5年ぶりリーグ優勝の巨人、原監督が作った4人の軸 坂本勇、阿部、丸、そして亀井

巨人・原監督【写真:Getty Images】

巨人で02年からチーフスコアラー、09年WBC日本代表でも原監督とともに戦った三井康浩氏が優勝を分析

 5年ぶりのリーグ優勝を果たした巨人。原辰徳監督は若手を育てながら、常勝軍団としてのプライドも守った。長年、巨人でスコアラーを務めた三井康浩氏は「原監督の巧みな用兵に尽きると思います」とその手腕に感服。今季の巨人に責任を持たせる4人の「軸」を作ったことをポイントに挙げた。

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 今季の優勝は原監督の用兵に尽きると思います。若い選手に活躍の場を整えて、与え、使いながら育てることができました。個々の能力も大事ですが、チーム全体を見渡し、ペナントを通して戦える戦力を見極める。そこに固定概念はなく、投手ならば8勝を挙げた桜井を思い切って先発起用したことや増田大や若林らを積極起用。途中出場の選手もバットに足にと、いい仕事をしました。

 前任の高橋由伸監督も岡本を4番で使い続けるなど、若手の力を伸ばしました。育成しながら育てようとしたのは同じです。私の目から見て、昨季と今年で違ったのは原監督は責任を持たせる野手4人の軸を作ったことにあると思います。昨年は軸となれる選手が4人もおらず、坂本勇や岡本に頼る状況でした。

 今年のその4人とは、主将の坂本勇、切り札となった阿部、広島から移籍してきた丸、そして亀井だと思います。この4人の軸の隙間を若手が埋めるという構図ができていました。亀井に関してはその役割をさせるために使っているようにも見えました。

 若手の育成というのは、こういう軸がいないとなかなかできません。若手に責任を背負わせてしまうとプレッシャーになり、余計に自分の力が出なくなってしまいます。だから、私からしてみれば、岡本もまだ軸に据えるのは早いと思っています。なので、岡本よりも大きかったのは亀井の存在です。

 5番、そして吉川尚の離脱により1番を任されました。今年で37歳となり、これまでもケガに泣かされてきました。相当、しんどかったと思いますが、原監督の期待があって、責任感の強い選手ですから、攻撃に守備に高いパフォーマンスを発揮することができました。

15年目の1番打者・37歳の亀井が一人の軸、出塁率の高い2番・坂本勇とのコンビは打線に活気と厚み

 出塁率の高い2番・坂本勇の前に亀井がいることで得点のパターンは豊富になりました。亀井が出て、坂本勇で一、三塁のケースを作ることで打線につながりが見えました。たとえ、3番、4番が凡退でも得点することができる。そんな状況を監督が作り出していたように見えます。ヒットじゃなくても得点、そして勝ちを拾える。そんな野球ができたのも、チームを託したこの4人が仕事を全うしたらからだと思います。

 本来ならば、投手でも4人の軸がほしかったところ。しかし、それができなかったことが、最後まで苦しい戦いになったことを物語っています。外国人投手が思うように序盤から機能しなかった。でも、それを打線がなんとかカバーしてくれた。投手では桜井や中川が出てきたのは来季以降にとっても大きいことです。

 起用がはまったといえる若手についてですが、原監督は毎日の練習の中で、選手のことをよーく見ています。それがつながっていると思います。私がスコアラーの時に「あいつは今、体調が悪いな」とか、反対に「調子がいいな。体調もいい」など瞬時に状態を見極めていました。それがことごとく当たって、試合で結果を出していました。

 若手を使え、使えと言いますが、柱がなければ若手は育ちません。コンディションの良くない若手を使っても機能しません。全体を見ていた原監督の視野の広さ、その期待に応えたコーチ、選手、裏方の頑張りによって5年ぶりの覇権奪回が導かれたのだと思います。(三井康浩 / Yasuhiro Mitsui)

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助選手らからの信頼も厚い。現在は野球解説者をしながら、少年野球の指導、講演なども行っている。

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