世話をしても相続権はなし、身寄りのない「いとこ」の老後

互いに結婚をしていない、二人暮らしの高齢の兄妹。二人が頼りにしているのは、年の離れた「いとこ」です。

しかし、二人の老後の面倒を見ても、いとこには相続権はありません。この先、兄妹が亡くなり、相続人が誰もいないとなると、その財産はどこへ行くのでしょうか?

また「その日」を迎える前に、自身の判断力があるうちに準備すべきこととは何でしょうか?


身寄りのない高齢兄妹、老後のお世話はいとこ頼み?

「高齢のいとこ、二人の今後が心配です」と相談に訪れたのは、持田昌希さん(54歳・仮名)。昌希さんには、父親の姉の子どもにあたる、岡田健次さん(70歳・仮名)と淑子さん(65歳・仮名)の二人のいとこがいます。

健次さんと淑子さんは、お互いに結婚しておらず兄妹二人暮らしです。今は二人とも心身ともに元気ですが、すでに昌希さんを頼りにして身の回りのお世話をお願いしているといいます。

昌希さんが気になるのは、今後二人の財産管理がどうなるのかについて。ただ、昌希さんからお二人に、万が一のことがあった場合の話を切り出すことができなくて、どうしたらいいのかとお困りでした。

例えば、子どもから「遺言書やエンディングノートを書いてほしい」などと言われると、親としては気持ちのいいものではありません。親からすると、亡くなるのを待っているのかと寂しくなるのでしょう。それは、いとこも同じことです。

今回は、いとこのお二人に「このまま何もしないとどうなるか?」をお伝えするお手伝いをさせていただきました。

長生きをしても、10年間前後は要介護状態の可能性

「平均寿命」と「健康寿命」をご存知でしょうか?

平均寿命とは、その年の死亡率がこのまま変わらないと仮定した上で、その年に生まれた子どもが、その後何年生きるか推計したもの。例えば「2018年に生まれた0歳の赤ちゃんが、今の死亡状況が変わらなければ、平均的に生きられるであろう年齢」です。「2018年に亡くなった人の平均年齢」ではありません。

健康寿命とは、健康上の問題がない状態で日常生活が制限されることなく、自立して生活できる期間のこと。要支援や要介護状態にならずに生活できるのが何歳までか、ということを表しています。

2016年時点での平均寿命は、男性80.98才、女性87.14才。健康寿命は、男性72.14才、女性74.79才。

この平均寿命と健康寿命との差は、要支援・要介護になる期間のこと。男性の差は8.84年、女性は12.35年。女性のほうが長いのです。平均寿命は伸びていますが、長生きをしても10年前後は自立した生活ができず、病気になったり介護が必要な日々を過ごすことになります。

この間に、認知症になる可能性があります。認知症と共に生きる高齢者の人口は増加傾向にあり、2025年には高齢者の5人に1人、国民の17人に1人が発症すると予測されています。

お二人の年齢からすると、今後認知症になる心配があります。今はしっかりしていて何の問題もなくても、認知症になると判断能力がだんだん衰えていきます。時間や場所、食事をとったかどうかもわからなくなっていきます。

認知症で預金口座が凍結、生活するには成年後見人が必要だけど…

認知症になったらどうなるのでしょう?

金融機関は本人が認知症と分かった時点で預金口座を凍結します。本人の預金は引き出しできなくなるのです。では、どうやって生活していくのか。

成年後見制度を利用して、預貯金の管理をする人(後見人)をおいて財産管理をすることになります。成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類があります。

任意後見制度は、本人が判断能力を有している間に、将来、認知症等で自己判断力が不十分になった時に備えて財産管理等をしてもらう人(後見人)を自ら事前の契約によって決めておく制度です。その場合、後見監督人という専門家と一緒に、本人の財産や権利を守っていきます。

法定後見制度は、本人がすでに認知症等で判断能力が不十分な場合に、親族等が家庭裁判所に申し立てをすることで、家庭裁判所から選任された人が本人に代わって、財産や権利を守り、本人を法的に支援する制度です。家族が選任されることもありますし、専門家(弁護士・司法書士等)が選任されることもあります。

注意していただきたいのは、後見監督人や専門家が選任された場合の法定後見人は、仕事として成年後見を行うので、本人が亡くなるまで報酬が発生するということ。

「いとこ」に相続権はなし!残された財産はどこへ

健次さんと淑子さんのお二人は、未婚のため子どもがいません。どちらかが亡くなると、残された一人に財産が相続されます。問題はその後です。

残された一人が亡くなると、相続人はいなくなります。面倒を見ていた、いとこの昌希さんには相続権がありません。このまま何もしないと、遺された財産は、最終的に「国」のものになることをお二人にお伝えしました。

お二人は、いまお世話になっている昌希さんに、今後もお世話をお願いしたいし、財産も昌希さんに受け取ってもらいたいという意思をお持ちでした。よって、お二人の判断能力がなくなった場合に備えて、生前から昌希さんが財産管理をできるように、委任契約及び任意後見契約を公正証書で作成しました。もうひとつ、お二人が亡くなった後の遺された財産は昌希さんに遺贈する旨の遺言書も公正証書で作成しました。

兄妹お二人が、「これからのことを、いとこの昌希さんにお願いすることができ安心して過ごせます」と安堵の表情でお話しされていたのが印象的でした。

長生きできる時代だからこそ、健康なうちに準備を

現在、世界最高年齢116歳の女性は日本人です。今や、長生きできる世の中になりました。その分、判断能力が衰えた際の財産管理をどうするのか、事前に準備しておくことが必要です。

体を壊したり、気が弱くなってきたときに、大事なことを決めることはできません。心身ともに健康なときに将来の準備をすることをおすすめします。

心の余裕があるときに、まずは「何もしないとどうなるのか」を相続に精通する専門家から聞くことから始めましょう。

<文:行政書士 細谷洋貴>

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