似非の国の仕業

 うわべはそれらしくて、実はそうでないものを「似非(えせ)」という。どんな社会にも似非はあるに違いないが、かの国のやることは、何くれとなくその2文字が当てはまる▲北朝鮮が米国と実務レベルで協議すると言ったのは1日で、中断していた非核化交渉が再開する見通しとなった。その矢先、「北」はいきなり弾道ミサイルを発射した。島根県沖に落下したとみられる▲実務協議をすることで「米朝関係の発展が加速するのを期待する」と「北」は表明していた。誠心誠意の言葉と思わせておいて、それは名ばかりの似非にすぎないと白状するのと同じだろう▲きのう発射したのは、中距離ミサイルに相当するとみられる。米国はこれまで短距離ミサイル発射はとがめずにいたが、中距離ならばどう出るか、試されているようでもある▲ミサイルが落下したとみられる海域は好漁場らしく、漁業者は不安と怒りを覚えている。日本政府は「北」のミサイル技術の向上を警戒するが、日韓対立がかつてないほど激しい折、日米韓の安全保障のスクラムもおぼつかない▲似非とは、荒々しい賊徒を表す「荒賊(えしもの)」の「えし」が転じたと一説にいう。非核化の協議に乗ると言いながら戦力強化の手を緩めない。そんな脅しや挑発は「えしもの」の仕業というほかない。(徹)

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