TCR EU第6戦:スタート裁定の波乱で、勝者やポイントリーダーにペナルティ続出

 シリーズ起源の源流を受け継ぐ、TCR規定ツーリングカーのリージョナル(地域)シリーズ最高峰、TCRヨーロッパの2019年第6戦が9月21~22日にスペイン・バルセロナで開催された。初戦はプジョー308TCRのジュリアン・ブリシュがトップチェッカーも、スタート位置をめぐる審議でペナルティ裁定が下り2位降格。選手権首位のジョシュ・ファイルズ(ヒュンダイi30 N TCR)も、スタートボックス外からの発進で22位降格に終わり、ターゲット・コンペティションのチームメイト、アンドレアス・バックマン(ヒュンダイi30 N TCR)がシリーズ初優勝を飾る混沌とした結末となった。

 このラウンドを前にフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRの性能調整が見直され、BoPウエイトが50kgも軽減されるなど、WestCoast Racingのジャンニ・モルビデリらに好機拡大かと見られていたが、高速カタルーニャ・サーキットでの公式プラクティスから速さをみせたのは、空力性能に優れるセダンボディのアウディ勢。Comtoyou Racingのジル・マグナス、Team WRTのサンティアゴ・ウルティアがFP1、FP2で最速をマークし、予選を前にアウディRS3 LMSが優位に立った。

 しかし土曜早朝にコースを襲ったヘビーレインの影響で、トラック上のラバーが洗い流され路面コンディションはゼロからのやり直しになると、ウエットからドライアップへの変化を伴った予選セッションでは、いつもどおりのヒュンダイ勢が躍進する。

 アウディのマグナスはセッション序盤にウルティアをコンマ2秒上回る2分13秒409を記録するも、その後タイム更新できず。プジョーのブリシュが30kgのコンペンセイションウエイトを搭載しながらアウディ勢を上回ると、さらに路面の乾いた終盤に強豪ターゲット・コンペティションが狙い澄ましたアタックを敢行。

 ポイントリーダーのファイルズをコンマ3秒差で打ち破ったバックマン兄弟の兄、アンドレアスが2分12秒123のタイムで自身初のヨーロッパ・シリーズ最前列を獲得した。2番手ファイルズとともにフロントロウをヒュンダイが占拠し、3番手にはプジョー308TCRのブリシュが付けることに。

 ファイルズと争うタイトル候補のルカ・エングストラー(ヒュンダイi30 N TCR)はQ2最下位の12番手、トップ10に入ったBrutal Fish Racing Teamの元UK王者、ダン・ロイド(FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR)が、日曜レース2に向けリバースポールを獲得する結果となった。

ウエットからドライに変化した難しい予選を制したアンドレアス・バックマン。強豪チームの戦略も奏功した
R1の序盤を牽引したジュリアン・ブリシュと選手権首位のジョシュ・ファイルズだったが……
M Racingのネルソン・パンチャティッチは中団からエングストラーやトム・コロネルをかわしての5位と力走

 迎えたレース1のスタートでは、ポールシッターでイン側から発進のアンドレアスが1コーナーで首位を守りホールショットを奪うと、2番手には軽量プジョーの加速力を活かしたブリシュが、アウトサイドのファイルズに先行して2番手に浮上。すると、ターン3でワイドになったアンドレアスは2台を前に出し、早くも3番手にポジションを落としてしまう。

 さらに後方ではWestCoast Racingのオリー・カンガス(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)がターン9でスピンを喫し、PSS Racing Team Hondaのヴィコール・ダビドフスキ(FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR)らと絡んでストップ。これでセーフティカー(SC)が導入される。

 レース時間残り11分で再開された時点で、首位ブリシュ以下、ファイルズ、バックマン、そしてウルティアの4台はお互いの隙を伺いながらの精神戦を展開。その背後ではウルティアとともにFPでペースセッターとなったマグナスのアウディがパワステ異常で1コーナーを曲がれずコースオフ。

 少しずつ戦線離脱者が増えてくると、タイトルを争うエングストラーは苦しいレースを強いられ、Team Clairet Sportのテディ・クラレット(プジョー308TCR)との接触後、左フロントサスペンションにダメージを負い、リタイアを余儀なくされる。

 そのまま上位勢は11周のチェッカーをくぐり、ブリシュが勝利。ファイルズ、バックマン、ウルティア、そしてデビュー戦となったVuković Motorsportの17歳、ジャック・ヤング(ルノー・メガーヌR.S.TCR)のトップ5かと思われたが、暫定リザルト時点で2位ファイルズに対し「スタートグリッドの外側からレースを開始した」として、ドライブスルーペナルティ相当の30秒加算を受け22位に。

 一方、レース後審議となっていた勝者ブリシュにも、同じくスポーティングレギュレーションの第38条と第137条(グリッド位置違反)に該当するとして5秒が加算され、2位に降格。これでターゲット・コンペティションのチームタイトルが確定し、アンドレアスがシリーズ初優勝を手にする波乱の結末となった。

 続く日曜のレース2はリバースポールのロイドがスタートから首位を堅持し、レース全域にわたって2番手マグナスのプレッシャーをしのぎ今季2勝目をマーク。3位にブリシュが入り、選手権ランキングはファイルズの282点に対し、ブリシュが234点で追随。3位に199点でアンドレアスが浮上し、10月12~13日の最終ラウンド、イタリア・モンツァでの超高速決戦を迎える。

R1で誰よりも先にチェッカーを受けた選手権トップランカーたちが、スタートグリッドの不注意でリザルトを失う結果に
R1、R2と2日続けて4位に入った17歳のジャック・ヤング。熟成途上のルノーで新たなスター候補性が躍動した
R2は実力者ダン・ロイドがライト・トゥ・フラッグで今季2勝目を挙げている

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