アナリストの視点「爆買い終焉、化粧品市場はどうなるか」

2019年、化粧品市場の潮目が変わった。特に影響を与えたのは、中国が18年8月31日の第13期全国人民代表大会常務委員会第5回会議で可決し、1月1日に施行した「EC法(電子商取引法)」である。電子商取引経営者の登録義務、知的財産権に関する保護義務、法的責任などが明記され、日本国内での爆買いを支えていた購買代行業の動きがピタリと止まった。化粧品メーカー関係者は、次のように話す

「ドラッグストアにトラックを横付けし、500万円分、1000万円分の化粧品を買うシーンは、もう昔の話。中国政府の監視下で、グレーなビジネスは続けられない」

市場全体に重苦しい雰囲気が立ち込めるなか、韓国での日本製品不買運動、香港デモと米中貿易摩擦の長期化は、日本を含むアジア市場で稼いできた化粧品業界にインパクトを与えそうだ。化粧品業界・市場は、どうなるのか。有力アナリストの見解は次の通りである。

化粧品市場のトレンドをどう見ているか

角田律子(JPモルガン証券 株式調査部 マネジングディレクター シニアアナリスト)インバウンド消費が代理購買の業者かツーリストかの比率が各社とも違っているようで、それによってEC法の影響の受け方の度合いが、相当、違うという印象を受けています。資生堂は業者の比率が自己申告で2割ぐらいということですが、一般のツーリストが2桁以上の伸びを見せており、インバウンドの売り上げはネットで6%ぐらい伸びています。一方で、マイナスに転じているところも散見されますから、そこは業者の影響が出てきているのではないでしょうか。ただ、インバウンドを支えるプレミアム化粧品のスキンケアの需要はいたって旺盛。その傾向は、まだ続いていると見ています。

宮迫光子(ジェフリーズ証券 調査部 シニアヴァイスプレジデント)天候や為替の影響でトレンドが見えにくいというのが正直なところです。日本国内の消費自体は、私の感覚ではトレンドが変化している感じはしない。確かにインバウンドは伸びなくなっている。ただインバウンドは昨年まで爆発感が際立ったので、落ち込みは為替の影響もあると思うし、いまは堅調になったと捉えた方がいいのではないかと思っています。

佐藤和佳子(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 産業・企業リサーチ課 シニアアナリスト)インバウンドを含めた上昇率を見ると、昨年の4〜6月期というのは、インバウンド需要が高かった時期で、資生堂でもその恩恵を受け、日本事業の売り上げは30%以上の増収率でした。それが今年の4〜6月期はマイナス3.5%になった。これは明らかにインバウンドの減速が影響しており、売り上げモメンタムは低下している。また、これからのことを考えると、香港のデモ、日韓問題、為替(元安)など不安要素が多く、どうなるだろうと心配しています。

角田私も香港のデモの影響は注視しないといけないなと。一方、日韓問題については、サプライズなネガティブ要因がどのように出てくるかが、あまり想像できない。訪日観光客の国別の消費額を見ても、韓国人旅行客の支出は著しく低い。もともとベースが低いから、ポラティリティの要因にはならないのではないでしょうか。しかし、まったく想いもよらないところから、マイナス影響が間接的に出てくるリスクには注意したいと思いますね。

今後、どのような変化が起こると予測しているか

角田内需はそんなに強くはない。だから中国人のインクリメンタル需要をどれだけ取り込んでいくかということと、グローバルにブランドのスケールアップをどう図っていけるかが注目点だと思います。あとは中国でも日本の化粧品はプレミアムブランドと認知されてまだ間もない。だから韓国のプレミアムブランドと比較しても、まだまだ伸びしろがある。しばらくはこの成長は継続する環境であると思いますので、市場の期待に応えるような対応が不可欠でしょうね。

佐藤香港のデモ、米中貿易摩擦など不安材料は多い。直近では、新EC法の取り締まりの強化で中国の人気アプリ「RED」がダウンロードできなくなり、インフルエンサーが大勢削減されました。この影響でさらに代購の活動が冷え込み、インバウンド需要に悪影響があるのではと懸念しています。目先は心配材料が多い印象です。

宮迫目先はそうですが中長期的には伸びていく市場。企業はグローバルでいかに伸ばせるかが鍵だと思います。中国では地方都市の消費者をどう取り込んでいくのか各社の施策に注目したい。

佐藤そうですね。国内はGDP成長率も低いのであまり伸びない。日本人自身は、プレミアム嗜好ではないのも分かってきた。中国だけでなくても、東南アジアでも成長率が高い国の人々の需要をしっかりと獲得していくというのが、成長を継続するには何よりも重要。これからますます海外やデジタル、新しい技術で成長させることができるマネジメント力の高い企業と、従来の組織や、やり方に依存している企業とで、業績に差がついてくると思います。

※2019年9月7日発売「月刊 国際商業 19年10月号」有力アナリスト座談会からの抜粋

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