日本代表の活躍だけじゃない、「ラグビーW杯」が盛り上がる納得の理由

9月20日から始まった、ラグビーのワールドカップ(W杯)。アジアでは初の開催となった今大会の試合会場には連日、多くの観客が訪れ、大声援を送っています。

日本代表は大会の開幕を飾った20日のロシア戦で30対10と勝利を収めると、苦戦が予想された27日の第2戦、アイルランドとの試合では、優勝候補を相手に一歩も引かない戦いを見せて19対12と見事に撃破。前回2015年のイングランド大会で南アフリカを破ったのに続き、またも強豪を倒しました。

大会1週間を終えての観客動員は42万人余り。1試合当たりの動員数は約3万5,000人を数えます。大会が大いに盛り上がっているのは、もちろん日本代表の大活躍が大きな要因ですが、理由はそれだけではありません。


アイルランド戦の勝利で世界に衝撃

前回大会で日本が撃破した南アフリカ、そして今回のアイルランドは、いずれも北半球と南半球の強豪10ヵ国からなる「ティア1」と呼ばれるグループに名を連ねています。日本は格下の「ティア2」の位置付けですから、「ティア1」のチームに対して立て続けに勝利を収めたことで、海外にも衝撃が広がっています。

30日のオーストラリア対ウェールズ戦。オーストラリアを29対25で下した試合後の会見で、ウェールズのウォーレン・ガットランド・ヘッドコーチは日本がアイルランドを破ったことについて聞かれ、こう答えました。

「大会ではウルグアイも(格上とみられていた)フィジーに勝った。ウェールズはこのアップセット(番狂わせ)のシナリオにかかわりたくないが、日本のラグビーの発展にはすばらしいこと」

オーストラリア代表のアダム・アシュリークーパー選手も「日本の勝利はこの大会にとっても大切なこと。同じチームでプレーした選手も日本代表に選出されており、誇りに思う」と、日本の勝利を称えました。

アシュリークーパー同選手は日本のラグビー最高峰、トップリーグのチャンピオンの神戸製鋼コベルコスティーラーズに2年間在籍していました。同国代表に選ばれるのは4大会連続。同日のウェールズ戦の先発メンバーに名を連ね、トライを挙げるなど活躍しました。

会場での演出にオールドファンも歓喜

ホスト国の快進撃は大会を大いに盛り上げています。試合会場はほぼ満員。国際色も豊かです。オーストラリア対ウェールズ戦が行われた東京・調布の東京スタジアムには、オーストラリア代表「ワラビーズ」のチームカラーである黄金色のジャージーを身にまとった外国人ファンの姿が目立ちました。

特に印象に残ったのが、アイルランドのファンです。22日のアイルランド対スコットランド戦の試合前には、アイルランド代表チームが1995年W杯から斉唱する南北統一チーム・アイルランドの象徴的なアンセム、「アイルランズ・コール」の歌声が場内に響きわたりました。試合中には同国でおなじみの応援歌、「The Fields of Atehnry(ザ・フィールズ・オヴ・アセンライ)」の合唱が選手を後押しします。

試合会場の東京スタジアム

海外からの観戦客を意識した演出も場内を沸かせます。試合の中断時にはアップテンポの音楽が流れたかと思えば、キックオフでは場内の大型スクリーンに歌舞伎役者のキャラクターが登場し、「いよーおっ!」の掛け声。

ハーフタイムには「カントリーロード」「スイート・キャロライン」といった名曲とともに歌詞が映し出され、観客の大合唱がスタジアムを包みます。40年以上前に楕円球と戯れ始めた筆者のようなラグビーのオールドファンには、隔世の感を禁じえない応援風景です。

<冒頭写真:森田直樹/アフロスポーツ>

ビールの飲みぶりも半端ではありません。試合前から飲んでラグビー談議に花を咲かせ、観戦中もビール。そして、試合後もレストランやコンビニエンスストアなどの前で一献傾けながら祝勝会や残念会を行い、ホテルへ帰る電車にもビール片手に乗り込んで気勢を上げる……。

これがアイルランド、イングランド、オーストラリア、ウェールズなど、パブの文化が根付くラグビー強豪国流の観戦スタイル、といっても過言ではないでしょう。オーストラリア対ウェールズ戦の取材からの帰途、乗車した京王線の車内には、破れたオーストラリアファンの高らかな歌声が響いていました。

オーストラリア戦に勝利して、祝杯を挙げるウェールズのファン

「ラグビーファンの1試合当たりのビールの消費量はサッカーファンの6倍」――。W杯の組織委員会は大会前、試合会場の各自治体などに品切れを起こなさないよう、注意喚起していました。海外からの観戦客の行動を見ると、「6倍」という数字も決して大げさではないように思えます。

スタジアム外でも広がる熱狂の渦

外国人ファンが足を運ぶのは、スタジアムだけではありません。全国の開催都市12の試合会場の近くに設置された入場無料のファンゾーンも人気のスポットです。大型のスクリーンが設けられて試合をライブ観戦できるほか、トップリーグの現役選手やかつての名プレーヤーらによるトークショーも開催されています。

日本対ロシア戦があった20日に東京スタジアムに近い東京・調布駅前にあるファンゾーンを訪れたのは約1万1,500人。翌21日に足を運んでみると、同スタジアムで開催されたアルゼンチン対フランス戦の開始前に立ち寄る両国のファンであふれ返っていました。

東京・調布駅前のファンゾーンではアルゼンチンファンの姿が目立った

インタビューに応じてくれたフランス・パリに住む男性(42)は、仕事の合間をぬっての観戦といいます。「注目プレーヤーは20歳のロマン・ヌタマック。試合は23対15でフランスが勝つよ」(実際には23対21でフランスの勝利)。

むろん、ファンゾーンでもビールが売られています。調布の会場では、大会のワールドワイドパートナー(スポンサー)であるオランダのビール、ハイネケンの売り場に長い列ができていました。

今回のW杯はラグビーの新たな楽しみ方を教えてくれているような気がします。決勝戦は11月2日。ファンにとって「至極の44日間」はまだ序盤です。

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