西武担当者が語る飲食部門 野球と同じで「守りの部分が重要」【パお仕事名鑑 Vol.6】

西武ライオンズ事業部コンセッション担当の玉井悠野さん【写真:パ・リーグ インサイト】

西武で事業部コンセッション担当を担う玉井悠野さん

 グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援する、パシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」で、パ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

 西武ライオンズ事業部コンセッション担当の玉井悠野さんが手がけるコンセッション業務とは、球場内の飲食関連事業のこと。70店舗以上というNPBでも最大級の飲食施設を持つライオンズの本拠地メットライフドーム。この管理、運営はかなり大変なのではないかと想像するが、意外な注力ポイントや、考えなければいけないことがあると言う。まずは業務内容から聞いてみよう。

「業務の範囲としては、テナント管理、リーシング、契約などです。入っていただいたテナントさんと実際に何を売ろうかという調整や、球場らしいグルメの商品開発も一緒に進めながら販売活動までの管理とサポートをします」

 試合開催日の華やかで楽しい飲食ブースを我々は見るわけだが、実際の仕事は、その裏側を支えていくことこそがメインと言える。「おいしい」「楽しい」をテナントと一緒に作り、来場される方に来てよかったと思ってもらうために、こんなことも重要だと玉井さんは言う。

「テナントさんには、“ライオンズ”というブランドを背負って営業していただいていますが、実際にお客様と接するのはテナントさん、そしてアルバイトの方。実際にお客さまと接する方々にライオンズのブランドを背負っていることを理解してもらった上で、ひとつひとつの行動が球場に来るお客様の満足に直接関わっていますよということを伝えて、実際にそういう行動をしていただくことも大切です」

 それを実践するための管理業務や球場での身だしなみ、接客のルール作りをして運用していく。しかし、それが70店舗に及ぶ。これは大変な業務だ。

飲食部門における「攻める部分」「守りの部分」は?

「ホスピタリティを担当する他の部門とともに、最近では研修など一堂に集まっていただいて接客・サービスについての指導や、意識改革にも取り組んでいます。管理業務という面では、私の業務の範囲では細かいこともたくさんあります。例えばテナントさんがキッチンカーで出勤途中に事故を起こしたりすると『埼玉西武ライオンズの本拠地、メットライフドームで出店している〇〇屋さん』と報道されてしまう可能性もあります。細かいことですが、そのあたりの意識づけ、移動や搬入のルールなど、お客様と接するところ以外も細かく運用していかなければいけません」

 飲食の仕事というと、売店の華やかさや、ユニークなメニューというところに話は行きがちだが、テナントやアルバイトにブランドを背負ってもらうための努力まであるというのは意外だ。

「攻める部分と守る部分があって、攻める部分は、良い商品を作り、多くのお客様に販売してもらい、ホスピタリティマインドを持って接客する。実際、大事なのは守りの部分。これは食品衛生や施設管理などです。店舗の設備に不具合や不衛生なところがあったらそもそも営業できなくなってしまいます。あとはレジのシステムもそうですね。オペレーションを改善することなど守りの部分というのが、業務としては重要だなと思います」
 
 玉井さんは、高校までは野球部に所属。スポーツビジネスに関わる仕事に就くとは、その時には思っていなかった。きっかけは大学時代に留学したカナダ・バンクーバーでその魅力を感じたことだった。

「バンクーバーにはバンクーバー・カナックスというNHLのアイスホッケーチームがあるんですよ。そこのチームカラーが青。試合日には街中の人が全員青い服を着ているようなすごい盛り上がりなんです。それに衝撃を受けました。プロスポーツの影響力をまじまじと感じました。人と人をつなげて街を一体化させて、ポジティブなエネルギーを出すビジネスだなと理解して、これを作り上げているのは誰なんだというところに興味が沸きました」

 これをきっかけに大学時代からスポーツ業界を目指しさまざまな活動を開始。ただ、スポーツビジネスの世界はなかなか新卒採用がなかったため、マーケティングリサーチ分野の企業に就職した。

「ライオンズというブランドがある仕事は、自分の成果が見えにくい」のはなぜか?

「営業を担当しました。いろんな会社や業界の商品開発や市場調査という経験が、スポーツ業界でも生かせるかなと思い選びました」

 そして26歳。希望通りというか、幸運というのか、ライオンズに採用された。念願かなった業界だが、考えることもあるようだ。前職の営業という「自分の成果が数字として見えやすい」仕事と比較すると、「ライオンズというブランドがある仕事は、自分の成果が見えにくい」のだという。

「例えば、ライオンズというブランドを使うと、“良い成果が出てしまう”こともあります。新しい商品を出せばそれなりに売れるし、それなりにお客様が反応してくれます。もちろん、悪い商品は売れないので実力が出るところもあります。ただ、全体的には自分の能力以上のものが成果として出やすいので、自分の成果と成長が実感しづらい環境だと私は思っているんです。かつ、シーズンは1年間。4月に決めた方針や施策は来年4月まで動かしにくい。営業職のようにクォーターや短期間ごとに成果と改善のサイクルがしにくい点も業界の特徴だと思っています」

 逆に、ライオンズというブランドの強みを生かせるとも言える。

「それをうまく活用して自分のやりたいことができるのは良いことです。選手プロデュースメニューは好例です。選手のお弁当として売ることでお客様に喜んでいただけるし、その喜びを提供できたうえで売上にもなる。なにか新しいことをやるにしてもライオンズというブランドの価値を使えるというところは、この仕事をしている魅力だと思います。そうやってお客様がもっとライオンズのことを好きになってくれると嬉しいです」

 ブランドを背負っているからこそできることと、自分の実力が見えにくくなってしまう部分。球団というブランドがある会社だからこそ大変だし、やりがいも大きい。その中で玉井さんが今後取り組んでみたいことは何だろうか?

球団の飲食部門で求められる人材像はどんなものか?

「意識しているのは“今いる場所で花を咲かせる”ために目の前の仕事を一生懸命するということです。“花を咲かせる”の定義は人それぞれだと思っていますし、1つの部署や会社に居続けることを推奨しているわけではないです。目の前の仕事を一生懸命できない人は、先を見たところで成果や成長はないと思っています。例えば私は、2021年に向けて進行しているメットライフドームの球場改修において、飲食関係の業務として少しでも携わりながら、自分の経験を積み上げ、広げていきたい。これを通じて、最終的に業務の中心となって、関わる人を動かしていけるような、能力、役割、責任を得られればと思っています。球団にどれだけ貢献できるかという軸と、一緒に働く方々にどれだけ貢献できるかという軸。そこに重なる部分で自分のスキルアップがどれだけできるかに取り組んでいきたい」

 飲食というホスピタリティ、エンタテインメントをファンに提供するためには、多岐にわたる業務があることを紹介したが、その業務がプランに基づいて円滑に遂行されるためには、各々の業務で、各々が能力を発揮して役割を果たさなければいけない。それは野球チームのようでもある。

「コンセッション担当として一緒に働いている球団職員がそれぞれ役割を持っていますが、それぞれがやりたいことに挑戦できる環境があるか。私自身の今の仕事に加えて、今後目指す仕事、立場として、一人ひとりが無駄を省き業務に集中して、やりたいことにチャレンジできる環境をつくっていくことを意識しながらやっています」

 では最後に、この業界を目指す人たちにはどんなものが必要だろうか?

「自分を客観視できる能力でしょうか。理由は2つあって、1つは、全体を俯瞰し、自分の業務がどういう位置づけにあるのか理解するためです。1試合を開催するのに、さまざまな業務が各所で同時進行してお客様にサービスを提供することで成り立っています。さまざまな人が一緒に働く現場なので、自分の業務に関する認識だけで動いていくと、細かな認識のズレや情報に行き違いなどでお客様に迷惑がかかります。自分の業務を引いた視点で見ることが大事だと思います」

「もう1つは自分の実力と会社のブランド力を認識するためです。ここまでは自分の実力、ここまではライオンズのブランドの力だと認識できるかというのが大事。自分の実力と会社の力を理解把握した上で、存分にライオンズというブランドを活用してチャレンジをして、自分の経験とスキルを積み上げていけばいいと思っております。何かをやり遂げたら、“自分はこれができるようになった”、“こういう経験をした”、と周りに言えるように自分自身で腹落ちできればよいと思います」(「パ・リーグ インサイト」岩瀬大二)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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