ジャガー 新型F-PACE SVR試乗|SUV界のスポーツカーが日本上陸

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

激速! でも乗り心地は極上で滑らか

ジャガー Fペイスとポルシェ マカン、そしてアルファ・ロメオ ステルヴィオは、SUV界きっての運動性能の持ち主だ。そもそもSUVとはスポーツ・ユーティリティ・ビークルの略称だが、この3台は単なる“スポーティ”の枠を飛び越えて「SUV界のスポーツカー」といっても差し支えないほどのハンドリングとドライビングプレジャーを持っている。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

そんな中にあって今回紹介するこのジャガー Fペイス SVRは、王者の風格を持つ一台である。

もしアナタがFペイス SVRのステアリングを握ったら、「こんなに乗り心地よくて、いいの?」と驚くだろう。もしアナタがアグレッシブな走りを好むドライバーなら、一瞬「こんなのスポーツカーじゃない!」と感じるかもしれない。

そのくらいSVRの足回りは、包み込むような懐の深さを持っている。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

BMWにおけるアルピナ的な立ち位置

搭載されるエンジンは、オールアルミ製の5.0V8スーパーチャージャー。その最高出力は同じエンジンを搭載するジャガーFクーペ SVRよりは25PSほど控えめながらも、SUVとしては強烈な値である575PS/680Nmの出力を誇る。

これを受け止めるべく足下に履かせたタイヤは、遂に22インチまで大径化した。

となればさぞやガチガチの、マッシブな足回りになっているかと思うだろう。しかしその乗り心地は、対価に相応しい乗り心地を持っていたのである。

このまったりと路面を捕らえるライド感は、まさに同グループのSUVである「レンジローバースポーツ SVR」と同じ味付けだ。

SVRは、そのチューニングをスペシャル・ビークル・オペレーションズ(SVO)が行うのだから当然じゃないか。

通の方ならそう思うかもしれない。しかしこの乗り心地こそがSVOの味付けだと確信できたのは、こうして2台目のSVOチューンドSUVを経験できたからである。

例えればそれは、BMWに対するアルピナ。身近な例を取ればホンダに対するモデューロといった上質さだ。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

この極めて伝統的なイギリス車らしいシャシーワークは、前述した550PSのパワーと組み合わさることで、独特な刺激をドライバーに与えてくれる。

コンフォートモードでさえ2500rpmを超えていればフラップが開いてしまうようで、アクセルを閉じただけでゴロゴロとマフラーがうなる。

うかつにこれを踏み込めば、頭がヘッドレストにガツン! とぶつかるほど鋭いレスポンスで、怒濤のトルクが盛り上がる。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

流行のダウンサイジングではないけれど

ジャガーがそのエンジンに5リッターの大排気量を選び、過給機をスーパーチャージャーとしたのは本当に大正解だ。右足のタクトを上手に振りさえすれば、ドライバーはそのどう猛なエンジンをきっちり支配下に納めることができる。

ターボラグを解消するべくライバルたちが選ぶツインターボよりもトルクの盛り上がりは刺激的で、アクセル開度に対する反応もすこぶるリニア。かつスーパーチャージャーが苦手とする高回転での伸びは、排気量が力業で押し切ってくれる。そしてなにより、自然吸気的なサウンドが素晴らしい。排気系にタービンが干渉しないその音色は、ダイナミックモードを解放すると発狂するようなV8サウンドに変貌する。

エミッションについては詳細資料がなく、今回は燃費計測もできなかった。5リッターの排気量を用いた時点で、時代の流れにも乗っているとは言えない。

しかしこうしたモデルを実際にお金を払って手に入れる人々の価値観からすれば、みながこぞってダウンサイジングしているなかでこの堂々たるドン・キホーテっぷりは魅力的に映るだろう。また大排気量エンジンだからこそ、普段はアクセル開度を大幅に絞って走ることもできる。褒め殺しをする気は毛頭ない。イギリス車を愛車に選ぶアカデミックさがある人など、それほど多いとは思えない。だからこのSVRがバカ売れする心配(!?)はしていないが、この内容で1272万円という車輌価格はある意味ロマンだ。気になる人は消費税が増税される前に試乗をしてみるべきだと思う。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

トップモデルながらもシリーズで一番柔軟な乗り心地を示すシャシーは、そのままスピードを上げて行くと、乗り手との一体感を増してくる。

とても強化コイル式とは思えない、路面に吸い付くようなコーナリング。ロールを規制するのではなくこれを利用して車体を曲げて行く様は、アストンマーティンやマクラーレン、ロータスにも通ずる英国の伝統的なハンドリングだと思う。

ジャガーはむしろこうしたタメのある車輌制御をFタイプクーペで否定し、その反発的なハンドリングで見事な若返りを果たしたメーカーだが、Fペイス SVRでは本来の味付けに回帰したと感じた。

V8エンジンの慣性重量はあるものの、これをほどよく操舵応答性の良さに反映させており、4WDのトルク配分も通常はFR的に感じられる。その裏側でリアの電子制御デフが黒子的にスタビリティを確保しているはずだが、それすら意識させない。

ジャガー F-PACE SVR(ウルトラブルー)

現代の路上におけるスポーツカー

SVRをニュルのようなステージやサーキットで遠慮なく走らせたらどうなるだろう? きっと荒れた路面を上手にいなし、適度なアンダーステアで安全を担保してくれるのではないだろうか?

しかし日常でその性能を、常に発揮させなくてはならないという強迫観念に駆られないことこそが、スポーツカーとは違うSUV最大の美点である。

その有り余るパワーを質感や余裕として楽しみ、ときにそれすら忘れさせてくれるしなやかな乗り心地をもって、荷物を沢山積んで目的地まで移動する。実に贅沢なひとときが味わえる。

こんなマルチパーパスっぷりをハイスペックで味わってしまうと、もはや低さに気を遣い、乗り降りが不便で、走る場所さえ追いやられがちなスポーツカーなどいらないのではないか? と錯覚し、寂しい気持ちになってしまう。

しかしジャガーに限らず欧州勢がこれまでスピードの世界に取り付かれ、その技術を磨き上げてきたからこそ、こうしたハイパーSUVが出来上がったのだと私は思い返した。

そしてSUVがスタンダードとなって飽和したときにこそ、スポーツカーの価値も再び見直されるのではないかという気持ちになった。時代は回り、巡るからだ。

ともあれこのジャガー Fペイス SVRは、現代の路上におけるスポーツカーだと言ってよい。トレンドに一番マッチした、ジャガーの新エースである。

こうしたクルマたちを生み出し競い合うのだから、ヨーロッパの層はとてつもなく厚い。

[筆者:山田 弘樹/撮影:MOTA編集部]

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