「ITデータコラム」どうなるセーリング470級 東京五輪後に競技方法が大きく変更

セーリングの世界選手権女子470級で2位となり、日の丸を掲げ喜ぶ吉田愛(左)、吉岡美帆組=2019年8月9日、神奈川県江の島ヨットハーバー沖

 2020年東京オリンピックのセーリング、470級に出場する男女の代表がそれぞれ内定した。女子の吉田愛・吉岡美帆組(ベネッセ)が、8月9日の470級世界選手権で銀メダルを獲得して、セーリングで代表一番乗り。男子は選考対象レース最終戦となった8月末のワールドカップ(W杯)江の島大会の結果、岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)・外薗潤平(JR九州)組が代表選考ポイントのトップとなり、代表の座を射止めた。

 この470級は、1996年アトランタ五輪の女子で重由美子・木下アリーシア組が2位に入り、日本セーリング史上初となるメダルを獲得。男子も2004年アテネ大会で関一人・轟賢二郎組が銅メダルをつかむなど、日本のセーリング界にとっては五輪でメダルをつかんだ実績を持つ得意種目。来年の東京五輪代表に内定した男女の両ペアは、表彰台の期待を背負う。

 470級は1963年、フランス人のアンドレ・コルヌが開発。オリンピックでは76年モントリオール大会で男子種目としてまず導入され、88年ソウル大会から女子種目にも採用された。以後、男女別の種目として実施されてきたが、2018年5月、セーリングの国際統括団体、ワールドセーリング(WS)は24年パリ大会の実施種目について、これまで470級で行われてきた2人乗りディンギー種目を男女混合へ変更することを決定。男女混合2人乗りディンギー種目の艇種として470級を引き続き使用することが確定的な状況となっている。

 つまり、五輪で男女別で争われるのは来年の東京大会が最後になる。東京大会の終了後、24年パリ大会まではどうなるのか。パリ大会を目指す選手たちは男女混合ペアでトレーニングを重ね、実戦を積みたいところだ。

 そのことが気になり、W杯江の島大会で来日していたWSの役員に尋ねてみた。すると、「ワールドカップを始めとするWSの公式戦では21年から、男女それぞれと混合の3種目で争い、24年からは混合のみで実施する」との答えを得た。

 470級の世界選手権はWSではなく、国際470級協会の公式戦。そこで、同協会にも電子メールでコンタクトしたところ、ディミトリス・ディモウ会長から返信があった。そこには「男女混合ペアの第1回世界選手権は21年になる。ただし、男女別のペアも”オープン”種目で争うことができる」との回答が記されていた。

 WSも国際470級協会も24年パリ大会を目指す男女混合ペアに競技の場を提供するとともに、男女別のペアにも機会を与える方針のようだが、24年までの過渡的措置といえるかもしれない。

 こうした世界の動きに、日本470協会も合わせようとしている。信時裕理事長は日本選手権での男女混合種目の実施について「検討を始めている」と述べた。

 既に、24年パリ大会への挑戦を明らかにする選手も現れている。ヤマハ・セーリングチームに所属する高山大智(日大)だ。代表選考ポイント5位で東京大会へ挑戦が終わった高山はW杯江ノ島大会後の9月1日、24年パリ大会を男女混合ペアで目指すと明言した。

 ヤマハ・セーリングチームの飛内秋彦・ゼネラルマネジャー兼監督も、高山をサポートする意向だ。同チームには女子のペアも在籍し、東京大会の代表選考に挑戦していた。スキッパーの高山が女子のクルーと組む可能性もある。

 日本470協会の信時理事長によると、470級が日本へ導入されたのは1969年。翌70年にヤマハが製造を開始すると、73年には全日本学生選手権に採用されるなど、学生を中心に普及し、現在では国体の成年男子でも実施されている。

 現在、協会に登録されているのは約1000艇で、実際に活動しているのは約600艇という。このうち、全日本学生連盟(学連)傘下で使われているのは約7割の415艇。大学別の団体戦で争う全日本学生選手権では男女混合艇も珍しくない。日本の470級普及の原動力となった学連のレースは、オリンピックやWS、国際470級協会の変更による影響はないようだ。

 山崎 恵司(やまざき・えいじ)のプロフィル 1955年生まれ。79年に共同通信運動部に入り、プロ野球を中心に各種スポーツを取材。93年からニューヨーク支局で野茂英雄の大リーグデビューなどを取材。帰国後、福岡支社運動部長、スポーツデータ部長などを務め、現在はオリンピック・パラリンピック室委員。

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