幼保無償化から外国人学校除外、真の狙いは  「労働者は受け入れ、子どもは支援しない」に疑問の声

朝鮮高校の無償化除外に抗議し毎週金曜日に文部科学省前で開かれる集 会に参加した卒業生や母親ら=9月20日、東京

 10月開始の幼児教育・保育無償化では、ほとんどの外国人学校の幼稚園に通う子どもが対象外とされた。これらの幼稚園は学校教育法上自動車学校などと同じ「各種学校」であることを理由に、教育内容の実態調査をすることなく政府が除外を決めた。が、関係者からは、在日朝鮮人が運営する朝鮮学校の幼稚園を除外するために「より広い網」をかけ、外国人学校全体を対象外にしたのではないかと不信の声が上がっている。

 ▽幼稚園、趣味の教室と同じ?

 「こんなちっちゃな子どもを差別するんですよ。民族学校だからいけないのですか?」。9月20日、参院議員会館。政府の担当者に在日朝鮮人の母親らが外国人学校も無償化対象にするよう求めた席で、1歳9か月の長男を抱いた東京都荒川区の金純伊(キム・スニ)さん(40)が問いかけた。

 文部科学省の担当者は民族学校を理由にした措置ではないと否定しながら「各種学校には絵画教室やそろばん教室、いろいろな学校があるので(無償化対象にするには)難しい」と、趣味の教室の存在を挙げて政府方針の妥当性を強調した。

 「幼稚園ですよ。全然違うじゃないですか」。食い下がった金さんは「子どもたちが自分のアイデンティティーを守ることも許されない国になってしまった」と話す。

 政府は2017年末、消費税の10%への増税と同時に、幼保無償化措置の導入を決めた。

 当時は幼稚園と認定こども園、認可保育所の「認可施設」だけが対象。そのため「認可施設に入れない子どもが対象外になるのは不公平じゃないか、との声を重く見て」(文科省)、ベビーシッター業界なども含めた「認可外保育施設」の関係者から意見聴取するなどし、昨年末に「認可外」も含めるとした関係閣僚合意を決定。この内容で法改正が行われた。

 ただ、政府は外国人学校関係者をヒアリングに呼んでいない。閣僚合意には外国人学校を含む各種学校は「幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行って」いるため対象から外すと記された。

 ▽「財源が消費税だからチャンスと思ったのに」

 「最初から排除ありき」。在日朝鮮人社会はこう受け止める。背景には10年から始まった高校授業料無償化措置から朝鮮高校を除外した問題がある。

 安倍政権は、朝鮮高校への無償化適用に道を開く関係法施行規則を13年に変更した。その結果、これらの行為を不当とする朝鮮学校側を原告とする訴訟が続いている。原告を支援する日本の市民団体関係者は「朝鮮高校の排除に〝てこずった〟経験から、今回は最初から朝鮮幼稚園を外す法制度をつくったのだろう」とみる。

朝鮮幼稚園にも無償化措置を適用するよう政府当局者らに要請する母親

 元大阪朝鮮高級学校教員の梁淳喜(ヤン・スニ)さん(36)は高校が無償化から除外される過程を現場で見ていた。現在3人の子の母の梁さんは「財源が消費税だからついに子どもたちにいい環境で教育をさせられるチャンスが来た、と思ったのにまた除外されて…。なんでいつもこうなってしまうのか」と涙声になった。

 一方、閣僚合意で追加の無償化対象となった認可外保育施設は、児童福祉法に基づいて一日4時間以上、週5日などの幼児教育の実態を持つ施設が都道府県に届けを出し資格を得ることができる。根拠となる法律が違うため、外国人学校の中には各種学校と「認可外」の地位を同時に持つ施設がある。実際に、東京の二つの朝鮮幼稚園も認可外保育施設届け出を東京都に行い、いったんは受理された。

 しかし政府は4月以降、外国人学校外しを徹底するため、各種学校が「認可外」の資格を持つことは認めないとの方針を打ち出した。これを受け都は朝鮮幼稚園の届け出を突き返している。

 ▽国籍で子どもの扱いに差

 さらに静岡県内のブラジル人学校の幼稚園では「認可外」の届けを廃止するよう県から指導を受け、従ったために無償化の対象から外された。

 岐阜県美濃加茂市のブラジル人学校「イザキニュートンカレッジ」も同様に二つの資格を保持してきた。県からは「各種学校の資格を返上すれば無償化対象にできる」との示唆を受けている。

 同校マネジャー堀籠通信(ほりごめ・みちのぶ)さんは、各種学校外しは「朝鮮学校の除外が目的で、ブラジル人学校は余波を受けていると思う」と話す。その上で問題は制度設計にあると指摘。「国が朝鮮学校をこのような形で外そうとすることは間違っているし、朝鮮学校外しが目的でないなら、現場が見えていない」。

 幼稚園や認定外保育施設などに通う無償化措置の対象の子どもは300万人規模になる。一方の各種学校扱いの外国人学校の幼稚園に通う子どもは、朝鮮幼稚園の600人を含め3千人弱だけ。在日朝鮮人の権利擁護に取り組む在日本朝鮮人人権協会の金東鶴(キム・トンハク)副会長は、政府が朝鮮学校の幼稚園を狙った排除措置と認めていないため在日圧殺策だとの断定はできないと慎重に言葉を選びながらも「入管難民法を改正し34万人以上の外国人労働者を新たに受け入れようとする時に、外国人の子どもは支援しないという仕打ちだ。国籍で子どもの扱いに差をつけることに良心の呵責(かしゃく)を感じないのか」と話した。(共同通信=粟倉義勝)

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