【台風15号】国や市の対応に批判 臨海部、情報共有遅れ

台風15号で被災した事業者と向き合う菅官房長官(右)と、林市長(同2人目)=18日午後6時10分ごろ、横浜市金沢産業振興センター

 工業団地が広範囲に浸水するなど甚大な爪痕を残した台風15号の被害状況把握を巡り、政府や自治体の対応に批判が相次いでいる。「国や市の姿がまったく見えない」「間違いなく『空白』が生じていた」。時間の経過とともに深刻な状況が明らかになる現状に、被災現場からは情報共有の遅れを指摘する声が噴出する。初動対応が後手に回り、全容把握に手間取った原因は何か-。行政の危機管理の在り方が改めて問われている。

 「私が知ったのは発生から3日後でした」。18日夕、横浜市金沢区の施設会議室。現地視察を終えた林文子市長が発した言葉に、出席者は耳を疑った。

 台風に伴う高波で約1キロにわたり護岸が損壊し、約470社で機器が水没するなどの被害が生じた臨海部の工業団地。事業再開も見通せない中小企業の経営者らは、自然の猛威に衝撃を受けるだけでなく、行政の危機管理対応の遅れにも不信感を募らせている。

 関係者によると、現場の惨状に関する報告が区役所や消防署に届き始めたのは、台風通過後の9日午前。しかし、市の当日の調査は海面からの目視などにとどまり、本格調査に乗りだしたのは翌10日以降だった。

 ニュース映像も踏まえ「ひどいことになっている」(市港湾局幹部)として、区や局の担当者による警戒本部会議を開催したのは2日後の11日。林市長ら市幹部が情報共有する被害対策会議の初会合は、さらに2日が経過した13日だった。

 市側は鉄道の計画運休や交通渋滞の対応に追われ、住民が少ない工業団地の被害状況入手にタイムラグが生じたなどと釈明した上で「情報伝達の横のつながりが全くなかった」(同)と庁内の連携不足を認める。林市長も「早急な全容把握に努める」とするが、20日時点でさえ全体像はつかめていない。

 これに対し、地元では「山奥の崖崩れでもないのに、被害の把握が遅すぎる」「同じ会社に4回も被害調査があった。情報共有ができていない証拠だ」といった批判が噴出。18日に市長とともに現地視察した菅義偉官房長官ら政府の動きに対しても、「内閣改造による初動遅れに対する批判の火消しだ」(野党議員)との見方が圧倒的だ。

 改正災害救助法が施行され、県を介さずに政府と直接交渉できる「救助実施市」になった横浜市。県は「未経験の暴風による想定外の被害だったかもしれないが、教訓として生かすにはさまざまな課題の検証が必要だ」としている。

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