吉田まゆみ「れもん白書」&「れもんカンパニー」昭和40年代女のパイセン的漫画家 1980年 12月12日 吉田まゆみの「れもんカンパニー」第2巻が発売された日

1979年から1980年、という時代の移行期に起こった音楽やカルチャー周辺のミラクルな変革については、既にたくさんの先達が語っているが、その変遷をなんとなく身をもって体験した女子といえば私である。

小学校を卒業して中学生へ。友達が変わり、学校が変わり、大人への目覚めを経験する頃と時代の変わり目がぶつかった。軽く自分比較してみるとこんな感じ。

■ 1979年(小学六年生)
■ 読んでた雑誌:『なかよし』『学習と科学』『明星』『平凡』
■ 観てたテレビ番組:『ザ・ベストテン』『カックラキン大放送』

■ 1980年(中学一年生)
■ 読んでた雑誌:『月刊 mimi』『週刊 Seventeen』『プチSeven』
■ 観てたテレビ番組:『翔んだカップル』『笑ってる場合ですよ』

子供から生意気盛りの中学生になり、流行を追い始めた私が影響を受けたのが、部活の先輩の影響で読み始めた『週刊 Seventeen』。たのきんや JAC の特集に加え、ちょっとHな記事が刺激的だった。

少女漫画誌は『なかよし』を卒業して『月刊 mimi』を買うようになった。そこで連載されていたのが吉田まゆみ『れもんカンパニー』だ。

中1女子が “ナウい女子の在り方” に憧れ、手に取ったのが吉田まゆみだった。クラスの女子も結構読んでいた。特にお姉さんのいる子は。

同じ高校に通うノンとKスケの等身大の青春レポ。母親同士が高校の同級生だったことが分かり、家族ぐるみの付き合いからスタートするというラブコメで、これがおしゃれでポップで、女の子の性欲もキュートに描いていて、とても素敵なのだ。

特に最後のシーン、初体験の描き方が特に良かった。Kスケがはずした眼鏡のクローズアップで終わるのだが、ロマンチックでキュンキュンした。

舞台は二子玉川や駒沢あたり。映画を観に行く時は渋谷。吉田まゆみ自身が世田谷区出身ということもあってか、PARCO のロゴや東急の看板など、1980年の街の風景が細かく描かれている。さらに、当時の流行や固有名詞が楽しく羅列されていて、「そうそう!これこれ!」みたいな気持ちで読んでいた。

脇役の名前は小林佐知子に渡辺待子。テニス部のKスケの仲間はビョルン・ボルグにそっくり。『探偵物語』の松田優作のベスパや百恵友和の結婚についてあれこれ言うシーン。青春映画『グローイング・アップ2 / ゴーイング・ステディ』の似顔絵。主人公のノンが着ている 45RPM のTシャツや SHIPS のトレーナーとサドルシューズ。「めんコク」っていう即席ラーメンあったなあ。先輩の近田さんのモデルは近田春夫だよなあ。ノンのお父さんのモデルはウッディ・アレンかなあ。

出会いは『れもんカンパニー』が先だったが、吉田まゆみのれもんシリーズの第一弾は1979年の『れもん白書』で、こちらは後追いで読んだ。物語に連動性はないものの、シチュエーションはほぼ同じ。高1のサナエとアキラのラブコメディ。みんな悩んで迷っていて、アホでHで頑張ってて、全力でミーハーで、愛しくて最高の作品だ。

登場人物で重複しているのは『れもんカンパニー』でノンの従姉妹役だった渡辺待子ちゃんが、『れもん白書』では主人公のサナエのクラスメイトだというくらいか。そのため舞台が地続きな気がして、どこか身近な気持ちで読めた。

芸能界入りで高校を中退していくモテ男子、黒川君のモデルは、絶対に JAPAN のデヴィッド・シルヴィアンだと思う。

だが『れもん白書』の魅力は、なんと言っても各章のタイトルにある。

第1章は「銃爪について」。他「気分しだいで責めないでについて」「YOUNG MANについて」「セクシャルバイオレットNo.1について」と、全てに連載中の78~79年の大ヒット曲名を使っているのだ。見ただけで曲のイントロが頭で鳴る。思い出がキラッキラと蘇ってくる。

これが80年の『れもんカンパニー』になると、ノンが会話の中でプラスチックスやシーナ&ザ・ロケッツ、ヒカシュー、YMO、近田春夫のファンだと宣言していて、ここに時代の潮目を感じる。たった一年しかたたないのに、女子高生の間では歌謡曲よりテクノポップが話題をさらっている。ガラリとシーンが移ろっていったのだなあとしみじみ思う。

情報を集めることに夢中で、ラジオやテレビや雑誌に夢中だった中学時代。吉田まゆみは、そんな私にあらゆる角度から都市部での女子のポップライフを教えてくれた。ファッションや恋、テレビ、音楽。ずっと続くクラスメイトとの、どこにも行き着かないくだらないおしゃべりや、永遠の放課後の楽しさを。

かじった時の苦味と酸っぱさ、湧き上がるツバ、ほとばしる果汁、鮮やかな黄色に彩られた青春の1ページ。“れもん”達のナウさとダサさに憧れたあの頃を思い出す、愛してやまない作品なのだ。

カタリベ: 親王塚 リカ

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