EPICソニー名曲列伝:バービーボーイズの新感覚ギターはもっと評価されるべき! 1986年 10月1日 バービーボーイズのシングル「なんだったんだ?7DAYS」がリリースされた日

EPICソニー名曲列伝vol.14

バービーボーイズ『なんだったんだ?7DAYS』
作詞:いまみちともたか
作曲:いまみちともたか
編曲:バービーボーイズ
発売:86年10月1日

前回書いた「EPICソニー名曲列伝:渡辺美里『My Revolution』エピック黄金時代がやって来た!」で書いた「黄金時代」とは、つまり、新感覚の音楽が、EPICソニーというレーベルから多数輩出された時代のことを指す。具体的には80年代後半のこと。

そんな中でも、このバービーボーイズの新しさは屈指のものだと思う。新しすぎて、このバンドを当時、どう位置づけていいものか分からなかったものだ。そのせいか、この曲の段階では、それほど売れてはいない。オリコン最高位50位、0.9万枚。

まずは名前。「BARBEE BOYS~ バービーボーイズ」。この「B」(バ行)のしつこさと語呂の良さ。そして「BOYS」という名前に反して、ツインボーカルの片方は女性だ。それも、スカートをひらひらさせて、めっぽう艶(なま)めかしい。

もう1人のボーカルは男性。超絶高音ボーカルで歌い上げる彼はソプラノサックスを持っていて、こちらも高音で吹きまくる。

曲名も珍奇だ。『なんだったんだ?7DAYS』。しかしこちらも不思議と語呂が良く、思わず口にしたくなる。「な『ん』だ『っ』た『ん』だ?せぶ『ん』でいず」と「ん」と「っ」を多用してリズム感を発生させている。また「なんだったんだ?」という会話調も当時、非常に新しかった。

などなど、パッと見だけでも、新しい記号が詰まっていて、こういうバンドを面白がって世に出し、それが一定の支持を得ていくというあたりが、「EPICソニー黄金時代」の真骨頂なのだが。

しかし、彼らの新しさ、その本質は音にあると思う。今回この『なんだったんだ?7DAYS』を、あらためて何度も聴いてみて、地味ながら驚くべきことを発見したのだ。

楽器編成が異常にシンプルなのだ。ドラムスとベースとギターのみ。もっと言えばキーボードが入っていない(細かく言えば、間奏後にピアノらしき音が少しだけ入っているが)。さらにそのギターの音が、何というかペラッペラなのである。

80年代中盤は「ギター不遇の時代」だったと思う。キーボードの時代、具体的には「ヤマハDX7の時代」で、ギターがダサく見えていた頃である。より俯瞰して80年代全体を見れば、それはバリバリと歪む「ディストーションギターの時代」だった。

何が言いたいかというと、86年あたりにペラッペラのギターを弾くということは、かなり勇気のいることだったということだ。

ただ、この『なんだったんだ?7DAYS』において、真に驚くべきは、そのペラッペラのギターがやたらと冴えていることである。単音弾き、アルペジオ、アンサンブル(数本ダビングされている)を駆使して、何とも垢抜けた爽快な音を作り上げている。

ギタリストの名前は、いまみちともたか。今回、彼の音楽的源流を探るべく、89年発売『ROCKIN' ON JAPAN FILE vol.2』(ロッキング・オン)における彼への「2万字インタビュー」を読んでみた。分かったことは、まず彼がかなりのビートルズ・フリークということ。加えて、こういう興味深い発言があった。

「いや。えーとね、はっきり言って自分から絶対聴かなかったのはレッド・ツェッペリン。(中略)俺は怒り狂って絶対聴くもんかと思ったの」

「みんなパープルのコピーだ、ウィッシュボーン・アッシュだとか言ってる時に、ビートルズがいいなぁ、とかね(笑)」

日本のギタリストとしては、かなり珍しい発言だろう。日本のギター少年の大多数がこよなく愛していた、ディストーションギター前面のハードロックを敵視し、ギター単体で見れば、ハードロックよりも格下と思われていたビートルズをこよなく愛したギタリスト。

いまみちともたかという音楽家が持っていた、新感覚の根源をこの発言に見る。ディストーションを使わない(ビートルズ時代のような)ペラッペラの音で弾くということは、フレージングやボイシング、アンサンブルに、相当な工夫が必要となる。それをやり遂げることで、個性的で新しいバンドサウンドを、この日本に確立してやるぞ――。

80年代中盤の「ヤマハDX7の時代」に、ギター界に革命を起こしたギタリストを2人挙げるとすれば、布袋寅泰といまみちともたかだろう。布袋寅泰が、その派手派手しい音や存在感でアマチュアギタリストの憧れとなり、後のバンドブームの導火線となったのに対して、いまみちともたかは、先のような込み入ったギター観のせいか、布袋ほどには語られていない感じがする。

いまみちともたかのギターはもっと語られ、もっと評価されるべきだ。

この冬はその契機となるかもしれない。バービーボーイズは今年12月18日に29年ぶりの新作アルバム『PlanBee』をリリース。また来年の1月13日には国立代々木競技場第一体育館で、約10年ぶりとなるワンマンライブ「突然こんなところは嫌いかい?」を開催するという。ライブタイトルはまた会話調だ。

カタリベ: スージー鈴木

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