社説:ゲノム食品 許されない「見切り発車」

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 消費者の不安や懸念を置き去りにし、これでは「見切り発車」といわざるを得ない。

 狙った遺伝子を破壊して特定の機能を失わせたゲノム編集食品の流通や販売が、あさって10月1日から解禁される。血圧を抑える成分が多いトマトや芽に毒のないジャガイモ、肉厚なマダイなどの開発が進んでおり、早ければ年内にも食卓に並びそうだ。

 政府はゲノム編集技術で品種改良した食品の販売に向け、届け出制度を導入するが、特定の遺伝子を壊す手法なら安全性審査は不要だ。ゲノム編集食品であるとの表示も義務付けない。

 ゲノム編集は生物の遺伝子を改変する技術の一種だ。簡便な手法の開発に伴い、従来の遺伝子組み換え技術より効率よく高い精度で遺伝子を書き換えることができ、医療や農林水産分野での応用が期待されている。

 その技術を使った食品開発は昨年6月に政府が決定した「統合イノベーション戦略」に盛り込まれ、議論が加速。厚生労働省や消費者庁などが安全性や流通ルールの検討を急いでいた。

 厚労省によると、遺伝子組み換え食品と同様、遺伝子を外から組み込む場合は厳格な安全性審査を求める一方、遺伝子を切り取って機能を失わせるだけなら規制の対象外とする。ゲノム編集食品の大半が届け出だけで販売が認められるという。

 精度が高いゲノム編集ならば想定外の変化や異常は起きにくく、安全面は従来の品種改良と同程度のリスクというのが、その理由だ。だが新技術ゆえに未知の部分も多い。予期せぬ変異は生じないと断言できまい。

 ゲノム編集の方法や新たなアレルギー原因物質の有無などを届け出る必要があるものの、違反しても罰則はなく実効性に疑問符が付く。ゲノム編集食品の開発・流通を促進させるためとはいえ、拙速過ぎないか。

 消費者はどう受け止めているのか。厚労省の意見公募に約700件が寄せられ、大半が「長期的な検証をしてから導入すべきだ」といった懸念だった。

 消費者庁の姿勢も疑問だ。流通・販売の解禁に際し、検査が難しいことなどを理由にゲノム編集食品であるとの表示を義務付けない方針を決めた。

 表示がなければゲノム編集食品かどうか分からず、消費者は知らないうちに口にする恐れがある。不満が出るのは必至だろう。消費者目線で対応すべき官庁として存在意義が問われる。

 ゲノム編集によって有用な品種改良が短期間で可能になる。消費者にも利点は多い。しかし食の安全・安心へのこだわりは根強い。欧州連合(EU)でも昨年、ゲノム編集食品も規制の対象にすべきとの司法判断が下された。

 不安を解消しないまま、ゲノム編集食品の流通が既成事実となる事態は避けたい。少なくともゲノム編集を施したとの明示は欠かせない。情報を正しく消費者に知らせ、安全で安心な食品を「選ぶ権利」を確保することが重要である。

 拙速に解禁しても消費者に受け入れられない。遠回りであっても法整備やルール作りを通じ、新しい技術への理解を深めることこそ早道といえよう。