「何もしなければ海に沈む」 キリバス大使、温暖化対策訴え

米ニューヨークで取材に応じるキリバスのテブロロ・シト国連大使(共同)

 海面上昇など気候変動の被害にさらされ、水没の危機が指摘される太平洋の島国キリバス。元大統領のテブロロ・シト国連大使(66)は「このまま何もしなければ、島は海に沈む」と述べ、先進国や中国、インドなど温室効果ガスの主要排出国に対し、気候変動対策の強化や島の護岸工事への支援を訴えた。 (共同通信ニューヨーク支局=山口弦二)

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は25日、「海洋と雪氷圏に関する特別報告書」を公表し、地球温暖化に伴う海面上昇は、20世紀末ごろと比べ今世紀末に最大1・1メートルに達すると予測。厳しい対策を取って排出を低く抑えた場合でも最大59センチ上昇し、2300年に最大5・4メートル上昇すると分析した。

 海面の高さはこの100年ほどで最大21センチ上昇した。グリーンランドや南極などの氷が解けて上昇のペースが加速しており、高潮や巨大台風による災害リスクが増すと警告した。

 シト氏は「強風に伴う高波が島内部まで押し寄せることが毎月のように起きる。以前より頻度が高い」と指摘。道路などのインフラが被害を受けるほか、押し寄せた海水が地中に浸透し、地下水と混ざって飲めなくなったり、タロイモなどの作物が育たなくなったりしているという。

 「このまま海面が上昇し、何もしなければ、島は海に沈む。一時は島民の海外移住も検討された」とした上で「まだ島を救う時間はある」と強調。海外から巨大な石を運んできて、海岸線に防波壁を建設する工事が進められていると明らかにした。

 島しょ国は「ほとんど温暖化の原因になっていないのに被害を受けやすい」(グテレス国連事務総長)と言われる。シト氏は主要排出国に対し「経済発展に突き進むと、同時にわれわれの島を破壊していることを真剣に考えてほしい」と主張。「島を壊さない方向に進んでほしい。でももしそれが難しいなら、海面上昇より早く島の周囲に壁を築き上げる手伝いをしてほしい」と訴えた。

 また、23日に国連で開かれた気候行動サミットで一躍注目を浴びたスウェーデンの「環境少女」グレタ・トゥンベリさん(16)を念頭に「世界中で温暖化対策を訴え始めた若者たちは、15年もすれば世界の指導者になる。それまで世界を悪くしたくないと思っているのだろう。彼らの声が、大人たちの考え方を変えてくれることを願っている」と語った。

 テブロロ・シト国連大使 1953年8月、キリバス領タビテウエア島生まれ。94年~2003年に大統領を務め、17年9月から現職。

© 一般社団法人共同通信社