鉄道の「レールの断面」には、なぜ“くびれ”がある?

一般的な鉄道の線路では、まくらぎの上に鉄のレールが2本締結してあります。

このレールの断面がどんな形になっているかご存知でしょうか。


ふだん見ることがないものなので、ご存知でない方もいるでしょうが、レールの断面は、漢字の「工」という字に似た形をしています。

一般的なレールの断面

山陽電気鉄道や伊豆箱根鉄道のように、この形を社章に盛り込んでいる鉄道会社も存在します。

一般的なレールには、「頭部」や「底部」と呼ばれる部分があります。「頭部」は車輪と接する部分で、幅が狭くなっています。「底部」はまくらぎと接する部分で、幅が広くなっています。「頭部」と「底部」の間は細くくびれており、「頭部」よりも幅が狭くなっています。

このような断面のレールは、「平底レール」と呼ばれており、日本の鉄道だけでなく、世界中の鉄道で使われています。

そこで問題です。鉄道のレールの断面は、なぜこのような形になったのでしょうか。レールの歴史をざっくりとたどりながら、その理由を探ってみましょう。

L字形レールと双頭レール

レールの起源については諸説ありますが、現在の鉄製レールの原型となった断面がL字形のレールは、18世紀後半に考案されました。ドイツの首都・ベルリンにあるドイツ技術博物館には、当時使われていたL字形レールのレプリカが展示されています。

L字形レールのレプリカ

この写真からわかるように、このL字形レールは、車輪を下から支えるだけでなく、垂直になった部分が車輪の脱線を防ぐ役割も果たしていました。当時は、脱線を防ぐつば(フランジ)を車輪に付けない代わりに、レールに付けていたからです。現在の一般的な鉄道のように、車輪にフランジをつけるようになったのは、この後の話です。

19世紀に入ると、フランジ付き車輪に対応するレールとして、双頭レールが考案されました。

双頭レール

これは断面がI字形のレールで、平らになった「底部」がない代わりに、2つの「頭部」が上下両方にありました。

双頭レールは、1872年に日本最初の鉄道が新橋・横浜間で開業したときにも使われました。東京の汐留再開発地区にある旧新橋停車場の屋外には、双頭レールを敷いた線路が展示されています。

断面形状を上下対称にした背景には、レールの再利用を可能にするという構想があったのですが、実際はその通りにはならなかったようです。片側の「頭部」がすり減ったら、上下逆にして、もう一方の「頭部」を上に向けて使えるようにしたものの、レールを支える支持台との接点が損耗したので、再利用が難しかったようです。

ビニョルレールから平底レールへ

双頭レールには大きな弱点がありました。それは、レールをしっかりと支える大掛かりな支持台がないとまくらぎに締結できないということです。まくらぎの上に、どちらか一方の「頭部」を上に向けて置くと、左右方向に不安定になるからです。

そこで、双頭レールよりも容易に締結できるレールが考案されました。その代表例に、1830年代にイギリスで考案されたビニョルレールがあります。これは、双頭レールの「頭部」の一方を平らにして、幅を広げたような断面で、現在の平底レールの背を低くしたような構造になっていました。

その後、改良を重ねて、現在使用されている平底レールが開発され、世界中に広がりました。生産性を重視しながら、磨耗しやすい「頭部」を上下方向に分厚くしたり、「底部」をまくらぎに締結しやすくするなどの工夫を繰り返し、ブラッシュアップした結果です。

くびれの理由は?

では、なぜ「頭部」と「底部」の間が細くくびれた形になったのでしょうか。これは、成形が容易であるだけでなく、材料を節約できるという利点があるからです。つまり、圧延(ローラーを使って材料に力を加えて成形する方法)によって成形しやすい形であるだけでなく、必要な剛性や強度を保ちながら、断面積を減らし、使う材料を減らすことができる形でもあるのです。力学的合理性とコストパフォーマンスの両立を目指したという点では、近年建材で多用されているH形鋼とも似ていますね。

以上、レールの断面形状の歴史をざっくりと説明しました。割愛した部分もありますが、人類が試行錯誤を繰り返して、現在の断面形状にたどり着いたことは、ご理解いただけたかと思います。

それでは最後に、トリビアを1つご紹介しましょう。現在、日本の鉄道の一部区間では、断面が上の図のような形をしたレールが使われています。さあ、このレールは、どのような区間に使われているでしょうか。

答えは、道路の路面に、線路(軌道)がある併用軌道区間です。代表例には、路面電車があります。

このレールは、車輪のフランジが通過する空間を確保するため、「頭部」の一部が下に凹んでいます。上からは見ると溝が刻んであるように見えるので、「溝付きレール」と呼ばれています。

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