2019年(1-9月)「小売業」の倒産状況

 10月1日、消費税が10%に引き上げられたが、増税前から「小売業」倒産は増加トレンドだった。増税直前の2019年1-9月累計は918件で、前年同期(855件)から7.3%増で推移。1-9月比較では2年連続で前年同期を上回り、「小売業」倒産は減少から反転が鮮明になっている。
 倒産件数の水準は、2014年4月に消費税が5%から8%に増税後、駆け込み需要の反動で消費が停滞した2015年1-9月累計(913件)を上回っている。
 これまでの消費税引き上げは、4月実施のため単純比較はできない。だが、今回の「小売業」倒産の増加は、インバウンド効果の有無、資金力の格差、消費低迷、人手不足、インターネット通販の浸透など、様々な要因で競争力の弱い小・零細小売業に集中しているのが特徴だ。
 今回の消費税増税では、初めて軽減税率の導入や中小企業限定で顧客へのポイント還元など、政府は小・零細規模の小売業への影響を抑える政策を講じている。
 大手小売業は買い控えやポイント還元対策で値引きセールなどを実施し、小・零細小売業との競合が激しさを増している。

  • ※本調査は、「日本標準産業分類 小分類」における「小売業」の倒産を集計、分析した。

「小売業」の1-9月倒産は918件

 2019年(1-9月)の「小売業」倒産は918件(前年同期比7.3%増)で、2年連続で増加した。
 月間100件のペースで発生し、年間(1-12月)では1,200件を上回る勢いだ。年間1,200件を超えると、2015年の1,211件以来、4年ぶりとなる。

原因別、販売不振(業績不振)が8割

 原因別では、「販売不振」が749件(前年同期比9.6%増)と、全体の8割(構成比81.5%)を占めた。次いで、赤字累積などの「既往のシワ寄せ」が50件(構成比5.4%)、事業上の失敗などの「放漫経営」が37件(同4.0%)で続く。

形態別、破産が約9割

 形態別では、消滅型の「破産」が816件(前年同期比7.2%増)で、約9割(構成比88.8%)を占めた。次いで、手形や小切手などの決済で半年間に2回不渡り(デフォルト)を出した「銀行取引停止処分」が45件(構成比4.9%)、「特別清算」が29件(同3.1%)、「民事再生法」が26件(同2.8%)の順。

2019年1-9月小売業 負債額別倒産状況

負債額別、1億円未満が約8割、大型倒産も急増

 負債額別では、1億円未満が723件(前年同期比4.9%増、構成比78.7%)で、小・零細規模が全体の約8割を占めた。一方、1億円以上も195件(同17.4%増、同21.2%)で、中堅規模以上の倒産も増加。このうち、10億円以上の大型倒産は19件(同46.1%増、同2.0%)で1.5倍増した。

小分類別、「写真機・時計・眼鏡小売業」が3倍増

 小分類別では、専門性の高い「他に分類されない小売業」が102件(前年同期比22.8%増、構成比11.1%)が最多。次いで、自動車小売業が99件(同21.4%減、同10.7%)、婦人・子供服小売業が81件(同1.2%増、同8.8%)の順。
 件数10件以上で増加率が最も高かったのは、「写真機・時計・眼鏡小売業」の17件(同240.0%増、同1.8%)。次いで、「その他の織物・衣服・身の回り品小売業」が47件(同95.8%増、同5.1%)と続く。

主な倒産事例

 マザウェイズ・ジャパン(株)(TSR企業コード:570991358、東京都江東区、登記上:大阪市中央区)は、子供服専門店「motherways」を展開していた。リーズナブルな価格帯で全国94店舗まで拡大し、2018年1月期は売上高83億円をあげていた。だが、消費低迷や低価格帯での競合が激しく、業績が悪化。粉飾決算で信用を糊塗してきたが、限界に達した。破産後、閉店セールは「3時間待ち」がSNSなどで拡散、話題となった。

産業別売上高推移、非上場「小売業」の売上高は突出して回復が鈍い

 約35万社を対象にした産業別の売上高推移(同一企業11年比較)では、リーマン・ショック前の2007年度を100とすると、非上場の「小売業」は100を1度も上回っていない。2018年度も75.3にとどまり、消費低迷、市場縮小が続いている。こうした状況を背景に、消費税増税が実施されただけに非上場の「小売業」への影響は決して小さくないだろう。
 一方、上場の「小売業」は、リーマン・ショック後も100を切ることなく好調を持続している。これは非上場「小売業」の顧客離れを大手が吸収し、インバウンド効果は大手に恩恵を集中していることを意味しているとみられる。

 消費増税で軽減税率が導入され、税率対応レジの導入は1台20万円、1事業者200万円の補助金などの支援策が打たれている。だが、小・零細規模の事業者には資金面だけでなく、システムや運営面で負担が増している。普段使い慣れないクレジットカードなどの「キャッシュレス」決済は、高齢者を中心にスムーズな利用に時間がかかっている。あるスーパー関係者は、「消費増税後は会計に時間がかかり、返金手続きも複雑で(顧客の)回転率が落ちている」と語り、レジや軽減税率の研修などの負担が経費増に繋がっていると苦悩を明かす。
 今回の消費税率引き上げは「駆け込み需要」期間が短く、反動は小さいとの見方も出ている。ただ、消費者心理(2人以上の世帯、季節調整値、内閣府調査)は9月まで12カ月連続で冷え込んでおり、小売業への消費増税の影響は不透明だ。
 ラグビーワールドカップやオリンピックなど、インバウンド効果への期待は大きいが、基本は都心部の大手が有利になっている。今回の消費増税は10月実施で、すぐにクリスマス商戦、正月商戦が訪れるため、早期に影響が出る可能性は低いだろう。だが、正月明けから増税の影響が本格化するため注意が必要だ。地域に貢献してきた小・零細規模の小売業は、消費落ち込みや人手不足など課題は山積しており、試練は当面続きそうだ。

出版業の倒産 年(1-8月)推移

© 株式会社東京商工リサーチ