<再ブレーク盤> 清春『Covers』 妖しげな声によって人物の感情が鮮明に…

清春『Covers』

 メジャー・デビュー25周年を記念した初カバー・アルバム。カバーには、原曲の作風に忠実に歌声を当てるタイプと、独自の解釈を加えその魅力をあぶり出すタイプがあるが、本作は明らかに後者だ。

 全11曲、70年代から00年代の邦楽曲が選ばれており、渋谷系のオシャレな『接吻』(ORIGINAL LOVE)も、フォーク系の『アザミ嬢のララバイ』(中島みゆき)も、彼の歌声によって、すべて退廃美に染まるのが見事だ。

 もともとブルージーな『傘がない』(井上陽水)や『月』(桑田佳祐)は彼の真骨頂で本当に上手い。変化が興味深いのが『想い出まくら』(小坂恭子)で、原曲でさめざめと泣く女性が、清春版ではやさぐれて嗚咽混じりになる。時に原曲のリズムやメロディーを崩した緩急のある歌唱の良さは、とても採点機では判定できない。

 最も意外なのは、『SAKURA』(いきものがかり)だろうか。清らかなイメージのある曲を彼が歌うと、散り際の刹那やその不可抗力が浮き彫りになる。どの曲も、妖しげな声が登場人物の感情をより鮮明にしていて、あらためて凄い歌手だと感心した。

 初回盤には32Pの写真集と、カバー曲のほかsadsのセルフカバー『忘却の空』も追加したDVDを収録。本作を堪能すれば、たとえ王道から外れても大切にすべきものを考えるキッカケになるはず。

(ポニーキャニオン・CD+DVD初回限定盤 4630円+税)=臼井孝

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