「好日」は遠く

 今時分を指すのだろう。秋空が広がり、気持ちのいい日を「秋の好日」という。「日々是(これ)好日」とは悠々自適に過ごすことで、満たされた日々も「好日」という▲先の人生、好日とは限りませんよ。金融庁の金融審議会が6月に公表した「老後資産報告書」は、国民にいきなりこう切り出したのと同じだろう。95歳まで生きるとして、夫婦で2千万円ほどの蓄えが要ると試算し、「老後の不安をあおる」と批判を浴びた▲ご存知の通り、麻生太郎金融担当相は、この報告書の受け取りを拒んだ。「世間に誤解を与えた」「政府のスタンス(姿勢)と違う」というのが理由だった▲専門的な立場からご意見を伺いたい、と審議会に頼んだ立場なのに、出てきた意見が意に沿わなければ要らないと言う。「はしご外し」と麻生氏にも批判が向けられた▲はしごを外された側は、それでも政府に忖度(そんたく)したのか、意見を引っ込めるという。審議会はきのう、報告書の撤回を決めた。別の報告書をまとめる方向というが、「老後2千万円」の想定がなかったことにはなるまい▲審議会の委員の一人は、報告書の中身に間違いはなかったと言い切る。実際のところ、老後の蓄えは必要か、要るとしてどれくらいか。不安は拭えていないだろう。未来の好日を思い描こうとして暗雲が垂れ込める。(徹)

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