2年で台数11倍、「ノッポなタクシー」が急に普及し始めたワケ

最近、頻繁に見かけるようになった、ちょっと背が高いハッチバック型のタクシー。2013年にトヨタ自動車が発売した、その名も「トヨタジャパンタクシー」というタクシー用に開発された車両です。

日産自動車も同様の車種を製造していますが、このトヨタジャパンタクシーの市場占有率は9割に迫るといわれています。街中で見かけるこのタイプの車両の大半は、これだといって良いでしょう。

よく見かけるようになったのは、実際にものすごい勢いで普及しているから。セダン型の車両がタクシー用に普及し始めたのは1960年代前半ですから、かれこれ60年近くタクシーといえばセダンでしたが、4年後にはこのタイプにほぼ入れ替わるとすら言われているのです。なぜそんな事態になっているのか、ひも解いてみます。


「ノッポなタクシー」の特徴とは?

ドアはスライド式で、天井が高い一方、床は低いのが、トヨタジャパンタクシーの特徴。スロープも付いていますので、車いすに乗ったままで乗降できます。

天井につり革状のグリップが取り付けられているため、車いすからシートに移るのも楽なのだそうです。車内はかなり広く、大きなキャリーバックも楽々積めて、足元に置くことができます。

セダン型だと、後ろのトランクを開けて荷物を積むわけですが、重くて大きなキャリーバッグは持ち上げるだけで一苦労。荷物の多い外国人旅行者だと、シートには3~4人座れても荷物は人数分を積めない場合がしばしばですから、ドライバーの負担も大きく軽減できます。

燃料はLPG(液化石油ガス)とガソリンのハイブリッド型なので燃費が良く、タクシー会社にとっても導入インセンティブは大きい作りになっています。

都内では2年で75倍に急増

普及の勢いも、かなりのもの。全国の法人のハイヤー・タクシー会社の業界団体である一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)によれば、2017年3月末時点では、このタイプの車両は全国で1,048台しか走っていませんでした。

それが昨年3月末時点では4,772台へと4倍以上に増え、今年3月末時点では1万1,872台。たった2年間で11倍に増えたことになります。特に東京都は83台(2017年3月末)→ 2,008台(2018年3月末)→ 6,263台(2019年3月末)と、爆発的な伸びを示しています。

この統計は法人タクシーだけの統計で、業界団体が異なる個人タクシーの数値は含まれていません。しかし、全国でタクシーの総台数は約22万台、このうち個人タクシーは約3万5,000台だそうですので、趨勢を読むうえでは非常に参考になると思います。

全国19万台の法人タクシーのうち、まだ6%しかこのタイプの車両を導入していないともいえる一方で、この急速な伸び率は見逃せません。

なぜ急速に普及が進んでいるのか

なぜそれほど急速に普及が進んでいるのかというと、政府が導入の旗を振っているからです。このタイプの車両で、一定の要件を満たすと、ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)の認定を受けることができます。

UDタクシーとは、国土交通省のホームページによれば「健康な方はもちろんのこと、足腰の弱い高齢者、車いす使用者、ベビーカー利用の親子連れ、妊娠中の方など、誰もが利用しやすい“みんなにやさしい新しいタクシー車両”であり、街中で呼び止めてもよし、予約してもよし、誰もが普通に使える一般のタクシー」とあります。

とはいえ、特別仕様の車両なので価格は300万円以上しますので、タクシー会社としてもそうそう簡単に入れ替えはできません。そこで、政府が用意したのが補助金です。

一定の手続はありますが、UDタクシーに認定された車両を導入する際には、1台当たり国から60万円の補助金が出ます。このほか、各都道府県によって差はありますが、東京都を例にとると、国からの補助金に加えて40万円、合計100万円の補助が出るのです。

実はこの補助金の制度、東京都の場合は今年5月に大幅な改正がされました。従来は国から60万円の補助を受けると、都からは補助を得られなかったのですが、今年5月15日以降は国の補助金に加えて40万円まで出してもらえることになったのです。

こうした事情から、今年5月15日以降は普及がさらに加速している可能性が高いといえます。そのせいかもしれません。ドアに五輪マークが入ったタイプの「トミカ」も今年発売になっています。

スライド式で期待される法令順守

このタクシー車両に普及によって期待されることがあります。タクシーは当たり前のように横断歩道上で乗客の乗降をさせています。信号待ちをしていると目の前にタクシーが滑り込んできて、行く手を阻まれたという経験がある人も少なくないのではないでしょうか。

タクシーを拾う人が、横断歩道上でタクシーを止めたために行く手を阻まれるという例も多そうです。ビジネスマナーの研修ではタクシー車内での乗車位置は教えますが、タクシーの止め方までは教えませんから、信号待ちをしている人の邪魔になる止め方をしているという自覚がある人はほとんどいない印象です。

タクシーに行く手を阻まれているうちに信号が変わってしまい、横断する機会を失うお年寄りも、たまにですが見かけます。このため、筆者がタクシーに乗車した時は、横断歩道上にかからないように停車してほしいと頼むのですが、ほとんどの場合、ドライバーは嫌がります。

セダン型だと、ドアを開けた時に植え込みやガードレールにドアが触れて傷がつくのが嫌なのです。しかし、横断歩道上はいかなる理由があっても駐停車禁止ですから、タクシーが当たり前のようにやっている行為は道路交通法違反です。

この点、UDタクシーのドアはスライド式ですから、横断歩道上ではない場所でドアを開けても、ガードレールなどでドアが傷つく心配はありません。これを機に、タクシー会社には横断歩道近辺での停止マナーを考え直してほしいと考えます。

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