【世界から】NYでわき起こる「大型ワイン店 NO!」

ロビイスト団体「メトロ・パッケージ・ストア・アソシエーション」が開いた反対運動決起集会の様子。アジア系移民の多いフラッシング地区という土地柄もあって、アジア系のオーナーが多く参加していた(C)Kasumi Abe

 地元もしくは住んでいる街に、誰もが知る大型チェーン店やショッピングモールが華々しくオープンし、連日大盛況。その影響で、昔ながらの小さな店の客足は減り廃業に追い込まれてしまう―。このようなことは、読者の周囲でも珍しくないのではないだろうか?

 米国でも同様の問題がある。例えば、筆者が住むニューヨーク市では「ワインショップ戦争」が勃発している。

▼「ワイン業界のウォルマート」

 その場所は同市クイーンズ区。日本人にもよく知られるマンハッタン島の東方に位置して、同市内でも特に移民の多い土地として知られている。中でも、クイーンズ区北端にあって近くには大リーグのニューヨーク・メッツの本拠地「シティ・フィールド」があるフラッシング地区は中国や韓国からの移民が多く住んでおり、彼らが営む個人経営のレストランや商店などが多い。

 この地区に目をつけたのが「ワイン業界のウォルマート」との異名を持つ、大手ワインストア「トータル・ワイン・アンド・モア」。同社は米メリーランド州で1991年に創業してから、およそ四半世紀で全米に190を超える店舗を展開するまでになった巨大チェーン店だ。これだけ多くの店舗を擁しながら、ニューヨーク市内にはいまだ店がない。同市内からもっとも近い店舗と言えば、同じニューヨーク州のロングアイランドか、お隣のニュージャージー州やコネティカット州となる。

 米国での酒類販売は酒類管理法に基づき、州ごとに認可される仕組みになっており、ニューヨークではニューヨーク州酒類局の認可を得なければならない。フラッシング地区にある延べ床面積約2787平方メートルの大型空き店舗に目をつけた同社は悲願であるニューヨーク市進出を果たそうと、今年8月に酒類局へ販売免許の申請書を提出し受理された。しかし、地元小売店のオーナーたちがすぐさま、この計画に対する猛反対の声を上げた。

▼ロビイストらによる決起集会

 9月16日、フラッシング地区にある「シェラトン・ラガーディア・イースト・ホテル」に地元のワインショップ経営者や販売代理店らが集結し、出店計画反対運動の決起集会が行われた。ロビイスト団体「メトロ・パッケージ・ストア・アソシエーション」の代表らが陣頭指揮を執り、活動においては礼儀正しい態度で一致団結する重要性などを確認し合った。

フラッシング地区にはアジア系の店が多い。行列ができる飲食店があるなど、どこも人気だ(C)Kasumi Abe

 小売店主らの動きに議員らも賛同している。フラッシング地区選出のロン・キム州議会議員は、地元メディアを通して「巨大チェーン店が価格を大幅に引き下げて市場を独占すると、ほそぼそと営業している小規模小売店は価格競争で太刀打ちできず、その多くが閉店に追い込まれるだろう」との懸念を明らかにした。

 昨年11月に行われた米中間選挙のニューヨーク州下院選で勝利し、女性で史上最年少の下院議員になったアレクサンドリア・オカシオコルテスさんも同社のニューヨーク市進出に猛反対している。オカシオコルテスさんは「この地区の経済は、元からの住民と移民によって興された小規模小売店で活気がもたらされている」とし、大企業の進出による地元経済の〝エコシステム(生態系)〟に与える混乱を懸念した。オカシオコルテスさんは昨年、アマゾンが第2本社の候補地としてニューヨーク市を選んだ際にも反対派に立ち、進出阻止に尽力した人物だ。今回どれほどの影響力を与えられるか、期待が寄せられている。

▼雇用創出などのメリットも

 巨大小売りチェーンにとってニューヨーク市への進出は鬼門だ。世界27カ国におよそ1万1300もの店舗を持つウォルマートでさえ、小規模小売店の団体などから反対運動が起こっており、いまだに出店を果たせていない。

 一方、大企業の進出によってもたらされるメリットがあることは否定できない。具体的には、消費者がより購入しやすい価格帯を実現できたり、大量の雇用を生んだりといったものだ。実際のところ「トータル・ワイン・アンド・モア」の進出により、170人以上の雇用創出が予想されており、それを支援したいとする地元議員もいる。

 同社からは「地元店とうまく共存しながら業界を盛り上げたい」という前向きなコメントが出ている。批判や反対を受けながら、巨大企業が大都市部にどのように〝忍び寄る〟のか。はたまた、撤退を余儀なくされるのか? 一人の消費者としても注目していきたい。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、安部かすみ=共同通信特約)

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