取り壊し間近!? 珍建築「中銀カプセルタワービル」に潜入! そこには空想の中の未来があった!|Mr.tsubaking

来年に迫った東京オリンピックに向けた都市開発と、それに伴った建築物の刷新予定に、多くの「味のある建築」が取り壊しの危機に瀕しています。

電通や日本テレビなどが立ち並び、未来を連想させるような汐留にも、風前の灯となっている建築物があります。

首都高からこの異様な姿を目にした方も多いと思いますが、コンクリートの鈍い灰色をしたキューブがいくつもぶら下がったような珍建築「中銀カプセルタワービル」です。

1972年竣工の同ビルは、世界初のカプセル型のマンションで、古くなってきたカプセルは個別に新しいものと交換していくという「新陳代謝するビル」として誕生。便宜上は交換が可能とのことですが、現在まで一度も交換されたことはありません。

設計は建築家の黒川紀章。手がけた建築の中には登録有形文化財に指定されるもの(寒河江市役所庁舎)もある、昭和の日本を代表する建築家の一人です。

奇抜な発想と目を惹くフォルムで、バブル期から平成に至るまでの東京の景色の中に、特別な存在感で建ち続けた同ビルですが、竣工から50年近くが経ち、老朽化が顕著になって来たことから取り壊しを求める声が大きくなって来ました。

そんな中銀カプセルタワービル内部は、通常であれば入居者しか入ることができませんが、先日、許可を得て内部を見させていただきました。

中心を貫くエレベーターに螺旋階段が巻き付くように通っている塔が二つ建ち、そこにカプセルがぶら下がっているという構造になっています。

1階の集合ポストから他では見られないデザインが溢れ、垣間見られる黒川氏の奇才っぷり。

はじめに屋上に案内してもらいました。サビやコンクリートのヒビなども目立ち、老朽化しているのがよくわかります。それでも2011年の東日本大震災では何事もなかったということで、耐震性は問題ないようです。

上下のカプセルは独立しており、その隙間がおよそ30センチ。その間に電気屋水道の配管が通っているため、もし壊れても作業員が隙間に入れないため修理ができないとのこと。数年前に、一部の水道管が破裂してしまい、現在お湯が出ないのだそうです。なんて住みにくそうなのでしょう。

9階の部屋へ入ります。

カプセルホテルとビジネスホテルの間くらいの広さといったところで、円形の窓が印象的です。しかしこの窓、はめ殺しで開かないようになっているため、エアコンのない部屋は、夏はサウナのようになってしまうのだそう。

しかし、エアコンをつけようにも室外機をおくスペースがないため、2階の屋根部分までホース長く長く伸ばして設置しなくてはいけないため、3万円でエアコンを購入したとしても、設置に10万円以上かかるんだとか。

どうやっても不便さしか伝わって来ませんが、それでも数ヶ月ごとに行われる賃貸の抽選は3倍以上の倍率になるといいます。

住居というより、電通マンがセカンドオフィスや応接間として借りていたり、画家などがアトリエとして使っていたりしています。住むわけでなければ立地はとてもいいし、お湯が出なくても構いませんね。

そして、このかっこよすぎるこのフォルムのビルに部屋を持っているというだけで生活にトキメキが生まれます。
何よりいいのは備え付けの棚。

はめ込み式のテレビ(ブラウン管)にダイヤル式の電話。そして読書灯にラジオ、オープンリールのオーディオまでが棚にぴったりセッティングされています。さらには、棚の一部が大きく開いて机になるという仕掛けもあり、あの頃に空想した秘密基地感が満載。

ユニットバスも小さいながら、「円」を特徴的に配したデザインはレトロフュチャーに満ちています。不便をおしてまで、ここを借りる方々が何に惹かれているのか、少しわかってくるような気がしてきます。

そうした方が出入りするビルですので、住人同士の飲み会などはとても面白いのだそう。

外観だけでなく部屋の中まで「来なかった方の未来」がここには保存されていました。住民の間でも、保存と取り壊しは意見が二分しているようですが、私は無責任な外野の意見として、残しておいて欲しいと切に思います。(文◎Mr.tsubaking 連載『どうした!?ウォーカー』第42回)

■中銀カプセルタワービル
東京都中央区銀座8−16−10
※内部は通常非公開

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