菊池、浅村、炭谷…主力が抜けても強かった西武 圧倒的な打力&走力でパ2連覇

パ・リーグ連覇に導いた西武・辻監督【写真:安藤かなみ】

先発不足で不安な船出も打線がカバー、日本勢だけの20発クインテットはパ初

 今月24日にパ・リーグ2連覇を決めた西武が、26日の楽天戦(楽天生命パーク)で2019年のレギュラーシーズン全日程を終了した。戦績は80勝62敗1分け。チームを2年連続23度目のリーグ優勝に導いた辻発彦監督は、優勝インタビューで「私は何もしていません」と言い切った。一人一人の選手を観察し、開花の時を粘り強く待ち続ける指揮官が、今年も宙を舞った。

『CATCH the GLORY 新時代、熱狂しろ!』をスローガンに掲げ、辻政権3年目のシーズンはスタート。チームにとって急務なのは投手陣の整備だった。絶対的エースとして君臨した菊池雄星がポスティング制度を利用して米大リーグのマリナーズに移籍。昨年阪神からトレードで加入して11勝を挙げた左腕・榎田が左肩の違和感を訴えて3月上旬に離脱した。巨人にFA移籍した炭谷の人的補償で加入した内海も左浅指屈筋の肉離れで開幕前に戦列を離れた。

 先発陣に不安を抱えたままシーズンを迎え、ソフトバンクにいきなり開幕3連敗。厳しい船出となった。昨季最多勝の多和田が体調不良に見舞われるアクシデントにも見舞われた。しかし、新外国人のニールが12勝を挙げる活躍を見せたほか、4年目の本田がローテーションの一角を担うなど若手が台頭し、チームを支えた。

 打線では昨年の打点王・浅村がFAで楽天に移籍。得点力不足が懸念されたものの、山川、森、中村をはじめとした主軸が打ちまくった。パ・リーグでは初となる日本選手だけによる20発クインテット(山川43本、中村30本、外崎26本、森23本、秋山20本)が誕生。両リーグ最多の年間756得点を叩き出した。

 派手な打撃に目を奪われがちだが、辻野球は繊細で細やかでもある。41盗塁をマークし、3年ぶり2度目盗塁王をほぼ手中に収めている金子侑を筆頭に、チーム盗塁数はこちらも両リーグトップの134。一つ先の塁を狙う高い走塁意識で「次の1点」をもぎ取るなど、多彩な攻撃パターンで他球団を圧倒した。

4番中村7番山川への打順変更が的中、投打が噛み合ってホークスを捉える

 転機は8月11日のロッテ戦(ZOZOマリン)から昨年の本塁打王・山川を7番にし、中村を4番に据えたことだ。山川はその後、打率.291と復調し、状況に合わせた打撃でチームに貢献した。チームはそれまで貯金「5」の壁を越えることができずにいた。しかし、打線が繋がりを取り戻し、ここから順調に貯金を重ねた。9月に入ると、それまで精彩を欠いていた投手陣が盛り返し、先発陣が軒並みQS(クオリティ・スタート=先発が6回以上投げ、自責点3以下を記録すること)を達成。小野投手コーチが「バッテリーの経験が活きてきた」と分析する通り、勝負どころでは巧みな配球で打者を翻弄し、ビッグイニングを作らせなかったことが勝利に繋がった。投打が噛み合い出したチームは、7月上旬には8.5ゲーム差あった首位・ソフトバンクとのゲーム差をじりじりと詰め、9月11日には首位に浮上。15日にマジック「9」を点灯させ、一気に連覇を決めた。

「悔しいです。まさか今日、2018年のシーズンが終了するとは考えてもいませんでした」

 強力打線を率いて10年ぶりにリーグ制覇を果たした昨年。日本シリーズ出場をかけてソフトバンクと激突したクライマックスシリーズファイナルステージで敗れ、日本一への道は断たれた。辻監督は試合後、マイクの前に立つと、うつむいた。いつも気丈な指揮官が言葉を詰まらせて十数秒の沈黙。やっと顔を上げたが、目は赤く、涙が震える頬を伝っていた。指揮官が絞り出した声に、行き場のない悔しさが滲んでいた。

 あれから1年。悔し涙の跡はすっかり消え、フラッシュと歓声の中で10度宙を舞った。辻監督はシーズン前にこう話していた。「悔しい思いを経験したが、選手たちはこの思いを今シーズンにぶつけてくれる」。指揮官の思いを叶え、日本一になるための旅路の出発点に、再び立った。(安藤かなみ / Kanami Ando)

© 株式会社Creative2