EU 「前向きだが納得しない」 ジョンソン英首相の離脱協定案

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欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領に相当)は3日、ボリス・ジョンソン英首相が発表した欧州連合(EU)離脱に向けた新協定案について、「前向きだが納得はしていない」と話した。

トゥスク議長に加え、これまでに複数のEU幹部がこの協定案に疑問を呈している。

ジョンソン首相は新協定案について、「EU高官との間にできた亀裂に橋渡しをしようと真摯(しんし)に試みた」と発言。ジョンソン氏の欧州担当顧問を務めるデイヴィッド・フロスト氏はこの日から、EU側とブレグジット(イギリスのEU離脱)のこう着打破に向けた協議を開始した。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、EU指導者たちは、ジョンソン氏がさらなる交渉を望んでいるのか、それともイギリスでなお可能性のある総選挙に注力しているのか、政治の微妙な駆け引きを見極める立場にいると指摘している。

イギリスは10月31日にEUを離脱する予定だが、テリーザ・メイ前首相が取りまとめた協定は英下院で否決されている。このため現在、イギリスとEUの間には離脱に関する取り決めがない。

ジョンソン首相は新協定案の中で、メイ政権の協定で議論の焦点となっていた「バックストップ条項」の代替案を提示した。

バックストップとは、イギリスとEUとの間で通商協定がまとまらない場合に、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。

バックストップが発動すると、北アイルランドはブレグジット後もEU単一市場のルールに従うことになるため、ジョンソン首相を含む反対派は、EU離脱後もイギリスがなおEU法に縛られるとして反発している。

バックストップの代替案の内容は以下の通り。

  • 北アイルランドは残りのイギリスと同様、2021年からEU関税同盟を離脱する
  • 一方、北アイルランド議会の承認が取れた場合、北アイルランドでは引き続き、農産物などについてEU法を適用する。首相はこれを「アイルランド島の規制域」と呼んだ
  • この取り決めは理論的には恒久的なものだが、北アイルランド議会で4年に1度、継続の是非を問う
  • イギリス・EU間の税関検査は「非中央集権化」される。書類は電子で処理し、国境以外の場所での物理的な検査は「少ない数」にとどめる

アドラー欧州編集長は、この新協定では2つの境界線が引かれることになると指摘している。ひとつは北アイルランドとアイルランドの間、もうひとつはアイルランド海を挟んだアイルランド島とグレートブリテン島の間だ。

EU高官から懐疑の声

ブレグジット交渉に携わるEU高官からは、アイルランドに物理的な検問所が必要になること、EU単一市場が脅かされることなど、すでにこの案の問題が指摘されている。

トゥスク常任議長はツイッターで、「ブレグジットについて、イギリスとアイルランドとそれぞれ電話会談を行った。アイルランドのレオ・バラッカー首相にはアイルランドを全面的に支持する旨を、ボリス・ジョンソン英首相には、われわれは前向きだが納得していないと伝えた」と述べた。

ミシェル・バルニエ首席交渉官は欧州の外交官に対し、イギリスのバックストップ代替案には多くの疑問点があると話した。また、フロスト氏と会談すれば、イギリスとの今後の交渉について判断できるようになるだろうと述べている。

欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、イギリスは幾つかの点で前進したが、「やるべきことはまだある」と言明。この新案を受け入れても、検問の阻止といったバックストップで定められていた事項が満たされないと指摘した。

一方、欧州議会で離脱交渉を担当するヒー・フェルホフスタット氏は、この代替案は「機能しない」と話している。BBCの取材にフェルホフスタット氏は、新たな案は「古い案の見栄えを良くしただけだ」と述べた。

欧州議会のブレグジット委員会も先に、新案はこれまでにイギリスとEUが合意した内容に「まったく」合致していないとの声明を出している。

アイルランドのバラッカー首相は、離脱協定について新たな案が出たことは歓迎すると述べたものの、「さまざまな側面に不足がある」と指摘した。

特に関税同盟についての条項については、検問所のない状態で北アイルランドとアイルランドが別々の関税システムを持つ点に疑問があると述べている。

さらに、アイルランドやEUの関与なく、北アルランド議会に拒否権を与えている点についても疑問を呈した。

合意なし離脱の可能性は?

イギリス議会は9月、EUからの合意なし離脱を回避する通称「ベン法」を成立させた。

この法律では、首相は10月19日までに離脱協定の議会承認を得るか、下院から合意なし離脱の承認を取り付けなくてはならないと規定。

それができなかった場合、首相は離脱期限を10月31日から2020年1月31日まで延期するよう、EUに要請することを義務付けている。

しかし、ジョンソン首相はこの法律を「降伏法」と呼び、10月31日にブレグジットを強行する姿勢を維持している。

こうした中、スコットランドの最高裁に当たる民事控訴院は、ベン法はジョンソン氏に離脱の延期要請を強制できるのか、また、もしジョンソン氏がベン法を無視した場合、どのような刑罰を受けるのかの判断を迫られている。

この訴訟は、先にジョンソン首相による議会閉会を違法とした裁判を起こしたスコットランド国民党のジョアナ・チェリー議員などが起こしているもの。

(英語記事 EU 'open but unconvinced' by UK PM's Brexit plan