マッチングアプリで真の愛は見つかるか?

ペアーズなどのマッチングアプリで恋人を見つけることは、もはや珍しいことではなくなりました。マッチングアプリ・ユーザーの若い層へのインタビューも交えながら、マッチングアプリの特徴、広がり、文化的インパクトなどを考えてみます。


ペアーズ婚の時代

近年、結婚式などで司会が新郎新婦のなれそめを紹介する時、合コンで知り合った場合は「共通の知人の紹介で……」と言ったり、マッチングアプリで知り合ったカップルの場合は「共通の趣味を通して……」などとぼかして言ったりすることがあるそうです。

私は大学教員ですが、確かに最近、卒業生たちから便りをもらうと、マッチングアプリ、特に「ペアーズ(Pairs)」で結婚相手や恋人を見つけた、ということをよく聞くようになりました。

インターネットを通じた男女の出会い。以前は、それにネガティブなイメージもつきまとっていましたが、現在ではそんなイメージもだいぶ後退し、年々一般化しています。ある報道では、マッチングアプリなどの市場は、530億円規模の市場だという試算もあります。(参照:「日経WOMAN」2019年8月号)いわゆる婚活だけでなく、恋活にも活用されており、また、大学生もユーザーとしてかなり参加するようになってきています。

伊藤早紀『出会い2.0:スマホ時代の「新」恋愛戦術』(ゴマブックス、2018)の中でも、ペアーズは、17種類の人気マッチングアプリの中でも冒頭で紹介されています。

「累計会員数700万人の王道マッチングアプリ……男女ともに、とにかく会員数が多く、検索条件をワガママに絞っても候補者がたくさん出てくるので、必ずといっていいほど良いと思える人を見つけることができるでしょう。」(p. 58)

男性会費は月額3480円から、女性会費は無料。当初、このアプリはfacebookアカウントと連携しており、その意味で、会員資格への信頼度が相対的に高かったようです。もちろん、facebook上の友達はマッチング候補としては表示されない仕様です。

実際の話しを聞いてみると…

今回、複数の若い層の方々にインタビューをすることができました。ある社会人女性(20代後半、製造業)は、ペアーズでのべ1500人の男性からアプローチを受けたそうです。今は、ペアーズで知り合った2人目のパートナーと、結婚を前提に同居しているとのこと。しかし、今でも時々、パートナー公認のもとで、マッチングアプリにログインし、他の男性からのメッセージ等が複数あることで、自分が「女性としてまだイケてるのか」を確認していると言います。

こうしたアプリを使い始めるにあたっては、特に女性の場合、友人が既に使っているということが大きな影響を与えているようです。上記のように、男女で受け取るメッセージの平均数が大きく違うのも、こうしたインターネットの出会いの特徴です。年齢層は広がってきては居るものの、ペアーズで男性会員が「いいね」を最も多くもらえるのは30歳であるという調査結果 もあることから、婚活ないし婚活前後の恋活が、ペアーズ・コミュニケーションの中心と言えそうです。

同じくインタビューしたある社会人男性(20代前半、医療事務)は、ペアーズで70名ほどの女性にアプローチし、20名ほどと会い、3名とお付き合いしたそうです。合コンや社会人サークルといった集団生活にやや苦手意識をもつ彼にとっては、ペアーズやティンダーは、恋人をみつけるためのたいへん効率的なシステムだと言います。

次に話を聞いたのは、有名大学卒で、大手IT系企業に勤め、週末はDJもする男性(30代)です。彼にとってペアーズは、サブカル関連で趣味の合う女性を検索しやすい仕組みだったそうです。ただし、ペアーズで出会った最初の2人は外見があまり好みではなく、また比較的気に入った3人目の方とは結局交際が成立しなかったとのこと。今は、ネット経由ではなく、クラビング活動で知り合った社会人パートナーと、結婚を前提にお付き合いしているそうです。

インタビューや国内外の文献調査を通じて、マッチングアプリでのコミュニケーションについてのその他の傾向も明らかになってきました。

どうやって相手を選んでいる?

まずはプロフィール写真について。「みんな2〜3割増しの自撮りなどをプロフィールに掲載しているので、実際に会ってみると期待していたほどではなかったこともあった」という声がありました。それだけ、オンラインの出会いにおいて、1枚の写真の持つアピール力は不可欠ということなのでしょう。

どれだけインターネットが文字ベースのコミュニケーションに適しているとしても、こと恋愛という次元になると、見た目の第一印象という、非常に身体的な感覚がモノを言うようです。

また、女性のユーザーからは「相手の男性の年収は、自分と同じぐらいか、少し少なくても構わないが、学歴は自分より上であってほしい」という声が複数ありました。

その他、こうしたマッチングアプリ/サービスについては、どの国でも一般的に、同性愛者のほうが以前から、より多く、より頻繁に利用する傾向があると言われています。

もちろん、使いやすくなったからといって、必ずしもすべてのユーザーが首尾よく理想の出会いを見つけられているわけではありません。こうした「恋愛完全自由市場」な空間においては、潜在的には、一部の少数のモテる男性に、多数の女性の注目が集まる傾向があります。海外の研究では、マッチングアプリが、モテる人ばかりが得をする空間のように思える、という男性ユーザーの声も紹介されています。

(参照:Hobbs, Owen, and Gerber. 2017. "Liquid Love? Dating Apps, Sex, Relationships and the Digital Transformation of Intimacy." Journal of Sociology 53(2): 271-284.)

アメリカ文化の中の出会い系

アメリカでは、日本以上にオンラインマッチングが盛んです。2005年から2012年のデータで既に、結婚相手と出会った方法としては、職場や友人(の紹介など)を抑えて、オンラインマッチングが1位(34.95%)になっています。(参照:アジズ・アンサリ 2016 田栗美奈子訳『当世出会い事情:スマホ時代の恋愛社会学』亜紀書房)もはや、アメリカでは伴侶と出会う方法として、オンラインマッチングが完全に主流となったようです。オンラインマッチング現象は、TEDトークでも取り上げられたり、2019年にはオフ・ブロードウェイ・ミュージカル(#DateMe)になったりしています。

日本ではペアーズが注目されていますが、アメリカで現在、マッチングアプリで最も話題となっているのはティンダーです。「ティンダー」は、ほぼプロフィール写真を見た第一印象だけで、ページを次々とめくるかのように、気に入れば右にスワイプ、気に入らなければ左にスワイプして、気に入った人同士がマッチし、連絡を取ることができるという仕組みです。

いわゆるhook-up、その場限りの恋愛を推奨しているような印象で、これまでの英米の報道では必ずしも良いイメージばかりとは言えないティンダーでしたが、社会学者ホブスらの調査によれば、ティンダーのユーザーたちであっても、理想としての一夫一婦制は揺らいでおらず、また長期の安定的な交際を志向する傾向は変わってない、との観測がなされています。(参照:Hobbs, Owen, and Gerber.)

また、facebookの交際ステータス欄の記載方法として日本でも多少注目を集めた、いわゆる「オープンな関係」(パートナーの異性交遊に干渉しないという関係)というものもありますが、ティンダーのユーザーでオープンな関係を良しとする人が多いわけでもなかったとのことです。

自身のアメリカでのオンラインマッチング体験を新書に著したハワイ大学教授・吉原真里も、次のように述べています。

「お互いに意味のある交際につながっていった相手であるほど、出会いがオンライン・デーティングであったということは、その後の関係にはそれほど意味がなかった。いったん付き合うようになれば、二人の感情や問題は、それぞれ固有の形をなすし、それを深く実のある関係につなげていく術は、二人の真摯な努力と態度以外にはなく、インターネットという媒体とは関係がないからだ。」

(参照:吉原真里 2008『ドット・コム・ラヴァーズ:ネットで出会うアメリカの女と男』中公新書。)

マッチングの心理

こうしたオンラインマッチング隆盛の背景とは何でしょうか。特に日本では、諸外国と比べても、恋人が居る人の割合がそもそも低く、未婚化・晩婚化・少子化も同時進行中です。「職場恋愛をすると別れた時などに面倒だ」といった意見も今まで以上によく耳にします。そのような状況下では、オンラインマッチングに可能性を見出しても不思議ではありません。

自分と趣味や条件のピッタリ合うかけがえのない相手(昔ふうに言えば「赤い糸で結ばれた相手」)が、都市的な広い空間のどこかには居て、出会えるのかもしれない。そんな期待を持たせてくれるのがオンラインマッチングです。

メディアを通した出会いについて、古くは、雑誌の文通欄というものもありました。次に電話のコミュニケーションやポケットベルが隆盛を迎え、そして21世紀にはインターネットとスマートフォンの時代が到来しました。新しいメディアは、出会いの魅力とともに発展してきた面もあります。

マッチングアプリによって、パートナー選びにおける選択肢が際限なく拡大することは、絶え間ない適応をしてゆかなければならないということでもあります。マッチングアプリで出会っても、長続きしない、しかし次なる相手はまたアプリの中に居るかもしれない……そんな状況の中で「婚活疲れ」をしてしまう人もまた居ることでしょう。

また、新しい出会いの仕組みには、ある種のうしろめたさはつきものです。ペアーズで知り合った相手と結婚し、出産も経験したある女性は、次のように語っています。

「多少のうしろめたさはあります。親や親族にはオンライン上で出会ったと説明しても理解してもらいにくく、また相手に変な偏見を持たれても嫌だったので、結婚が決まった時に『出会い』については『友達の紹介』とぼかして説明しました。ただ周りの友達はマッチングアプリをやってる子も多いので、ペアーズで知り合ったと正直に話していました。」(20台代後半女性、主婦)

もっとも今は、マッチングアプリで知り合ったことを公言する若い人も増えてきています。都市の人間関係には、人間が交換可能な存在であると思わせるような面も時にはあります。しかしたとえそうであったとしても、今の時代に、マッチングアプリ的な仕組みの持つ有効性や、ある種の魅力を消し去ることはもはやできないでしょう。そうであるのならば、その賢い活用法を洗練させていったほうが現実的であるはずです。

アメリカのスタンドアップ・コメディアン兼俳優のアジズ・アンサリは、社会学者と組んで論じた現代出会い事情についての著作の中で、結論として次のように述べています。

「今日、パートナーを見つけるのは、おそらく昔の世代よりも複雑でストレスのかかることである/だが、本当に夢中になれる相手と結ばれる可能性も以前より高くなっている」

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