仏・シトロエンの2輪駆動SUVが示す「ファッションとしてのクルマ」のあり方

どんどん増殖するSUV。世界中のメーカーが小から大まで次々に投入し、気が付けば街にも郊外にもSUVが溢れています。そんな中に非力なエンジンと4WDではなくFF(前輪駆動)という、少々場違いな内容で勝負するSUVがあります。果たして選択する理由はどこにあるのでしょうか?


ソフトな乗り心地でキビキビ走る

SUVの魅力はなんでしょうか? 車に関心のある人からは「色々な道に対応する走破性の高さ」とか「力強い4WDの走りとワイルドなスタイル」といった意見が多くあります。一方、女性やビギナーに聞くと「背が高くて見晴らしがいい」とか「皆乗っているし、お洒落で街に似合う」とか、どこかSUV本来とは違うところを見ているような意見も多く聞かれます。しかし、このSUVをファッションの一つと捉える人たちの存在がSUVの大増殖を作り上げているのは紛れもない事実です。

そんな中にまさにその路線をまっしぐらに駆けぬけようというクルマ「シトロエンC3エアクロスSUV」が登場しました。自らSUVと名乗っているのですから、間違いないのでしょうが、日本仕様に用意されたエンジンは1.2リットル直列3気筒ターボのみ。パワフルさが身上のはずのSUV用エンジンとして、最高出力110馬力(81kW)、最大トルクは205N・m(20.9kgf・m)というスペックはいささか非力?と思われても仕方ありません。

さらに問題は駆動方式にあります。4WDが「必須アイテム」のようなイメージがあるSUVにもかかわらず、用意されたのはFF(前輪駆動)のみです。もちろん他社のブランドにもSUVでありながらFFというのはありますが、ラインナップには主力の4WDがあって選択できる、という場合が大勢を占めています。早い話が「4WDのスタイル要素は欲しいけど、悪路なんか行かないから2輪駆動でいい」というユーザーが次第に増えたことに対するメーカーの回答だったわけです。

まさにシトロエンも「4WDにすることで重さや抵抗が増加して燃費が悪くなるが、それを避けて環境性能を向上させた上で悪路走破性も確保しました」と言っています。つまり“都会派のために”といったところかもしれませんが、それだけでは終わっていません。

最上級のシャインには「シャイン パッケージ」というパッケージオプション(23万円)が用意されます。これには路面状況に合わせてダイヤルを回してトラクションを最適化し、前輪駆動のまま走破性を高めるというシステムがあります。さらに急斜面の下り坂でも電子制御により車体を安定させるという“ヒルディセントコントロール”も搭載されていますから、ハードな場面でもちゃんと対応できるというシトロエンのSUVに対する一つの考え方を示しています。

このシステムで、まだオフロードや雪道などを試していないのですが、4WDより走破性は落ちるでしょうし、雪道などでの安定感では敵わないと思います。それでもFFのSUVとしては最大限の対応はしたということでしょう。この部分での検証はウインタードライブの季節になったら是非試してみたいと思います。

一方で都市部での普段使い、それほど雪道などには行かないと言う人たちにとって、このシトロエンの決断は嬉しい結果となるはずです。事実、車重1,290kgのボディも、この小気味よく回るエンジンのおかげで十分にキビキビとした走りを実現してくれています。小さなエンジンを回しながら走るのもフランス車の一つの流儀なんです。

ベースとなったハッチバックのC3より少し大きなボディは背が高く、フロントとリアのバンパー下部にはハードなガードが付いている

癒やし系の表情がSUVの見方を変える

おまけにソフトな足まわりのセッティングによって“独特の緩さ”があるフィーリング。“フランス車の猫足”という言葉があります。中には“フランス車はそれぐらいしかない”などと言う人もいますが、このストロークをたっぷりと感じ取れる、ソフトで許容量の高い足回りを一度味わうと癖になります。

むしろ最近は日本車も含め、きっちりと締め上がられた硬めの足回りが多いのですが、C3エアクロスSUVは新鮮に感じるほどでした。コーナーに入ればけっこうボディは傾きますが、じっくりとそこから粘りますから不安感はありません。また起伏のある路面では衝撃を丁寧にいなしながら、涼しい顔で走り抜けますから、ここは都会派SUVオーナーにとっては大きなセールスポイントになるでしょう。

さてもう一点、C3エアクロスSUVにとって強烈な売りとなる要素と言えばスタイルとファッション性だと思います。まず、フロントデザインを見てみると独特の存在感はありますが、決してワイルドで押し出し感の強いタイプではないと思います。ベースとなっているC3を始めとした、最新のシトロエン顔で、どこか癒やし系。それでもフロント下部には少しばかり大げさなプロテクターがあったり、車高が高くなっていてSUVの佇まいとして成立しています。

さらに目を引くのがヘッドライト周りやドアミラー、ルーフレールやCピラーに施されたアクセントカラーが差し色効果を発揮しています。全体としてポップな感じであり、泥道で汚すのが少々はばかられるような表情です。またアクセントカラーはインテリアのシートや吹き出し口などに採用され、デザインとしての連続性を感じさせてくれます。

エクステリアにもキャビンにも効果的なアクセントカラーが使われ、差し色効果でポップな雰囲気に仕上がっている

ちなみにストライプ状に入っているCピラー部分ですが、ポリカーボネート製のリアクオーターウィンドウで、視認性の向上を考えています。視認性を上げたいならストライプ自体入れなくていいだろう、とは考えませんでした。あくまでも見た目、楽しいスタイルが少し優先する辺りはいかにもシトロエン的です。このスタイル、リゾートでもいいのですがひょっとしたら南青山や丸の内辺りのポイントにおいても似合いそうです。これこそC3エアクロスSUVにとっての強みなのかもしれません。

ブランド認知度を上げるための強力な存在

実はシトロエンというブランド、他の欧州車ばかりか、同じフランスのプジョーやルノーと言ったブランドよりも認知度は低いのが現実です。ところがシトロエンは1922年から日本で販売が開始されたと言いますから、すでに100年近い歴史をもつ、身近なブランドのはずです。

常に“デザインでも技術でも革新的”という印象を一部の人には残してきたのですが、いかんせん走り回っている台数が少ないのです。最近の状況を見ても2018年度の販売台数ではシトロエンが3,655台で輸入車ランキングでは18位。プジョーの9,986台(11位)、ルノーの7,371台(12位)と比べてもけっこう水をあけられている状況ですが、ここ数年、微増を維持しています。シトロエン本来の魅力、とくにデザインが認められてきたことと、インポーターの販売強化策によるところが大きいと思います。

スペック的には非力に見えるが小気味よく回るエンジンで力不足を感じる場面は少なかった

その主役の一つとなるがBセグメントのC3と、このC3エアクロスSUV辺りでしょう。確かにこのマーケットにはデザイン的にもパフォーマンス的にも強力な個性を持つライバルがひしめいています。そこにシトロエンは259万円の「フィール」と装備が充実し、前述のオフロードにも対応できるという23万円のオプションを装備できる「シャイン」(274万円)という2グレードで展開してきました。

先にデビューした兄貴分のSUV、C5エアクロスSUVと共にSUV人気の中を駆けぬけようとしています。街角の佇む姿の方がしっくりくる印象のデザインは、毎日使うことが楽しくなるような仕上がりだと思います。ファッション誌の撮影などで使われるようになると、さらに街ですれ違うことが多くなりそうな1台です。

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