混迷 石木ダム 用地収用・6完 <県民の視線> 賛否の議論 盛り上がらず

強制収用や行政代執行に反対する議員連盟の設立会見で話す城後代表(中央)=県庁

 「広く市民に訴える連盟をつくり、動きを展開したい」。今月14日、県庁。県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、土地の強制収用に反対する国会議員、地方議員73人で立ち上げた議員連盟の設立会見で、代表の城後光=東彼波佐見町議=は言葉に力を込めた。
 同事業を巡っては昨年、音楽家の坂本龍一がダム問題の啓発に取り組む市民団体に招かれ建設予定地の川原(こうばる)地区を訪問。反対住民とも対話し、長崎市内であったトークセッションでは「ダムの必要性が今もあるのか。一度決めたことを変えない公共事業の典型例と感じる」と疑問を呈した。歌手の加藤登紀子も昨年、同地区に足を運び、報道陣に「多くの人にこの地を訪ねてほしい」と語った。映画監督の山田英治は同地区の人々の暮らしを描いたドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」を制作し、全国各地で上映されている。
 県収用委員会が同地区13世帯の宅地を含む全ての未買収地約12万平方メートルの明け渡しを求める裁決を出した今年5月以降は、反対運動が活発化。県に公開討論を求める署名約5万筆が全国から集まり、強制収用に反対する県民ネットワークも発足した。
 だが、こうした一部の動きとは裏腹に、一般県民の間にダム推進、反対の議論が盛り上がっているとは言えず、その視線の行方は不明瞭だ。4月の県議選や7月の参院選で石木ダム問題は争点にならなかった。4月の川棚町議選には反対13世帯の一人、炭谷猛が初出馬し、ダム反対を掲げてトップ当選したものの、県は「町議会の構成が大きく変わったと認識していない」との受け止め方だ。
 今月7日、買い物客でにぎわう長崎市中心部。約150人がダム反対を訴えデモ行進したが、多くの県民は関心を示さず、立ち止まる人はほとんどいない。「ダムはいらんやろ」とつぶやく男性がいる一方、「うるさいだけ」と吐き捨てるように素通りする女性の姿もあった。
 県民ネットワークの発足に関わった同市在住のライター、松井亜芸子(42)はダムを巡る運動を「(国の)未来を考える能動的な活動」と位置付ける。のどかな集落を舞台に約半世紀にわたり混迷を続けるこの問題は、県民に何を問い掛けているのか。松井は言う。「(反対13世帯の)住民の言葉は、(私たちが)自分の町や自分自身を考えるきっかけを与えてくれる。(川原地区の問題に矮小(わいしょう)化せず)石木ダムから国全体の在り方を考えてほしい」
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