。初任給ではないが「入社1年後の社員のベア」(東洋トラスト特機)という回答もあった。
 坂元木工工芸は、2019年に1万3千円上げた。坂元泰江取締役は「賃金が低いと選ばれない」と危機感を口にする。さらに、建築士などの試験について、合格時に受験料を負担する資格取得の支援制度も導入。資格によっては手当を支給する。坂元氏は「自信を持って仕事に励んでもらいたい」と、若者の定着に期待を寄せる。
 年間休日を5日以上増やしたのは、亀山電機(14日)や九州テン(5日)など6社。勤務時間の見直しでは、「残業時間の短縮」(西日本流体技研)、「深夜勤務の廃止検討」(湘南サンライズ工業)といった対応も見られた。
 19年に7日増やした日本理工医学研究所は、プレミアムフライデーも導入。阿比留宏社長は「会社が積極的に施策を打ち出さないと休みづらい」と社員の気持ちを代弁する。
 このほかの取り組みでは、「ウェブサイトの刷新」(大阪鋼管)、「採用専用サイトの立ち上げ」(協和機工)、「企業説明会に卒業生を同行」(藤沢精工)、「作業服を現代的に一新」(三駒鉄工所)などが上がった。
 湯川王冠は、好調な業績を背景に、1月に決算手当として総額約400万円を全社員に支給。普通科高校への求人も出した。湯川栄一郎会長は「専門的な技能は入社後に教育できる。ものづくりに興味を持ち、喜びを感じられるような素地が重要だ。毎年、新卒を2、3人は採用したい」と語った。

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