《GT300決勝あと読み》タイトル争いはARTA優勢も、劣勢のなかの好走で土俵際で踏みとどまったグッドスマイル 初音ミク AMG

 スタート直前のまさかの降雨により、タイヤ選択が非常に重要な一戦となったスーパーGT第7戦スポーツランドSUGO。GT300クラスでは、この選択でウエットタイヤを履いたマシンたちが上位争いを展開したが、ブリヂストン優勢のなかで奮戦をみせたグッドスマイル 初音ミク AMGが2位を獲得。タイトル争いに“土俵際”で踏みとどまった。

■スタート直前のまさかの降雨

「ウソでしょ!?」

 ウォームアップを終え、グリッドへ各車が向かうタイミング。ピットでマシンを送り出したチームスタッフたちが一斉に空を見上げた。スーパーGT第7戦スポーツランドSUGOの決勝直前、予報が出ていたとはいえ、そのタイミングで降り出した雨は、スタート直前のタイヤ選択を悩ませることになった。

 近年、スリックタイヤは発熱していれば比較的水量が少ないウエット路面なら走ることができる。スタート直前に降り出した雨は粒が小さく、すぐに路面を濡らすほどではなかった。ウエットか、スリックか……。各陣営は、スタート5分前の作業可能時間ギリギリまで頭を悩ませることになった。

 今の時代、チームが多く使うのはスマートフォンの雨雲レーダーチェック用アプリなのだが、この日のスポーツランドSUGOは2万5100人ものファンが訪れており、携帯電話の電波がつながりにくい状況にもなっていた(この点は改善をお願いしたい部分でもある)。そんな時のセオリーとしては“周囲の選択に合わせる”ものだが、それでも各陣営でタイヤ選択が分かれた。

 天気予報としては、この後降り続ける予報が出ていたものの、かろうじてチェックできたレーダーでは雨雲は周囲になかった。その点で、結果的に“ハズレ”となったスリックタイヤを選んだチームの選択も理解できる。また、「ウエットでのペースを考えたとき、どちらが後悔しない選択だったか(土屋武士監督)」とスリックを選んだHOPPY 86 MCのようなチームもあった。

 セーフティカーランの後に始まったレースでは、ウエットが正解となっており、上位はウエットを選んだARTA NSX GT3が首位に。さらに後方から追い上げをみせたLEON PYRAMID AMG、K-tunes RC F GT3と、ウエットに強いブリヂストン装着車が上位に進出してくる。そんななかで奮闘をみせたのが、片岡龍也駆るグッドスマイル 初音ミク AMGだった。

■タイヤ選択を左右した片岡のひと声

 実は、チームの河野高男エンジニアは、スリックを装着するつもりだったという。しかし、そこで片岡にどちらにするか意見を聞いたところ、悩んだあげく返ってきたのは「ウエットでお願いします」という返事だった。作業可能時間ギリギリにトルクレンチの作業が終わったのだとか。

「ランキングトップのARTA NSX GT3がウエットタイヤを選んでいて、そこに大差をつけられてしまうとチャンピオン争いでノーチャンスになるということもあり、いろいろな点からウエットタイヤを選択しました」と片岡は決断の理由を語った。

 そこから片岡はトップのARTA NSX GT3を追っていくが、序盤履いていたのは、3段階の柔らかさがあるうちの最も硬めのウエットタイヤ。これが序盤のコンディションにマッチしていた。しかしレース中盤、水量が増えてくると片岡のペースが厳しくなってきてしまう。そしてそのタイミングでカルソニックIMPUL GT-Rのコースオフがあった。

 チームは急いでピットインの準備を進め、セーフティカー導入直前にピットインすることに成功した。「いつもだいたい、セーフティカーのタイミングで失敗することが多いんですけど、今回は普通に、セーフティカーを“食らわず”にレースができました」と谷口信輝が言うとおり、タイをはじめSCに泣かされてきたグッドスマイル 初音ミク AMGに今回はタイミングが味方した。

 後半スティントで谷口が装着したタイヤは、3段階のうちの2段階め。コンディションにも合っており、一時ARTA NSX GT3とのギャップを詰めたが、これはARTA NSX GT3を駆る福住仁嶺の前を走っていたGT500マシンが“フタ”をしていたため。ARTAがこれの前に出ると今度は谷口が詰まってしまい、最後は2位でチェッカーを受けた。

■踏みとどまった3台。ARTAは昨年の悔しさを晴らせるか

「最終的に55号車には届きませんでしたけど、この天候で2位になったことは上出来じゃないかなと。ふつうに考えればブリヂストンだけの表彰台になると思いますから」と谷口が言うとおり、ブリヂストンが速いSUGO、そしてウエットという状況下での2位は非常に大きい。

「この2位という結果はすべてドライバーですよ。ブリヂストン勢に負けている部分がありますが、やっぱり運転手が頑張ってくれたから」と河野エンジニアもふたりのドライバーを賞賛した。

 この結果で、もし仮にARTA NSX GT3が最終戦で無得点になり、グッドスマイル 初音ミク AMGがポール・トゥ・ウインを飾れば、逆転チャンピオンの可能性も残すことになった。まさに土俵際ではあるが、まだ可能性はゼロではない。「99.9%、ARTAがチャンピオンだとは思いますが」と河野エンジニアは言うが、何があるか分からないのがスーパーGTだ。

 もちろん、今回3位に入り、ランキング2位につけたK-tunes RC F GT3の新田守男も「昔、僕と(高木)真一で組んで、最終戦の前に10ポイント差以上をつけていてもチャンピオン獲れなかった年もあるから(笑)。悔いが残らないようにしたい」とまだあきらめてはいない。

2019年のスーパーGT第7戦SUGOを制したARTA NSX GT3

 今回の優勝でチャンピオン争いはARTA NSX GT3の大きなリードとなったが、雨中の一戦で“踏みとどまった”K-tunes RC F GT3、グッドスマイル 初音ミク AMG、そして20.5ポイント差のリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rとも、最終戦はどんな戦いを演じてくれるのか。そして、追われる立場のARTA NSX GT3は、昨年の悔しさを晴らすのか……。1カ月先のもてぎが実に楽しみになってきた。

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