窮地の名門 対話重視、理想とズレ(上)監督室

野球部員たちが日々汗を流す練習場。活動自粛となり、重い門で閉ざされていた=26日午後3時すぎ、横浜高校長浜グラウンド

 2015年秋。横浜高を小倉清一郎氏(75)との二人三脚で全国有数の名門に育て上げた渡辺元智監督(74)が勇退し、平田徹監督は32歳の若さでバトンを受け継いだ。

 選手との年齢が近いことを生かし、「対話を重ね、選手個人の意見を尊重したい」とのびのびと個性を伸ばすチーム作りの理想を掲げ、金子雅部長(42)とのコンビで昨夏まで同校史上初となる神奈川大会3連覇を成し遂げていた。

 ただ、今回の告発の内容は、両者が行ったとされる暴言と暴力行為だ。

 平田監督は神奈川新聞社の取材に、「(金子部長に)死ね、殺すぞなどの発言はない」と否定。その上で「うちは目標を高く設定する集団。厳しく叱責することは当然ある。金子部長は非常に厳しい面を持ち、同時に生徒への優しさ、愛情がある」と強調した。

 平田監督自身も今年8月の練習中、ある主力選手に対して激高、叱責した際に、手を上げたとされている。選手による「(平田監督が)首を両手でわしづかみにして揺さぶった」という証言に対し、同監督は「お前な、というニュアンスで、両肩に手を置いてつかんだ」と説明。証言の食い違いが、指導者と選手の間にできた溝の深さを感じさせている。

 平田監督は今年1月、体罰をテーマにした本紙の取材に応じ、「部活動のあるべき姿」について自らの意見を語った際、金子部長との「関係性」についても触れた。

 「チームの士気を下げる選手がいればキレる時もある。ただあくまで一つのテクニック。私が怒れば、金子先生が聞き役になる。その逆もある」。激しい叱責の後には、必ずフォローが必要だという認識はあった。

 体罰について「暴力を肯定する理由は断じて一つもない」とした上で、「手を上げてしまう指導者」への理解も示した。「生徒になめられたくない考えは大人に常にある。そう思うほど上から目線になり、選手との信頼関係に溝ができる」。そして続けた。「そうなる前に、自分はここに呼んで1対1で話すんです」。球場のバックネット裏にある2階建てのプレハブ小屋の監督室だ。

 平田監督世代の1期生として指導を受けた主力選手だったOBは、よく監督室に呼ばれたと振り返り、「平田先生はそんなこと(暴力)をしない。厳しい言動はあったが、常に選手の未来を第一に考えていた。あいつは大丈夫そうかとか、メンバー外の選手のことまでいつも気に掛けてくれていた」と話す。

 ただ、別のOBは全く異なる経験を明かした。選手が自ら考えて取り組んだことに対し、平田監督が「俺の言うことを聞けないのか」と激しく怒鳴り、平手で頬をはたかれた。「いつかこの問題が明るみになると思っていた。一方的に怒られるだけの選手は自分を含め、何人もいた」。監督の怒声は建物の外にいる部員たちの耳にも刻まれていたという。

 指導者による選手への暴言、暴力行為が告発され、窮地に立たされた高校野球の名門・横浜高校。溝が深まった経緯を検証する。

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