私立大学研究ブランディング事業に関する国際シンポジウムを開催

大学の特色ある研究を基軸に、学長のリーダーシップのもと、全学的な独自色を大きく打ち出す取り組みを行う私立大学に対し、文部科学省が重点的に支援を行っていく私立大学研究ブランディング事業。2016年に実施されたこのブランディング事業のうち、「先端的・学際的な研究拠点の整備により、全国的あるいは国際的な経済・社会の発展、科学技術の進展に寄与する研究」に分類されるタイプB(世界展開型)には、全国から198校の申請があり、厳しい審査を経て40校が選定された。『動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現~地球共生系「One Health」~』という、世界に先駆けた研究事業を提案した麻布大学も、その選定校のひとつである。

「獣医」「動物」「健康」「食品」「環境」を専門教育およびキーワードとする2学部5学科から構成された麻布大学では、「地球共生系~人と動物と環境の共生をめざして~」という研究教育理念を背景に、全学的な取り組みとして、「ヒトと動物の共生を科学する大学」という麻布大学ブランドを確立することを最終目標として、現在、この研究事業を推進している。大学全体の約35%の教員が参加し、本研究事業を進める目的は、研究を通じて得られた成果を大学の研究ブランドの構築につなげていくことにあるが、その一環として2019年7月29日には、これをテーマとする国際シンポジウムが開催された。

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このシンポジウムでは、2016年から取り組まれている研究事業で得られた、最先端の研究成果について発表が行われた。その中心となったのが、「動物との共生によってヒトの健康が得られるのか」という視点から改めて人間をとらえ直し、細菌叢、共生、免疫という切り口から、その関係性を見つめていくことを課題とした講演で、学内教員4名と、このテーマについて世界をけん引してきた国内外の4名の研究者が登壇した。

浅利昌男学長からの挨拶に続いて、午前の部として行われたのが、学内教員による日本語セッションである。はじめに登壇したのが、獣医学部で野生動物学研究室を担当する南正人准教授で、演題名は「野生動物の資源化・有効活用による共生システム構築のための微生物研究」。本プロジェクトは、長野県小諸市の協力のもと、昨今、その個体数の増加により農業被害とともに生態系への影響が甚大となっているニホンジカと、新たな共生システムを構築していく研究である。具体的には、捕獲したシカの有効活用のために開発された鹿肉を使ったペットフードについて、微生物学的な見地からさまざまな効能の検証や、臨床実験を実施。付加価値を上昇させたうえで商品を広く市販するとともに、さらに資源化施設の雇用拡大をめざしていることが発表された。

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次に登壇したのが、獣医学部で病理学研究室を担当する上家潤一准教授で、演題名は「比較病理学から考えるAAアミロイド症研究」。発表では、いまだ全貌が明らかになっていないAmyloid A(AA)アミロイド症について、麻布大学で発見された世界で4例目の豚AAアミロイド症をきっかけに解明されつつある、アミロイド線維形成能の高いSerum Amyloid A(SAA)を介した、ヒトを含めたほ乳類に共通する病理発生機序について、現状までの成果が紹介された。

3番目に登壇したのは、生命・環境科学部で環境衛生学研究室の関本征史准教授で、演題名は「ペットフードから変異原が検出される? コンパニオンアニマルの発がんとの関わりを探る」。本プロジェクトは、ドッグフードに含まれる発がん性物質の定量や、そのイヌにおける遺伝毒性を検証し、摂取にともなった発がんリスクの可能性を検討したもので、発症リスクを低減させる対策の必要性と、その成果をヒトの発がん予防へ応用させていく展望が発表された。

午前の部で最後に登壇したのは、獣医学部で伴侶動物学研究室を担当する茂木一孝准教授で、演題名は「犬との共生は細菌叢を介してヒトのメンタルヘルスを促進している?」。ヒトはイヌとともに暮らすことで、どれほどの恩恵を得ているのかをテーマとした本プロジェクトでは、思春期児童のメンタルヘルスを調査する世田谷区・調布市・三鷹市での大規模コホート研究に参画し、思春期の心の発達とイヌ飼育との関連性を調査。その結果として、仮説段階ではあるものの、ヒトとイヌが長年の共生のなかで、メンタルヘルスを良好に保つ細菌叢を共有してきたことを明らかにしたことが紹介された。

続いて午後の部では、招待講演として英語セッションを実施。東京都医学総合研究所で心の健康プロジェクトプロジェクトリーダーを務める西田淳志氏、英国・マックマスター大学のPaul Forsythe氏、米国・テキサス大学のShelly A. Buffington氏、理化学研究所生命医科学研究センターで粘膜システム研究チームリーダーを務める大野博司氏ら、4名による講演が行われ、大勢の学生や一般市民らが最新の研究成果に熱心に耳を傾けた。

また、午前・午後の部の間には、麻布大学が推進するブランディング事業に関する記者懇談会も実施された。

この席では浅利学長から、麻布獣医学園128年の歩みについての紹介に続いて、ブランディング事業統括者である獣医学部の菊水健史教授が、ヒトと動物の共生をテーマに、SDGsに基づいたヒトと動物の長期的な共生や、ヒト・動物・環境の健康の維持などにかかわる研究成果、一般社会への応用展開などについて解説。ほかにも、獣医学部の阪口雅弘教授による、イヌの細菌叢からのアレルギー抑制細菌の探索に関する研究や、午前の部でも登壇した上家潤一准教授による、ヒトと動物の共進化遺伝子の同定に関する研究について解説が行われた。これらの発表のあとには、学長や発表者と直接意見交換できる場が設けられ、麻布大学が取り組んでいる研究が、今後どのように発展し、その成果が社会に還元されていくのか。さらには、ヒトと動物がともに生きることで開かれる未来について考える、非常に有意義な時間となった。

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