BBC会長、司会者の「トランプ批判」は指針違反にあたらず 当初の判断を覆す

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英BBC会長のトニー・ホール卿は9月30日、朝の情報番組「ブレックファスト」司会者のナガ・マンチェッティ氏による、ドナルド・トランプ米大統領への批判的なコメントについて、編集指針違反とするには根拠が「不十分」だと述べ、当初の判断を覆した。

パキスタン系のマンチェッティ氏は、今年7月にトランプ大統領が、自分を批判する有色人の女性下院議員に対して、「もといた国へ帰れ」といった主張を繰り広げたことを報じた際、大統領の発言は「人種差別」などと批判した。BBCの苦情対応ユニットは9月27日、同氏が「編集指針が認める範ちゅうを逸脱」したとして、視聴者からの苦情内容を一部認めると説明した。

この3日後、ホール会長はBBCのスタッフ全員にメールを送信。「あなた方の多くから、苦情対応ユニットの判断について、個人的に精査するよう求められました。私は実際に精査しました。寄せられたすべての主張にじっくり目を通し、資料のすべてを見極めました」と、個人的に判断内容を精査したと明かした。

「私はさらに、視聴者からの苦情そのものについても検討しました。指針違反に当たるという判断は、彼女の発言の一部のみに対するものでした。こうした事態は多くの場合、バランスをとるのが大変で、難しい判断が必要になります」

「しかし今回の場合、ナガの発言の内容が、視聴者の苦情を部分的にも認めるべきものだったとは私は思いません」

「ナガは一切なんの処分も受けていませんし、これでそれがはっきり明らかになることを願います」

「人種差別は人種差別」

会長は、「人種差別は人種差別であり、BBCは人種差別の話題で中立を保ったりしません」と繰り返した。

さらに、ナガ・マンチェッティ氏を「きわめて優れた」ジャーナリストだとたたえた上で、編集や幹部陣に対して「将来的に、こうした議題をめぐる生放送中のやり取りについて、どのように管理していくかを話し合う」よう求めたと付け加えた。

「もといた場所へ帰れ」=「人種差別」

事の発端は、今年7月のトランプ大統領のツイートだった。トランプ氏は米民主党女性議員を念頭に、「政府がまったく完全にひどいことになっている国からもともと来た」のだから、「もといた国へ帰って、完全に壊れて犯罪まみれの地元を直す手助けをしたらどうだ」などと連続してツイートし、批判を浴びた。

トランプ氏は、誰を攻撃しているのか名指しはしなかったが、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員、ラシーダ・タリーブ議員、アヤナ・プレスリー議員、イルハン・オマール議員のことだと広く受け止められている。

マンチェッティ氏はこれについて、7月17日放送の「ブレックファスト」で取り上げた際、「私は有色人の女性として、もといた場所へ帰れと言われるたびに、こうした発言は人種差別に深く根付いたものだと感じてきました」と発言した。

さらに、「今ここで誰かを非難はしないけど、特定の表現が何を意味するのかは、分かるものです」と述べた。

共同司会者のダン・ウォーカー氏が「これは、トランプ氏が自分の地位を固めるための、周到な戦略のように思える」と述べると、「関心を集めるためだけに使う言葉ではない(中略)責任の伴う地位にあるのだから。まあ、私は私見を述べるためにここにいるわけではないんですが」とマンチェッティ氏は付け加えた。

視聴者の苦情

このスタジオでのやり取りについて、視聴者1人からBBCに苦情が寄せられた。苦情は、マンチェッティ氏とウォーカー氏、両司会者に対する内容だったものの、苦情対応ユニットは、苦情処理の第三段階と最終段階では、マンチェッティ氏のみを対象にしていた。

BBCは声明で、同局の編集指針では「発言した個人について、あるいはその動機について、BBCジャーナリストが私見を述べることが(中略)認められていません。今回これに当たるのが、トランプ大統領に関する発言です。視聴者からの苦情内容を一部認めたのは、こうした理由からです」と説明していた。

マンチェッティ氏を支持する声

黒人俳優やテレビ出演者ら数十人が、BBCに対し判断の覆しを求めて声を上げるなど、マンチェッティ氏には、幅広い支持が集まった。

英コメディアンのサー・レニー・ヘンリーやジーナ・ヤッシャーなど合わせて44人の著名人は27日、BBCに対して判断を再考するよう求める書簡を公表した。書簡の作成にあたった英作家アフア・ハーシュは、「この判断は人種差別的な意見を正当化している」と述べた。

BBCは当初、この書簡は「編集指針や、それがどのように適応されるのかに対する誤解に基づいた」ものだと反論していた。

BBC局内からも批判が

一部のBBCのジャーナリストも、苦情対策ユニットの判断を非難するツイートを投稿した。

男女の賃金格差に抗議してBBC中国編集長を辞任したキャリー・グレイシー氏はツイッターで、「帰れ」を人種差別と捉えるBBCの複数のジャーナリストに「不安」を与えたと述べ、同局に対し判断理由を説明するよう求めた。

「ナガを支持する」

一方、ツイッターでは「IStandWithNaga」(私はナガを支持する)というハッシュタがトレンドとなり、サジド・ジャヴィド財務相や野党・労働党のジェレミー・コービン党首を始め、政界からも支持を表明するメッセージが集まった。

ホール会長による判断撤回に先立ち、100人以上の英下院議員は30日、苦情対応ユニットの判断について議論するため、会談を行うよう会長に求める書簡に署名した。

判断の経緯の考察や、指針見直しを

英政府の平等人権委員会(EHRC)委員長を務めていたトレヴァー・フィリップス氏は、判断の撤回は「英断」だとした一方で、BBCはこの状況がなぜ「不十分に」扱われたのかを考察し、ジャーナリストに対する指針を見直し、マンチェッティ氏に謝罪すべきだと述べた。

「BBCはいまだにマンチェッティ氏のことを、1分あるいは2分ほど、同局の指針をやや逸脱した人物として扱っているようだ。これは許されていることなのに。報道において、自分の知識や経験やバックグラウンドに基づく見識を示すという、ほかのジャーナリストがしているのと同じことを、マンチェッティ氏がすることを同局は許せないでいる」

ハーシュ氏はツイッターで、当初の判断が覆ったことは「よかった」が、「なぜBBCはこういった対応をして国民を惑わせたんだ?」と述べ、そもそもどうやってこんなことになったのか疑問を投げかけた。

複数の放送局による公開書簡に署名した、英チャンネル4司会者のクリシュナン・グール=マーシー氏は、「お粗末な勝利だ。BBCが今回の件から教訓を得られることを、今は祈ろう」とツイートした。

(英語記事 BBC reverses decision on Naga Munchetty complaint